健康
2025年3月27日更新
妊娠中と産後の不調は鍼灸に!|つわり、産後うつ、母乳不足など 産前、産後の悩み|鈴木先生が解説 なるほど鍼灸⑨
体を各パーツに分けて診る西洋医学と異なり、全身を診る東洋医学の鍼灸は、西洋医学だけでは改善しない症状の最後の砦ともいわれます。このコーナーでは、鍼灸の治療法や特徴、その魅力について、沖縄統合医療学院の鈴木信司先生が分かりやすく紹介します。

鈴木信司(沖縄統合医療学院 学校長)
琉球大学大学院医学研究科博士課程修了、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。医学博士。県内初の鍼灸学科を開講した沖縄統合医療学院学校長。はり師・きゅう師等の国家資格と養成教員資格を持つ。全日本鍼灸学会、日本伝統鍼灸学会等に所属。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
で きるかぎり薬の服用を避けたい妊娠中や授乳中の女性にとって、つわりやむくみなど妊娠中に多い症状や、母乳の分泌不足、腱鞘炎、産後うつといった産後に起こりがちな症状には、鍼灸が症状の改善に適しています。つわり症状の緩和には、心身の状態を一定に保つ力を調整するリラクセーション効果の高い鍼灸が適しており、特に「内関(ないかん)」というツボへの鍼灸刺激は脳内麻薬といわれるオピオイドの分泌を促し、嘔吐(おうと)中枢の活動の抑制が期待できます。
また、血液量が増えると同時に、子宮が大きくなったり運動不足になったりして、足から心臓へ血液が戻りにくくなる妊娠後期に目立ってくるむくみには、「三陰交(さんいんこう)」や「陰陵泉(いんりょうせん)」などのツボへの刺激が効果的です。ちなみに、陣痛がなかなか進まないときや出産予定日を過ぎているのに陣痛が来ないときにも「三陰交」のツボが有効ですので、医師や助産師、鍼灸師に相談のうえ、鍼灸を活用してみてはいかがでしょうか。
産後うつなどの
メンタル症状にも
産後のお悩みで多いのが、母乳の分泌が少ない、腱鞘炎、産後うつではないでしょうか。母乳の分泌の促進には、「足三里(あしさんり)」「三陰交」のツボを用います。また、慣れない育児や環境の変化に伴うストレスが引き金となる産後うつにも鍼灸での治療が有効です。睡眠障害、不安感、食欲減退、乳汁分泌不全といった症状には、「湧泉(ゆうせん)」「太衝(たいしょう)」「肝兪(かんゆ)」「内関」「足三里」などのツボに鍼灸治療を行い、自律神経系の調整、精神安定、疲労回復を図ります。特に「湧泉」は、不眠症、不安感、めまい、頭重感、むくみ、消化器系の不調、血圧の乱れといった症状の改善をはじめ、内臓機能の調整などの効果も期待できます。
産後のホルモンバランスの乱れの影響に加え、日ごとに体重が増す赤ちゃんを抱っこし続けて手首に負担がかかって起こる腱鞘炎の痛みも、鍼灸で緩和することが可能です。まずは自分で改善したいときは、就寝時にサポーターなどの装具を装着して、患部の安静を図りましょう。
妊娠中や産後のこれらの症状がなかなか改善しないときは、ぜひ医療機関を受診してください。
ツボ刺激でセルフケア
妊娠中や産後の悩み
つわりや産後うつなどの症状の緩和のセルフケアには、自律神経系の調整と精神安定に有効なツボを刺激するのがおすすめです。手首のシワから人さし指・中指・薬指をそろえた指3本分の位置にある「内関」、足の甲の親指と人さし指の骨が交差する位置のくぼみ「太衝」、膝の外側のお皿の下から指4本分下がった位置にある「足三里」、足の裏のつま先からかかとまでの指側1/3に位置するくぼみで第2指と第3指の骨の間にある「湧泉」を、心地よい程度の強さで10秒ほど押してみてください。「足三里」には母乳の分泌を促進する効果も期待されます。
鍼灸ひとくちメモ
現代鍼灸と古典鍼灸の違いは?
現代鍼灸とは、骨、筋肉、関節など運動器疾患を治療する、西洋医学と通ずる考え方に基づく治療法で、痛みのある部位や動かしにくい部位に直接アプローチして痛みを緩和します。古典鍼灸とは、中国から伝来した医術を基に日本で独自に発展した、日本ならではの鍼灸治療です。現在の病態を見極めながら全身の調整を行い、全身の気・血・津液の流れを整え、その効果が徐々に表れてくる「本治法」と、即効性が期待できる局所治療といえる「標治法」があり、いずれも望診(目で見る)、聞診(音を聞く)、問診(自覚症状を聞く)、切診(触診)の四診を行ったうえで、一人一人の状態に合わせて治療点を探し、最適な鍼灸治療を行います。
↓画像をクリックすると、沖縄統合医療学院のホームページに移動します
取材/堀基子(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』鈴木先生が解説!なるほど鍼灸
第1963号 2025年3月27日掲載