彩職賢美
2015年7月16日更新
[彩職賢美]たきもの屋 薫る風 西田美生さん|鎮魂や和みへ導く 香の奥深さ伝える
県内では珍しいお香専門店「たきもの屋 薫る風」を経営する西田美生さん(40)。「お香には癒やしだけでなく、和みや仏教的な鎮魂の意味も込められている。香りの幅が広く、奥深い世界に関わっていると、この仕事は天職だと感じる」。伝統に新しさを加えた温故知新の思いで、お香の魅力を多くの人に届けている。
伝統に新しさ加え情報発信
お香専門店を経営
たきもの屋 薫る風
西田 美生さん
沖縄県那覇市久茂地のテナントビル3階にある店舗。階段を上がっていくと、毎回異なる香りが店へと誘う。「今日はプレミアム紫紅梅というお香。甘くて、少し酸味があり、熟した梅の花のような華やかな香りが特徴。客を招くときはおすすめ」と西田さん。温故知新、和洋折衷をコンセプトにし、店内は明治の洋館をイメージしているという。
店のオープンは2年前。香やその原料、フレグランス商品、香炉など100種類近くを販売。予約制で手作りお香教室も開催する。香といってもなじみ深い線香、茶道に使われる練香や香木、体に塗る香水のような塗香など種類はさまざま。「伝統的な天然の香りに加え、時には合成香料なども使い、お客さまのニーズやテーマに沿った香りを作り出している」という。
「香には単なる癒やしだけでなく、心を和ませてくれるものがある。さらに、仏教伝来とともに日本に伝わってきたという背景から、鎮魂や弔いといった仏教的な意味もある」。香りの中に広がる奥深い世界に魅了されていった西田さん。「香は沖縄にはあまりなじみのない文化。さまざまな意味合いの込められた香の世界を多くの人に知ってもらいたい」と活動する。
男性客の来店が増えてきたという西田さん。お香の特徴を含めて、商品の説明を丁寧にしながら、客の好みに合った香りの商品を紹介する
西田さんが香に興味を持ち始めたのは小学生のころだ。祖母からお守りだといって手渡された匂い袋が原点。「すごくいい香りがして、頭の片隅にいつもその香りがあった。高校生のころも、沖縄では数少ないお香専門店に行ったりした」。しかし、実際に仕事にするという意識はなく、これまでの職業は異色ともいえる。
福祉用具の開発をしたいと、大学で機械工学や情報工学といった理系分野を学び、システムエンジニア、プログラマーとして就職。その後、当初から興味があった福祉の現場に介護職として飛び込んだ。「機械の世界から人と触れ合う業界へと移り、介護職は天職と感じた」と充実した日々を送っていたが、母親の介護のために退職の道を選んだ。「自分の親の面倒を見ずに、他人の世話ができるのか」と考えた末の結論だった。
その中で、ふと湧き上がってきたのが香への好奇心。介護の傍ら、東京に通い香を学んだ。「祖母からもらった匂い袋の香りを再現したかったのかもしれない。それまでの単なる趣味としてではなく、香りの構成も含めて深く知りたくなった」と、理系的な探究心から香の世界へと本格的に足を踏み入れた。
機械から人へ、そして香りに導かれるように人を和ませる内面的な世界へ。「母の介護をしながら続けられるいい仕事だと思う。結婚した今も、家事をしたり、母の世話もうまくできる。これが私の天職」と生き生きした表情に。
現在、母親の体調も回復し、次なる夢は沖縄の原料を使ったオリジナル香作り。「伝統を踏まえ、現代の人になじむようなものにしたい」と、理想の香りを生み出す探究心は尽きない。
西田さんのハッピーの種
Q.夏におすすめの香りは?
暑いときには酸味があって、甘過ぎないさっぱりとした香りがいいですね。例えば、柑橘系や白檀(びゃくだん)、桜とか、ヒノキや杉もいいと思います。私は白檀や桜の香りが好きです。
Q.プライベートで大きな変化があったとか?
実は5月に結婚しました。昨年10月末に知り合い、ことしの3月末には結婚を決めて、夫の誕生日に入籍。周囲も驚いていましたが、私も何が何だかわからないまま結婚したという感じです(笑)。結婚はいずれ、ぐらいにしか思っていなかったのですが、ご縁というのはあるものなんですね。朝の一杯のコーヒーの香りは一人で飲んでいたときとは違う、幸せの香りだと感じます。生活臭にもある意味、ほっとします(笑)。
たきもの屋「薫る風」
080-1741-9767
沖縄県那覇市久茂地1-8-7 3階(地図)
098-863-7395
営業時間
12時~19時(日曜日、第2・4 月曜日定休)
http://kaorukaze.jimdo.com
PROFILE
西田美生(にしだ・みよい)1974年、那覇市生まれ。沖縄県立那覇高校、東京の大学で機械工学を学ぶ。帰沖後、琉球大学大学院を経て、IT関連企業に就職。2003年から福祉施設で介護職に就く。2013年にお香専門店を開業。店舗やカルチャースクールで講座を開き、指導もしている。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明・編集/高江洲千里
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1177>
第1461号 2015年7月16日掲載
この記事のキュレーター
- キュレーター
- ちぃちゃん
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元企画・編集プランナー
身の回りの「はてな?」や「なるほど!」を追い求めながら、好奇心のアンテナを張り巡らせて日々、取材中。何でもやるからには「徹底的」に。そのための息抜きも大切に。メリハリのある暮らしと、メリハリのある仕事のこなし方ができるよう心がけています。