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2025年3月13日更新

国立沖縄工業高等専門学校 安里研究室の皆さん|介護ロボット 挑む沖縄高専[共生社会支えるひと]

国立沖縄工業高等専門学校の安里健太郎教授が指導する研究室では、学生たちが最先端技術を駆使し、介護現場の課題を解決する機器を開発している。学生たちは「めちゃくちゃ難しいけど楽しい」と瞳を輝かせる

最先端技術で未来を切り拓く

国立沖縄工業高等専門学校
安里研究室の皆さん


卒業や進学を迎える時期。国立沖縄工業高等専門学校(以下高専)の安里研究室からも、専攻科機械システム工学コース2年生の佐渡山颯太さん(22)が大学院に進学、尾風剛さん(22)は就職が決まった。2人は安里健太郎教授のもと、機械システムの制御工学を学びながら、介護ロボット開発に挑戦してきた。安里研究室の取り組みは、福祉機器そのものより、それらを動かすAIやIoTを活用した制御システムを開発していることが特徴だ。

研究室が開発した「移乗介助・移動支援一体型ロボット」は、既存の車いすに装着可能で、コントローラーを使い、車いすからベッドやトイレへの移乗や移動を支援する。さらに、これら介護ロボットの動作を仮想空間上で検証するプラットフォームを開発したのが佐渡山さんだ。「従来は試作と実験が主流だが、このプラットフォームを活用すれば、時間とコストを削減できる。施設環境や利用者の特性に合わせた検証も行え、開発製品の現場不適合を未然に防げる」と意義を語る。
 

安里さん(右)と佐渡山さん(後列左から3人目)、尾風さん(同2人目)、研究室のメンバー。研究室で開発した「移乗介助・移動支援一体型ロボット」は、車いすに装着し、ベッドやトイレへの移動を支援する


          
 

安里教授が介護ロボットの研究に関わるようになったのは、事故で杖歩行になった祖父の存在が大きい。後に動けなくなった姿を見て「自分の技術を役立てられないか」と考えるようになった。また事故で両足を失った米国のヒュー・ハー教授が「技術の未熟さこそが障がいである」と義足を開発したことに共感し、「私の専門である制御工学を福祉機器に応用しようと決めた」と語る。

安里教授はこれまで60人近くの学生を指導してきた。「理論を社会に役立つ技術へ応用する力を身につけ、主体的に取り組めるようになってほしい」と力を注ぐ。しかし、その研究には「資金とニーズの把握が課題」とも。研究費は国からの補助金や企業の支援に頼るが、十分な資金確保は容易ではない。また、技術者側と現場のニーズの視点のギャップも課題である。

例えば、「移乗介助・移動支援一体型ロボット」を開発した際には、作業療法士の助言でシーティング(座る姿勢)の重要性を知った。「適切な姿勢でなければ褥瘡(じょくそう)が発生しやすくなるという視点は、技術者だけでは気付かなかった」と振り返る。「技術が優れていても、現場で使いにくければ意味がない」と、介護施設などと連携し、利用者の生活の質を真に向上させる開発を目指す。

そんな現場の声から開発につながったのが「選択的意思伝達デバイス」だ。寝たきりの人でも瞬きや指先などのわずかな動きで意思を伝えられるもので、システム開発に取り組んだ尾風さんは、県外企業への就職が決まっている。「介護福祉業界ではないが、卒業後も先端技術の開発に携わっていきたい。その研究はいつかきっと介護にも貢献できると思う」と力強く語る。

研究室には、さらに研究を重ね開発に励む後輩たちの姿がある。研究室で培われた技術と精神は、これからも未来を切り開いていくだろう。


国立沖縄工業高等専門学校とは
中学校卒業生を対象に5年間または7年間の一貫教育を行い、大学や短大と同じ高等教育機関として位置付けられている。高専卒業生には大学3年次への編入資格および高専専攻科への進学資格がある。専攻科修了後「学士」の学位を取得することも可能で、学士を得れば大学院へ進学する資格がある。

 

 仮想空間上で動作を検証 


佐渡山さん(写真手前)は、安里研究室で介護ロボット開発プラットフォームを構築。コンピューター上の仮想空間で、介護ロボットの動作を検証できるシステムを開発した。LiDARと呼ばれるセンサーで周囲状況を確認しながら建物内での使用状況を確認できるため、従来の試作品を使った実験に比べコストを抑えられる。また、実物では難しい極端な動作をシミュレーションし、安全性やリスクを確認することも可能だ=下写真
 


「このシステムを実現するためには、大量のデータを処理できる高性能なコンピューターが必要で、一般的なものでは負荷が大き過ぎて画面がフリーズしてしまうこともあった」と佐渡山さん。前例のない研究だったため、参考資料もない中、2年かけ、システムを構築した。安里教授は「最終的にはVRを活用した疑似体験も可能なシステムにしたい」と研究を後輩へ引き継ぎ、さらなる発展を目指す。

 表情や動きを読み取り伝える 


尾風さんは、介護が必要な人の動作や表情を読み取り、他者に伝える「選択的意思伝達デバイス」の開発に取り組んだ。

写真は、脳血管疾患による片まひ者を対象としたもの。手袋型の入力端デバイスを介護が必要な人が装着すると、わずかな指の動きを感知して「寝返りを打ちたい」などの要望を選択。無線通信によってサーバーに送り、サーバーからスマートフォンに通知を送る仕組みだ。

開発した制御システムをもとに、入力端デバイスを指先や視線が感知できるものなど、利用者の障がいの状況に合わせたものにしていけば、活用範囲をさらに広げることが可能だ。


 


プロフィル/あさと・けんたろう
1980年、うるま市出身。琉球大学大学院理工学研究科で学位、博士(工学)を取得。2011年4月から国立沖縄工業高等専門学校機械システム工学科教員として赴任。制御工学を中心に教育研究に携わる。家族が要介護状態になったことがきっかけで介護ロボット開発に取り組む。現在、専攻科生2人、本科卒研生4人の学生とともに,ADL支援介護ロボットの開発や仮想空間による介護ロボット開発プラットフォーム構築などの研究に携わる。


撮影/比嘉秀明 取材/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』共生社会を支えるひと
第1961号 2025年03月13日掲載

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