2020年8月20日更新
不妊治療のイマ②|治療のスタートは検査から
文・大嶺美幸(不妊症看護認定看護師)
不妊とは、「妊娠を望む健康な男女が避妊をせず性交しているにもかかわらず、1年経過しても妊娠しない状態」と日本産科婦人科学会で定義しています。不妊治療の第一歩が検査です。主体的に検査を選択することが大切です。
文・大嶺美幸(不妊症看護認定看護師)
2013年にWHO(世界保健機構)は、プレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)を提唱しています。妊娠計画においてもベースは心身の健康。それが、安心・安全な妊娠・出産、将来計画につながるとしています。プレコンセプションケアは、体の状態を調べる基本的な検査で、人間ドックなども該当します。妊娠を希望する・しないに関わらず、男女に受けていただきたい検査です。
あなた主体で決めていい
より踏み込んだ内容となる「ブライダルチェック」の対象となるのは、妊娠を希望する方。「一般不妊検査」の対象は、1年間妊娠しない方(35歳以上の方は半年)、または、疾患があるなど早めの受診が望ましい方です。
日本生殖医学会によると女性は30歳以降妊娠する力が低下し、35歳前後から流産率の増加が起こります。また、男性も加齢によって流産率の増加が報告されています。早めに検査を受けることで、客観的なデータで自身を知ることができ、今後の見通しを立てることや、相談先の確保につながります。
「ブライダルチェック」や「一般不妊検査」は男女それぞれに行われ、性交の回数や勃起障害、射精障害がないかなど、性に関するプライバシーの開示を伴うものや、苦痛を強いられる検査も多くあります。女性の方が種類も多く、ストレスはより高い傾向があります。
時には、高度な治療を要することや妊娠が難しいことが判明したり、原因が分からないことも。精神的に大きな負担がかかったり、パートナーとの関係に悪影響を及ぼしたりする可能性もあります。あらゆる可能性を想定し、それを踏まえて選択をしましょう。
「プレコンセプションケア」など 対象:将来妊娠を希望するかどうかに関わらず、自分の体を知ってケアをしたい人。 内容:腎機能や肝機能など体の状態を調べる。女性は子宮や卵巣を中心に、将来妊娠や出産に影響を与える病気がないかを調べる。 項目:身体計測、血液検査(貧血、肝機能、腎機能、糖代謝、コレステロール、※甲状腺ホルモン、※女性ホルモン)、尿検査(糖、たんぱく)、※子宮頸がん検査、 ※経腟超音「波(子宮・卵巣の病気)、※おりもの検査(性病)、※乳がん検査など。※は女性が対象。 |
「ブライダルチェック」など 対象:近い将来妊娠・出産を希望していて、自身の体を調べたい人。 内容:プレコンセプションケアの項目に、妊娠・出産を見据えた検査を追加。妊娠中に感染を起こすと胎児に重い合併症を引き起こす風疹の抗体検査などが入る。 項目:プレコンセプションケア+感染症検査や、より専門的な検査。風疹・麻疹、B型肝炎、C型肝炎性感染症、梅毒、HIVなどの検査。採血でのAMH(卵子の残数予測)検査。精子の数や運動率を調べる精液検査も。 |
「一般不妊検査」など 対象:なかなか妊娠しない場合に、その原因を調べる。 内容:月経周期に合わせて血液検査や超音波検査などで卵巣、卵管に問題がないか調べる。男性向けの検査も。 項目:子宮卵管造影・通水検査、経腟超音波検査(卵胞計測、排卵の確認、子宮内膜計測)。フーナーテスト(性交渉後の膣内の精子の状態確認)。子宮鏡検査(子宮内の状態観察)。AMH検査やホルモン検査で、卵巣機能の状態を確認する。精子の数や運動率を調べる精液検査も。*月経周期に合わせてホルモン値は変動するので、適切な時期に測る必要がある。 |
そのため、まずお伝えしたいのは、あなた主体で決めていいという「リプロダクティブヘルス・ライツ」の考え方です。すべてのカップル、個人が、社会に左右されず、自分らしく、自由に子どもを産む・産まないの選択や産む時期、子どもの数などを決められます。その中には、不妊治療を含めた生殖・性に関する情報と手段を得られる権利も含まれます。
例えば、病院を受診する・しない、検査を受ける・受けない、どの治療を受ける・受けない、治療を終える・終えない、すべてにおいて、あなたが決めていいのです。
情報を集めておく
そのためには、できれば受診前に検査の目的や種類を知っておくと、納得できる選択につながります。生殖医学会や日本産科婦人科学会が、ホームページで一般の方向けに情報を提供しているので、参考にするといいでしょう。主体的に根拠のある情報を集めることが必要です。これまでの経過やご自身、カップルの希望・思いを医療者に伝える準備をしておくことも大切です。
その上で、医療機関に相談をしながら、選択していただけたらと思います。

おおみね・みゆき。不妊症看護認定看護師。日本不妊カウンセリング学会不妊カウンセラー。友愛医療センター不妊外来に在勤。
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざ
「第1724号 2020年8月20日紙面から掲載」