彩職賢美
2024年9月12日更新
アソシアホイスコーレのマネージャー 佐久本菜央さん|誰もが輝ける 未来を目指す[彩職賢美]
9月は発達障害福祉月間。障がい者の自立を支援する「アソシアホイスコーレ」マネージャーの佐久本菜央さんは、時に母、姉、友人のように当事者に寄り添い、支える。「誰にでも苦手なこと、得意なことがある。診断名でなく、一人一人に向き合う社会であってほしい」と語る。
人や社会とつなげて「自立」へ
アソシアホイスコーレ マネージャー
佐久本菜央さん
興味や趣味の枠を広げ
他者と関わる力を育む
まるでカフェのように洒落(しゃれ)たインテリアと開放的な空間が広がるアソシアホイスコーレ(神谷牧人代表・北谷町)。そこで日々、親しみある表情で迎えてくれるのが、マネージャーの佐久本菜央さん(35)だ。
アソシアホイスコーレは、精神障がいや発達障がいのある18歳から20代の若者を対象に生活訓練を行う自立支援施設。2016年から170人余りに関わってきた。また、15~17歳を対象とした放課後デイサービスも併設している。
佐久本さんは「自立とは人や社会とのつながりを持つこと」と強調する。苦手なことを克服するのではなく、興味や趣味という“枠”を広げ、その枠がいつか誰かの枠と交わり社会とつながることを目指す。「生活能力の向上だけでなく、コミュニケーション能力や他者との関係づくりに力を入れています」と熱く語る。
ヨガやスポーツ、料理、音楽バンド活動など、体験型のカリキュラムが豊富に用意され、さらに外部講師によるアートやダンスの指導もあり、利用者は新しいことに挑戦しながら、趣味や関心を広げる機会を得る。佐久本さんは「自分探しが一番の目的。利用者はここに来るまで、人や社会と離れ、楽しいと思うような経験のない人が多い。まずは体験することが大切」と語る。利用者の生活基盤を整えることから始め、施設での日常生活を通じて、次第に人と関わる力を育んでいく。「周りの人も、障がいを気にし過ぎて構えるのではなく、普通に接し、気持ちを損ねたら『ごめんね』でいい。お互いの関わりの中で伝わりやすい言い方も分かってきます。そうして自己理解を深め、ストレスの解消法を見つけながら、就職、進学、復学など、未来に進む準備も整ってきます」と笑顔で話す。
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以前は、ホテルのフロントマンとして観光業に従事していたが、「より人に関わる仕事がしたい」と福祉業界へ転身した。専門学校で学び直し、社会福祉士の資格を取得。児童福祉系の事業所を経てアソシアに入社した。今年、マネージャーとして新たな役割を担うことになったが、「私はスタッフに支えられて今がある。仕事が楽しく、出勤が楽しみなんです」と笑顔を見せる。出産、育休を経ても、子育てしやすい環境が整っており、その経験を生かしてスタッフへのサポートに努めている。
入社後5年で特に心に残っているのは、生活保護を受けていた若者との関わりだ。最初は無気力で表情も暗かった彼が、佐久本さんらの支援を受けながら生活基盤を整えたことで、次第に表情が明るくなり、積極的に変わっていった。「彼が自分の感情を表現できるようになったとき、とてもうれしくて皆で喜びました」と目を細める。若者は施設で友人を作り、遊びに行くようにもなった。自信を付け就職を目指している。
生活訓練には2年の期限がある。その間に利用者が自立に向け最大限のサポートを受けられるよう、全力を尽くす。「復学の場合、その日が近づくと不安が強くなる人もいる。学校に電話連絡する際は、そばでサポートしたり、本人が希望すれば先生とやりとりをしたり、自立への過程すべてに伴走し、送り出し、きつかったらいつでも戻っておいでって声を掛けています」と語る。
就職に関しても、近年は理解のある企業が増えてきていると感じているが、佐久本さんは「障がい者雇用枠があるからではなく、診断名で見るのではなく、一人一人に向き合う、そんな社会になってほしい」と願う。支援者より伴走者でありたいとする佐久本さん。彼女の周りには、これからも輝く未来が広がっていくことだろう。
やりたいことを自由に選択
アソシアホイスコーレでは、ヨガやスポーツ、料理の他、グループ活動を通じてチームワークの大切さを学ぶチームビルディング、自分の得意なことやできないことについて理解する自己理解プログラム、音楽バンド活動など、体験型のカリキュラムが豊富に用意されている。さらに外部講師によるアートやダンスの指導もあり、利用者は自由に選択し、挑戦しながら、趣味や関心を広げていく。
写真はビジネスメーク講座の様子。「専門家の指導を受け、メーク後は自信に満ちた顔になっていました」と話す。
経験が自信や会話のネタに
アソシアホイスコーレに通う利用者は、長年、不登校や引きこもりなどで、人や社会と離れ、友達と出掛けたり、買い物したり、お茶しながらおしゃべりをしたりなど、楽しく過ごした経験のない人も多い。佐久本さんらは、利用者の意向も聞きながら、外出する機会を作っている。
写真は、首里城に出掛けた時の様子。「その経験は、彼らにとって、今後、誰かと会話するときの話題のネタの一つにもなるんです。自分のお小遣いでアイスクリームを買う経験も自信につながる」と佐久本さん。
母となり仕事への気持ちが変化
3歳の男児=写真=のいる佐久本さん。「母になって、人と関わること、仕事の向き合い方がめちゃくちゃ変わりました」と話す。
「ホイスコーレに通う利用者も息子も、みんな誰かの子どもなんだなあと思うと、みんながとてもいとおしい。みんな愛されるべき存在なんだ! という気持ちが強くなって、イラッとしなくなったんです。利用者同士のぶつかり合いやイヤイヤ期を迎えた息子に対しても、成長の過程としてかわいく感じる」とにっこり。「職場でも家庭でも、私、常にずっと幸せじゃん! と思っています」と満面の笑みを見せる。
プロフィル/さくもと・なお
1989年、埼玉県生まれ。10歳のとき、母親が出身地である沖縄で子育てがしたいと家族で移住。沖縄国際大学で心理学を学ぶ。卒業後、4年間、観光業界に勤務。27歳のとき、専門学校で福祉を学び、社会福祉士の資格を取得。卒業後、無料塾などを運営する事業所に就職。2019年、アソシアに入社。24年、アソシアホイスコーレのマネージャーに就任。趣味はウクレレ、書道、日記を書くこと。3歳になる男児の母。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/桑村ヒロシ 取材/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1438>
第1936号 2024年9月12日掲載