彩職賢美リターンズ
2025年4月24日更新
株式会社ナンポー 株式会社ちとせ印刷 沖縄北谷自然海塩株式会社 代表取締役 安里 睦子さん|たくさんの失敗 乗り越えて[彩職賢美リターンズ]
「女性で2代目、結果を出さないと、と常に戦闘態勢。嫌なやつでした」と笑う安里睦子さん(52)。紅芋やイチゴなど県産素材を使ったお菓子を製造するナンポーの代表取締役だ。「これまで失敗ばかり。そんな話ができたらいいなと思った」。―そう語り、インタビューが始まった。
株式会社ナンポー
株式会社ちとせ印刷
沖縄北谷自然海塩株式会社
代表取締役 安里 睦子さん
ゼロになって 光が見えた
キャリアのスタートは、グループ会社のちとせ印刷に営業で入社したことです。売り上げナンバーワンで調子に乗り過ぎて、「管理職なのに自分の売り上げしか考えていない」と、昇進を同期に越されたんです。当時は女性で若いからだと思っていたけれど、ただ私が生意気で未熟者でした。
その後、ナンポーに移籍。常務になり、経営に携わるように。2代目ということもあり、「成果を出さないと」というプレッシャーが常にあり、がむしゃらに新しいことに挑戦。トライ&エラーの繰り返しでした。
ナンポーという会社を知ってもらおうと、積極的に取材を受けました。彩職賢美に出たのは、そのころ。やる気だけは人一倍あり、強気な発言で注目を集めて認知度は上がったのですが、逆に周囲の評価と成果を出せない実際の自分とのギャップがとても苦しかった。自分と向き合うため、しばらく取材を受けるのを控え、情報もシャットダウンしました。本来の私は臆病。弱い自分を隠すために強く見せていたんです。頑張りすぎた先には、人を傷つけ自分も傷つくという悪循環でした。情けないのですが、当時は、そんなやり方でしか自分を守れなかった。
そんな中でのコロナ禍。売り上げは以前の約1割程度になり、約140人いた契約・正社員は60人ほどに激減。貧血が続きふらふらの体で「社員を出社させるか」「資金繰りをどうするか」厳しい決断を毎日迫られました。自分自身も病気が発覚し手術を受け、その2週間後には出社。同じころ長年飼っていた愛犬も亡くなり、心身共にボロボロに。そこで支えてくれたのは、残った仲間でした。
「ここで変わらなくては」。そう決意した私は、徹底的に自分と会社のこれまで、これからを考えました。「人を育て、財務に向き合い、前を向いて進もう」と決意したんです。
コロナ禍は準備期間
商品、組織を見直す
先はまったく見えませんでしたが、未来への確信はありました。「いずれコロナは収束し、沖縄の観光は再び盛り上がる」。その準備期間と考え、商品の開発と見直しに集中。経営難の中で資金を投じ、新商品「薔薇甘紅芋(ばらかんべにいも)」を開発。既存の製品のレシピを見直し、パッケージも一新しました。
人手不足で現場に入り、手を動かす中で、これまで見えなかった課題が浮き彫りに。味には問題がないのに、形が少し悪いだけで大量に仕分けされていたお菓子。「もったいない」と感じ、そうした商品を取り除かず提供することに。パッケージにSDGsの取り組みを明記し、食品の廃棄の削減につなげました。お菓子業界で、他にはない取り組みだと思います。
同時に、社内の体制も整えました。役職の壁をなくすために敬語をやめ、自由に意見が交わせる環境に。「私」ではなく「私たち」で語るチームを目指しました。1人の頑張りではなく、みんなの力で前に進む会社へ。雰囲気は大きく変わっていきました。
失敗は経験になり
ヒットが生まれる
これまでにした挑戦も失敗も、数え切れないほど。先代からも「俺がいる間にたくさん転べ(挑戦しろ)」と言われました。それで、ありがたいことに自由に挑戦することができた。失敗したら反省し、知識として蓄え未来を変えていく。転んでも自分で立ち上がる力が身に付きました。先代は、私の弱さや自信の無さを知り、何度も失敗させてくれた。そこでチャンスや本質を見極める力、経営者としての責任と覚悟を学びました。だからこそ私は、人の成長を見守れる優しさと強さを持つ、本物の経営者になりたいと思いました。
入社以来、すべての商品の開発に携わってきました。商品作りで大切にしているのは「沖縄の方に喜んでもらえるお菓子」。ぜひみなさんに食べてほしいし、県外へのお土産や贈り物にしてほしい。
以前出した低カロリーのちんすこうは販路を見誤ってしまったのですが、その経験は、おから入りのビスケット「+TASUTO(タスト)」に生きました。健康志向市場で販売したことで、買い手のニーズにマッチ。おからは焦げやすく難しい素材ですが、現場の力で形になりました。「薔薇甘紅芋」は、日経トレンディの「空港発ヒット商品ランキング」全国1位に。「タスト」は、国内のコストコ全店舗で販売されています。多くの方に手に取っていただけて、うれしいです。
今回、このインタビューを受けるにあたって、計画していた事業の話をしようと思っていたのですが、その事業がうまく進まず…。恥ずかしながら、等身大の自分の話をしました。格好いい姿も格好悪い姿も私ですから。
人気漫画「ガラスの仮面」とコラボ!
人気漫画「ガラスの仮面」(美内すずえ著、白泉社発行)とコラボした「薔薇甘紅芋」=写真。同社提供=が、「花とゆめ展」(5月4日まで、京都で)で販売される。同展は、少女まんが雑誌「花とゆめ」の50周年を記念して開催。姫路、熊本、広島でも開催予定。安里さんは「登場人物の贈る紫の薔薇にかけていて、商品のコンセプトである食べる花束にぴったり。県外での認知拡大の機会になれば」と顔をほころばせる。
変わるきっかけになった本
コロナ禍で行き詰まった時に、安里さんが手に取ったのが心理学や脳科学の本だ=写真。「自分がどう感じているか、自分をどう変えたいかを知りたかったんです」。自分と向き合い、見えてきたものがあった。「弱い自分を受け入れられるようになったんです。そしたら周囲の悩んでいる人に気付くようになり、寄り添えるようになった」と安里さん。本は知識を得るだけでなく、自分を変えるきっかけとなった。
■株式会社ナンポー
電話 098(867)7902
安里 睦子さん
株式会社ナンポー、株式会社ちとせ印刷、沖縄北谷自然海塩株式会社、代表取締役
[プロフィル]
あさとむつこ/1972年生まれ。1995年(株)ちとせ印刷の営業部へ入社。10年(株)ナンポーに入社し企画部長に就任。17年ナンポー代表取締役、18年ちとせ印刷代表取締役、23年沖縄北谷自然海塩(株)の代表取締役に就任。
2012年8月9日号に掲載
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撮影/比嘉秀明 聞き手、構成/栄野川里奈子
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美リターンズ<27>
第1967号 2025年04月24日掲載