彩職賢美
2017年11月30日更新
[彩職賢美]ファッションデザイナー/モードサロン更紗 代表の上里幸子さん|ドレス着て天国へ
上里幸子さんはファッションデザイナー。天国に旅立つ際に白装束ではなく「一張羅のエンディングドレスで」と提案している。「華やかなドレスを着せてたくさんのお花で見送ると、つらい、悲しい思いは癒やされる」。生前は、祝いの席など晴れの日に着る。人生の最終幕にそのドレスを着せる事で、故人の笑顔が心の中でよみがえる。
お別れは一張羅のドレスで
ファッションデザイナー
モードサロン更紗 代表
上里幸子 さん
ファッション界でお世話になった恩返しに提案するのが、エンディングドレスだ。宗教上のことは分からない。あるいは、先輩方からおしかりを受けるかもしれない。ある意味、タブーに触れるかもしれない。それでも、白装束より奇麗なドレスを着せて旅立たせたいという思いは強い。「結婚式は挙げない人もいるけど、葬儀は人生一度、誰にでも訪れる大切な儀式。しかも残された人たちには、つらい悲しい思い出としていつまでも心に刻まれる。ならばせめて、故人が一番輝いていた時に着た一張羅を着せてあげれば、故人もうれしいだろうし、見送る側にも思い出として残る」。あんなにおしゃれに着飾った人が、旅立つ時にはどうして白一色なのか。ファッションデザイナーとして衝撃を受けたのが、制作のきっかけだ。
ことし9月、タイムスホールで催した、100歳前後の女性11人がモデルになった「百寿ファッションショー」で自らがデザインしたドレスを着た高齢者が舞台の上で躍動する姿に、亡き祖母や親、身内への思いが募った。晴れの日に着るドレスを旅立ちのお迎えが来た時に使えるようにするには、デザインだけでなく技術的に困難を伴うが、10年余日本デザイナークラブに所属して培ったデザイン力と東京やフランスで学んだ技術とセンス、40年近いファッション現場の経験と実績でクリアした。
代表を務めるモードサロン更紗の開店20年目に母を亡くした。失意の中、沖縄県の人材育成財団の協力で研究員としてフランスにファッション留学が決まった。沖縄に居ても外国に居ても悲しみが癒えることはない。「母の魂よ、一緒に来て」と気持ちを奮い立たせ、若いころ憧れたパリに渡り、ファッションの本場のデザインと立体裁断の技を究めた。滞在期間を延ばしてまで取得したフランス国の「DIPLOME(卒業証書)」は帰郷への大きな収穫と手土産になった。
店は従業員に任せた。時差が8時間、昼夜が逆だったのが幸いした。「私が寝るころに従業員は仕事を始めるので、ファクスなどのやりとりで仕事の段取りはつけた」。そのバイタリティーは今も衰えることはない。若いころに買い求めた本部町の土地にいろいろなイベントができる住宅兼店舗(マイホーム)を計画しているのだ。
老人ホームに入るのに、設備の良いところは多額の費用を要すると、顧客から聞いた。どうせ掛けるなら、夢のある計画に予算を掛けよう。「私が老人ホームに入ったって誰も訪ねて来ない。北部にファッションの店を開くと、ドライブがてら立ち寄る人はいるでしょう。新作の発表会やら、音楽会も開けるような施設にするの」
那覇市から本部町に客はついて行くのか。「いい仕事をすれば、なじみのお客はついて来る」。揺るぎない自信はあった。那覇市国際通りに店舗を構え、同市三原の現在の店は工場として活用していたころ、客は不思議と、雑然とした三原の店によく訪ねて来たという。おしゃべりができて、くつろげる空間だったからだ。
今構想を練っているのは、かりゆしウエアを進化させたジャケットの開発だ。次世代の沖縄ブランドを発信するための自らに課した義務と考えている。
エンディングドレスとデザイン画
表からは華やかなドレスに見えるエンディングドレス(左)。ドレスの右側に下がっているのはベール。デザイン画(右)では、ふわふわとまとわりつくように描かれている。ベールは故人を花畑の中に居るように優しく包み込む。人生のみとりと高齢者のケアについては県立看護大学に通って学んだ。エンディングドレスのデザインは、おしゃれでファッション性を重視しながらも、技術的には、みとりの際に着せやすいよう、前と後ろが離せるように仕立ててある。
国家資格証とトロフィーの数々
フランスで取得したデザイン画と立体裁断などの卒業証書(左)と日本デザイナークラブ主催の各種コンテストで獲得したトロフィー(右)。10年間で7度の受賞歴を誇り、うち2年連続グランプリも。受賞は仕事の大きな原動力になった。
アートフラワー作品
布の持つ質感や艶、色合いなどが独特の美しさを醸し出す。大胆なデザインの帽子でも、ドレスの共布で作ったアートフラワー一つで一体感が生まれる。頭のフラワーとチュールは顔を覆う白い布の代わりに用いる。
上里さんのハッピーの種
Q.趣味は?
アートフラワーです。ドレス用の共布やさまざまな素材を活用します。でも趣味と言えるかどうか。というのも、帽子の飾りとして作ったりするので仕事の一環かも。ドレスと帽子は一対で、花を作ってから服を作ることもあります。ラジオを聴きながら、気分が乗ったら夜遅くまで作り続けることもあります。
PROFILE
うえざと・さちこ
1943年本部町出身。名護高校卒業、沖縄すみれ服装学院・東京バンタンデザイン研究所・東京立体裁断研究所修了。COURS de COUPELAINE国際デザイン研究所(パリ市)卒業。1981年、日本デザイナークラブ正会員に。同年、「現代に甦る染と織」コレクション展。85年から県工芸指導所デザインアドバイザー、各織物産地でファッションショー。2010年、「県民環境フェアおきなわ」で講習会とリメイクファッションショー。ファッションデザイナー、モードサロン更紗代表。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/矢嶋健吾・編集/上間昭一
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1280>
第1585号 2017年11月30日掲載