彩職賢美
2017年11月16日更新
[彩職賢美]湧き水fun倶楽部代表のぐし ともこさん|湧き水に夢中!
沖縄には千以上の湧き水(井戸、樋川)があると言われる。ラジオパーソナリティーとして10年間、県内約400の湧き水を取材したぐしともこさん。マップや書籍、かるたを発行し、湧き水を知ってもらう活動をしている。最近、注目しているのが、防災に向けた湧き水の活用だ。「飲料水や手洗い、火を消すにも役立ちます。身近な湧き水に、目を向けてほしい」と呼びかける。
防災で注目 命を救う水
湧き水fun倶楽部代表
ぐし ともこ さん
優しいナレーションの5分間の番組を、覚えている人も多いだろう。ぐしさんは、1993年から15年間続いた「多良川うちなぁ湧き水紀行」の2代目のパーソナリティーだ。伊平屋村から与那国島まで訪ね、出会った人数は、千人以上。湧き水から見えてきたのは、人々の営みだ。「水道が引かれていないころ、どう水をくみ、食事や洗濯をしていたかに、生活が見える。地域の行事や、祈りが行われる場でもあるんですよね」と、柔らかに話す。
大学を卒業後、念願だったパーソナリティーになったものの「話すことに向いていない」と思い悩んだ時期も。転機が、湧き水紀行の担当になったことだ。「外に出て話を聞く」取材の面白さに目覚めた。「一期一会の出会いがあり、その時じゃないと聞けない話がある」。もともと旺盛な好奇心が、かき立てられた。
取材時には「こんな話に意味があるのかねー」と相手が言う生活史や地域の伝承に丁寧に耳を傾けた。水の話は、文化や歴史、環境へと広がり奥深かった。プライベートの旅行中も湧き水を訪ね、取材をするほどのめり込んだ。数多くの取材の中で心に残っているのが「水は洗えないさーね」「井戸は湧くまで掘れ」といった、水にまつわる言葉だ。「水で生きるか死ぬかの苦労をしてきた人たちの言葉には、体に染み込んだ強さ、味がある」。水くみに苦労した話や、戦時中に湧き水に命を救われて感謝をしている話を聞き、「生き物の根底には、水がある」という思いを抱くようになった。
現在の活動が本格化したのは、番組の終了後だ。手元に残された膨大なテープや資料。取材相手は主に年配者で、現在では亡くなった人もいる。「貴重な資料が埋もれてしまう。どうにか残せないか」。2010年、湧き水紀行の初代パーソナリティーのごやかずえさんと共に「湧き水fun倶楽部」を結成し、浦添市の助成を受けて市内の湧き水マップを作成。その後、倶楽部のメンバーと共に、湧き水の歴史や文化、防災対策などの情報をまとめた冊子の発行や、講座、イベントを開催、かるたも作成した。「メンバーがスキルを持っているので、活動が広がりました。仲間がいるのは心強いですね」と笑う。昨年11月、「記録を形に残したい」と、これまでの活動の集大成となる「おきなわ湧き水紀行」(ボーダーインク)を発行した。
現在、注目しているのが、防災対策としての湧き水の活用だ。「水道が使えなくなる災害時に、飲み水だけでなく、手洗いやトイレ、火を消す水としても役立ちます。身近な湧き水がどこにあってどんな水なのか、知っておくことは、いざというときに命を救う」。防災に関連した講演依頼が増えている。
撮影で訪ねた金武町の金武大川。ぐしさんは、豊富な水量と透明な水に、声を弾ませた。「湧き水を訪ねるのは、小さな旅です。11月は湧き水巡りに一年で一番気持ちのいい季節。ぜひ、訪ねてみてほしい」。
仕事での出合いから、ライフワークとなった湧き水。「湧き水に関する願いは、不思議とかなっているんです。伝えるべきことだからかな、と思っています」。次の夢は、湧き水資料館をつくること。思いは、こんこんと湧き続ける。
湧き水の魅力ギュッと
ぐしさんが、県内のお気に入りの湧き水30カ所をまとめた書きおろしエッセー「おきなわ湧き水紀行」(ボーダーインク)。「お嫁に行きたいけど、水くみが大変だからどうしよう」という恋の歌が詠まれた伊計島の犬名河(インナガー)、水面がキラキラ光る田芋畑を潤す宜野湾市大山のヒャーカーガー、戦争中に人々の命を救った浦添市の仲間樋川など、それぞれに物語がある。臨場感のある細やかな描写に、湧き水へ出かけたくなる! 地図と写真付き。」
かばんの中にいつも本
「本は欠かせなくて、常にカバンの中に1~2冊入っています」とぐしさん。図書館通いが習慣だ。高校生のころから児童文学が好きで、自身で書いた児童文学が受賞したことも! 愛読書は絵本や旅のエッセー=写真。「思いを伝えるのは、言葉。自分の中にある言葉しか出てこないので、書く上でも話す上でも、本を読んで語彙(ごい)を増やすことを大切にしています。優しい言葉で書かれたものが好きですね」と話す。(写真はぐしさん提供)
埼玉県の宝上山神社の湧き水にて。
湧き水で入れたコーヒー。(写真はぐしさん提供)
ぐしさんのハッピーの種
Q.趣味は何ですか?
英会話、ウオーキングなど、いろいろありますが、旅行が大好き。県外出身の夫の実家に帰省しながら、年に1回は旅をします。夫も自然が好きなので、自然豊かな場所に行き、周辺の湧き水を訪れることが多いです。ペットボトルに水をくんで、その場で味わったり、持ち帰ってお茶やコーヒーを入れるのが定番です。取材をした人から、「チャー(お茶)選ぶな、水選べ」という言葉を教えてもらったのですが、本当に水によって味が全然違うんですよ!
PROFILE
ぐし・ともこ
1967年那覇市出身。1986年、沖縄キリスト教短期大学保育科卒業。ラジオ局のパーソナリティーに。1998年から10年間、番組「多良川うちなぁ湧き水紀行」のパーソナリティーとして、県内約400カ所の湧き水を取材。2010年、湧き水fun倶楽部を結成。マップや冊子を作成、講座やイベントを開催する。16年、「おきなわ湧き水紀行」を発刊。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明・編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1278>
第1583号 2017年11月16日掲載