彩職賢美
2020年4月16日更新
[彩職賢美]シーグラスアーティストの島田春奈さん|シーグラスで自然を表現
海にはたくさんのごみがあり、その中の一つが「シーグラス」です。瓶の破片が波を受けて角が取れたもので、私はそれをアクリル板に貼り付けて海の生き物などを表現しています。私のシーグラスアートが、海のゴミ問題を考えるきっかけになればうれしいです。
ごみのない海を目指して
シーグラスアーティスト
島田春奈 さん
アートで自然に恩返し 県民に海の現状伝える
周りを明るくする笑顔にハスキーな声。親しみやすい話し方であっという間に相手との心の距離を縮める島田春奈さん(43)。割れた瓶などの破片が海の波を受けて角が取れる「シーグラス」に心を奪われた一人だ。カフェを経営する傍ら、シーグラスをアクリル板に貼り付け、沖縄地図やジンベエザメなどを表現。かつての「ごみ」を「シーグラスアート」に変えている。
14年前、偶然海で見つけたシーグラスは「きれいで、宝物のように感じた。人間が生み出したごみが、自然の力でこんなにきれいなものになると知り、感動した」という。「瓶が割れる形や、受ける波は計算できない。だから、形や大きさが二つとして同じものはない」と魅力を語る一方で、「人や、海に住む生き物がケガをする危険なごみ。いつかはなくなってほしい」と思っている。
シーグラスアートを通して興味を持つようになったのは海のごみ問題。シーグラスが欲しくて、砂浜にある他のごみは見ないふりをしていた過去を反省し、現在は週に1回のビーチクリーンが当たり前になった。「県民に現状を知ってほしい」との思いで、シーグラスアートと共に、海で拾ったたばこの吸い殻などで作った作品を展示する活動にも力を入れている。
ごみを減らすために自分ができることを考えた結果、「カフェでは必要な人にだけ紙ストローを渡し、得意先に配達する弁当は、箱の使い捨てをやめて、繰り返し使えるものに変更。食べ終わったら回収している」と語る。
「海には、町でポイ捨てされたごみもたくさん流れ着く。一人一人ができることに少しずつ取り組めば、きっときれいな海になるはず」
23歳のとき、一人で3姉妹を育ててくれた母を病で亡くした。母を傷つける言葉を発した直後に病が見つかったため、「自分の言葉が発病のきっかけになったと思い込んで。自ら命を絶つことを考えるほど、自分を責め続けた」。母の看病を経て強くなった姉妹の絆は「母からの最後の贈り物じゃないかな」。
「幸せになることが親孝行と信じながらも、自らを責めたつらい時に支えになったのは夫の存在。そして、海や川など自然と触れ合うことで心が助けられた。今も自然の力を借りてシーグラスアートを作ることができている。その恩返しがしたい」。あふれる思いがビーチクリーンやごみの展示活動につながっている。
カフェをオープンした約8年前、独学でシーグラスアートを学び、本格的に取り組み始めた。離島巡りが好きだったため、シーグラスで最初に作ったのは沖縄地図。「離島には素晴らしいところがたくさんある。どんな島があるのか知ってほしくて、県内の全ての島を入れたんです」。制作には1年かかり、完成後は達成感で胸がいっぱいだった。
自身の作品を見た人が「意図的にシーグラスを増やしてしまうのでは」と心配で、作品作りをやめようとしたこともある。それでも、「ごみ問題を知ってもらうきっかけになるはず」と信じ続けてきた。今では海の生き物を中心に約25点の作品をカフェに展示している。
今後はシーグラスアートの個展を計画中。同時に、「ごみ問題は伝え続けることが大切。賛同してくれる企業も増え、夏には商業施設でごみ問題に関する企画を実施予定」と活動の幅を広げるつもりだ。
「未来の砂浜にはシーグラスが無いように」。願いが書かれた島田さんの名刺からは、ごみのない海を目標に掲げる強い意志が感じられた。
自然をテーマに作品作り
「好きなことを表現しようとすると、結局最後は自然がテーマになっちゃう」と島田さん。カフェの店内には作品が展示され、思わず見とれてしまう。今後開催を予定している個展では、新作の「月シリーズ」=写真=の6作品も展示する。「自然への感謝や、次世代に受け継ぐことの大切さを伝えたい」と力を込める。
■問い合わせ/隠れ家カフェ清ちゃん
098-927-8398
※イベントへの出展など、作品が店内に展示されていない場合もあるため、作品を見たい場合は確認を。
吸い殻やごみでアートを制作
ビーチクリーンで拾ったペットボトルのふたや、お菓子の包み紙などのごみを使い、地域の子どもたちと作った作品=写真。「海に落ちているごみを、鳥がえさと間違えて食べてしまう現実を表現しました」
島田さんのパワーの種
夫は最高のパートナー
居酒屋の経営経験がある夫の修二さんは、現在カフェで料理を担当。「私が『やりたい!』と言ったことにいつも全力でサポートしてくれる最高のパートナー。シーグラスアートも、ごみの展示活動も夫のサポートがあるからこそ」と感謝の思いを口にする。「母を亡くして自分を責めたことも、夫の言葉で救われた。夫といるときが1番私らしくいられるんです」
プロフィル
しまだ・はるな
1977年、那覇市出身。2006年、シーグラスに出合い、2010年からシーグラスを使った作品制作を本格的に始める。2018年、2019年には沖展で入賞。ごみ問題にも興味を持つようになり、3年前からはごみで作った作品を展示するなど、沖縄の海の現状を県民に伝える活動をしている。夫と共に、「隠れ家カフェ清ちゃん」を経営している。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明 文/比嘉知可乃
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1362>
第1707号 2020年4月16日掲載