彩職賢美
2016年11月24日更新
[彩職賢美]木工作家の金城久美子さん|木を暮らしの中に
40歳で木工の道へ進んだ金城久美子さん(58)。「実用的で絵になるもの」を心掛ける作品は、シンプルなデザインで丁寧な作り。工房を立ち上げて12年目のことし、目標だった沖展賞を受賞した。「続けるうちに、仕事がやりたいことになった。作品を作っている時が、一番幸せ」。充実感があふれている。
実用的で絵になるものを
木の手づくり「ゆらりら工房」主宰
金城久美子さん
名刺入れや弁当箱といった小物から家具まで、さまざまなものを手掛ける金城さん。三線立てや線香入れなど、リクエストからの商品化も多い。作品はシンプルな中にもアクセントが効いていて、置いているだけでうれしくなるデザイン。磨き抜かれた木肌は、触り心地もいい。
代表作は、木箱にマスを複数組み合わせた「おもてなし重箱」。マスは数種類の料理を入れることができ、器にもなる。行事の重箱やピクニックの弁当、ちょっとしたパーティーにと重宝しそう。「箱物は、一寸の狂いも許されないため、木を乾燥させてカンナをかけるというのを何度も繰り返す。難しい分、ピシャッと合うと気持ちがいい」。使いやすさや細やかな作りに、女性ならではの視点が生きる。
作品には、一つの木に異なる木をはめこむ「象嵌」や、木片や木材を組み合わせる「寄木」という手法を多く用いる。ぴったり合うように木をカットし、はめ込むのは、根気を要する作業だ。「手間はかかるけれど、組み合わせることでデザイン的に良くなるし、木の補強にもなる」。使っているのは主に県産木。はっきりした木目のリュウキュウマツ、女性的なクスノキ、優しい風合いのセンダンなど、それぞれ特性がある。「木の個性を生かした、ものづくりがしたい」。
叔父に手伝いを頼まれて、木工の道へ進んだのは40歳のとき。前職の事務職とはかけ離れていたが、子どものころからティグマ(手先が器用な人)と言われていた金城さん。トールペイントやパッチワークを趣味にするなど、もともと手仕事は好きだった。糸ノコギリで木をカットしたり磨いたり、一つ一つの作業が楽しく感じられた。
技術を磨き、自分の作品を作り始めたのは5年後。最初に作ったのは、ペンダントやイヤリングなどのアクセサリー類だった。展示会に参加するため、2004年に独立し工房を設立。その後、県内外の展示会に出展し、好評だったことが自信につながった。「自分の思いが形になり、それを喜んでもらえる。買ったお客さんがまた来てくれるのが、何よりもうれしかった」と実感を込める。
一方、最も苦心するのは、新作を生む時。安全で使い勝手やデザインはいいか、ニーズはあるか。試作を繰り返し、年に2回は新作を作る。道を歩いていても、出合ったものに目を留め、「どうにか形にできないか」アイデアを練る。
製作工程では、木の運搬やカット、磨きなど、体力を使う力仕事も多い。「ほとんど男みたい。力が付きました」と笑う。ハードな作業だが、「工房にいるだけで癒やされる。木が嫌いな人っていないんじゃないかな」と、心底木に魅了されている。
工房を立ち上げて12年。その間、県の工芸公募展で奨励賞を受賞。沖縄県工芸士に認定された。県内外に、リピーターも増えた。さらに今年、夢の一つだった沖展賞を受賞。「若いころはやりたいこともなかったけれど、今は木工がすべて。今後は、漆器に挑戦したい」と、夢は尽きない。
たくさんの木材や機械がある工房。木の丸みに合わせてカンナをかける金城さん
カンナだけでも数種類の道具がある
機械や道具使いこなす職人技!
作品を作る際は、大型の機械から細かな道具までさまざまな道具を使う。機械だけでも、カンナ、丸ノコギリ、糸ノコギリなど種類はさまざま。「ケガや事故につながる危険もあるので、作業時はものすごく集中しています。一番大事なのは安全性。木クズが飛び、大きな音の中で作業をするので、ヘッドホン・防じんマスク・メガネをして、とても人に見せられないですよ」と金城さん。
沖展賞「空駆ける天馬」
ソウシジュの羽が背もたれとなっている「空駆ける天馬」。ことし、沖展賞を受賞した。
一番人気「おもてなし重箱」
木箱の中に八つのマスを組み合わせた「おもてなし重箱」。ふたの中央にある、異なる木を組み合わせた寄木がアクセントになっている
金城さんのハッピーの種
Q.幸せを感じる時間は?瀬底島に両親が住んでいて、毎週帰っています。畑仕事やヤギの世話を手伝ったり、おしゃべりをしたり。できるだけ、一緒に時間を過ごしたいと思っています。
12月1日(木)~10日(土)に展示会
「アランフェス工房・ゆらりら工房展」を12月1日~10日に開催。
小物からイスやテーブルなどの家具まで、展示即売する。
場所はアランフェス工房内(沖縄県沖縄市上地2-18-16)。
<問い合わせ>
ゆらりら工房
098-932-3774
PROFILE
金城久美子(きんじょう・くみこ)1957年沖縄市生まれ。97年、叔父で木工作家の渡久地政幸氏(アランフェス工房)を手伝ったのをきっかけに、木工に携わる。2004年、木の手づくり「ゆらりら工房」を設立。その後、県内外で展示会を開く。06年に県工芸公募展で奨励賞を受賞。13年、沖縄県工芸士に認定される。14年に沖展奨励賞、ことし沖展賞を受賞。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明・編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1235>
第1532号 2016年11月24日掲載