[彩職賢美]美術家・映像作家「山城知佳子」さん |社会問うアート|fun okinawa~ほーむぷらざ~

沖縄で暮らす・食べる
遊ぶ・キレイになる。
fun okinawa 〜ほーむぷらざ〜

沖縄の魅力|スマイリー矯正歯科

わたしらしく

彩職賢美

2017年6月1日更新

[彩職賢美]美術家・映像作家「山城知佳子」さん |社会問うアート

気鋭の映像作家、山城知佳子さん(41)。国際的なアート展や写真展に招かれ、アジアの若手現代アーティストのファイナリスト5組に選ばれるなど、国内外で注目が集まる。米軍基地や戦争の記憶の継承など、沖縄に根ざした作品を生み出してきた。「沖縄の現状で生きる人をどうアートに転換するか。足元を深く掘り起こすと、世界につながった」。作品は、海を超えて共感を得ている。

彩職賢美 映像作家の山城知佳子さん
 

足元を掘り起こし世界へ

美術家・映像作家
山城知佳子
さん


「美術家として、責任を持って社会に関わりたい」と真摯に語る。転機は2008年、沖縄タイムスに依頼された慰霊の日に関連するフォトエッセーだ。
制作で訪れた高齢者施設で、戦争体験を聞いた。印象的だったのが、サイパンで家族が崖から飛び降りた話をした男性だ。壮絶な話以上に、男性がどもり、震える様子に驚いた。「体験として想像ができなかった。けれど聞き出した以上、分からないとは言えない」。
とっさにその場で高齢者らの手を引き、「触れて伝えてください」と自身に触れてもらい撮影をした。

エッセーは書き終えたものの、その後、1年たっても男性の話を消化できずにいた。
「もっとちゃんと聞くべきじゃないか」。当時の映像を見ながら、声をなぞってしゃべろうと思い立った。声をつまらせたり、どもったり、息を合わせてしゃべるのを繰り返すうちに、感覚が変わった。「映像が見えた」。
その試みは、「あなたの声は私の喉を通った」と題し作品になった。山城さんが出演し、男性の声に合わせて口を動かし、やがて二人の声と姿が重なっていく。作品の中で、山城さんは涙を流す。「経験はないが、できる限りのことをして近づいた。考え続けることが継承の可能性になる」。

作品はイスラエル、イタリア、韓国、アメリカなどに招へいされ、共感を得た。「どの国も戦争を経験し、継承の問題を抱えている。自国の問題として捉えられた」。



子どものころから絵が得意で「画家になる」と高校、大学で絵を学んだ。大学院時代に留学したイギリスで映像の面白さに触れ、映像作家を志す。しかし県内に学ぶ場は無く、ブライダルのカメラマンのバイトや独学で技術を習得。アルバイトをしながら定期的に作品を作り続けていたものの、30歳ごろ、行き詰まりを感じた。
県内にアートシーンは育っておらず、食べて行けず、評価もされない。「やっていけるのか、才能はあるか」。絶望に陥った。

美術教師など他の道も試みたが、迷いの中で見た映画に感動。「感動は生きる喜びになる。生きるためにアートが必要な人が、沖縄にもいる」と活動を続けることを決意、全力で打ち込んだ。制作の姿勢はストイック。
毎回「自分を超える」ことを課し、前作の模写はしない。2013年、2014年にはコンペに応募し短編映画を制作。映画の撮影手法や、複数のスタッフと作り上げる面白さを学び、表現の幅を広げた。

最新作「土の人」は、軍事基地に揺れる辺野古、伊江島、韓国・済州島を舞台に、3面ハイビジョンで架空の土地に生きる「土の人」を描く。テーマ性や映像のクオリティーなどが評価され、国際的なアート展や写真展で話題を呼んだ。


「土の人」(2016年/あいちトリエンナーレ2016)(山城さん提供)

百合の花から出た手がリズムを刻むラストシーンは、辺野古の座り込みの現場からインスピレーションを得た。「さんしんの日に、地面に寝ころんで手拍子をしている人たちの笑顔、闘う姿を美しいと思った。アートとして象徴的に表すことで、一地域の話でなく普遍性をもって多くの人に見てもらえる」。

現在、県内では9年ぶりとなる個展を開催中だ。「人の営みを力強く描きたい。沖縄を拠点に、世界に通用するクオリティーの作品を発信していく」。まなざしは、澄んでいた。

 

6月11日まで写像展「存在の海」


写像展のフライヤー(山城さん提供)

映像から切り取った写真作品を展示する写像展を開催中)。毎週末、映像作品の上映と、山城さんとゲストのトーク会がある。

会場はRENEMIA(那覇市牧志2-7-15)。午後2時~7時。入場無料。
上映会は1500円で定員40人。「土の人」は2017年6月11日(日)に上映予定。


◆RENEMIA(レネミア)
098-866-2501



影響を受けた作品


(山城さん提供)

趣味は映画鑑賞。最も好きなのは、ギリシャの監督、テオ・アンゲロプロスだという。
「歴史や時代に翻弄(ほんろう)されながら生きる人を、いとおしく見つめて描く。沖縄とつながる部分がある」。アーティストとしてやっていくか悩んだ時に、たまたまテレビで特集されていて、映画の力に感動した。
「アンゲロプロスがいるなら、もう一度芸術家を目指そうと思えた。生きる力をもらいました」。


山城さんのハッピーの種
Q.幸せを感じることは?


(山城さん提供)

映画と沖縄芝居の役者が出合うのを見るのが面白い。
古き良き沖縄があり、見ると、あー良かったと思います。

特に役者の平良進さんの大ファン。平良さんは旅芸人で身を立てた最後の世代。立ち居振る舞いや演技力が半端なく、自然に、ある時代の沖縄の雰囲気が醸し出されるんです。
今年公開された、平良さんが出演している映画「変魚路」(高嶺剛監督)も、すごく面白いです。
写真は高嶺剛さん(左)、平良進さん(右)と。


PROFILE
山城 知佳子(やましろ・ちかこ)
1976年那覇市出身。2002年沖縄県立芸術大学大学院環境造形専攻修了。写真、映像作品を制作し県内外・海外の美術館や国際的なアート展に呼ばれ作品を発表する。16年「あいちトリエンナーレ2016」、17年京都国際写真祭に参加。国際的な活躍が期待される若手アーティストを選ぶ「アジアン・アート・アワード」のファイナリスト5組にノミネートされる。



週刊ほーむぷらざ「彩職賢美」|輝く女性を応援!
今までの彩職賢美 一覧


撮影/比嘉秀明・編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1256>
第1559号 2017年6月1日掲載

彩職賢美

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

スタッフ
栄野川里奈子

これまでに書いた記事:294

編集者
おいしいものに目がないガチマヤー(くいしんぼう)。2016年に国際中医薬膳師の資格をとりました。おいしく健康に!が日々のテーマ。

TOPへ戻る