彩職賢美
2016年7月14日更新
[彩職賢美]フリーダイバー・木下紗佑里さん|水深70メートルを潜る
才色兼備『沖縄で働く女性は、強く、美しい』
内面と向き合い海を身近に
フリーダイビングとは酸素ボンベによる補助なしに海やプールで素潜りで潜水するスポーツだ。読谷村を拠点に活動するフリーダイバー木下紗佑里さん(27)は、ことし4月の世界大会でアジア人初となる世界新記録を樹立。「潜ることで内面と向き合い、水の世界がもっと身近に感じられる」と、話す木下さん。フリーダイビングに魅せられたきっかけや活動の原動力を聞いた。
水深が深くなると太陽の光が届かなくなり、世界は青に包まれる。呼吸を止め、自分の力で潜るフリーダイビング。木下さんは「苦しくはない。リラックスして水を楽しめる時間」と白い歯をのぞかせた。
ことし4月、カリブ海のバハマで行われた国際大会で、呼吸を止めフィンを付けることなく、自身の泳力だけで垂直に潜水する「コンスタントノーフィン」の部で72メートルまで潜ることに成功。アジア人初となる世界新記録を樹立した。2013年から競技を始め、破竹の勢いで成長を続けている。
長崎県で育ち、水泳を教える両親の下、0歳から泳ぎ、中学高校は競泳選手として勝負の世界に身を置いた。「勝つとうれしいし頑張っていたが、プレッシャーや苦しさで辞めようと思ったことは一度や二度ではなかった」。
高校を卒業後、競泳は引退。大学でスキューバダイビングを始め、インストラクターになろうか考えていたときフリーダイビングと出合った。
講習で「水中で息を止めることも泳ぐことも知っていたはずなのに、思うようにできなかった」と難しさを実感。それ以上に「全身で感じる水はとても心地よく、これまで知っていた感覚とは別ものだった。新たな世界が広がった」との発見があった。「ボンベもフィンも何も付けずに泳ぐときは空を飛んでいるみたい」とその魅力も語る。
フリーダイビングに惚れこみ、その世界に飛び込んだ木下さんだが、最初から順風満帆だったわけではない。
潜水への恐怖や緊張は常に隣り合わせ。記録も伸びず、うまくいかなかった。「潜る上で大切なのは、技術や体の使い方より自分と向き合うこと」。
そこで「なぜフリーダイビングがしたいのか」など、自らの内面を探り、すべてを受け入れようと決めた。潜りながらも、焦りや緊張、自分の弱さとも向き合うように意識づけた。すると集中力が高まり、感情のコントロールもできるようになった。「前はもっとピリピリしていたけど、自分から逃げなくなったことで実生活でも焦らないし、ストレスもなくなった」と話す。
14年、海洋種目の強化のため読谷村に移住。「沖縄の海は青がとても美しく、フリーダイビングには絶好の環境」だ。初めての土地での練習に不安はあったが「漁師さんは大切な漁場を練習に使わせてくれたり、船を出してくれた。チームメートはいつも助けてくれて、地域の人も応援してくれている」と、周囲の声に支えられ、移住後の大会では好成績を収め続けている。「自分の力や気持ちだけでは無理。多くの人の協力があったからこその記録。『沖縄は温かい』」と実感を込める。
今後の目標は二つ。一つは選手として大会へ参加し記録を更新すること。
もう一つが、競技の周知や後進の指導や育成に携わること。「水中の楽しみ方や素晴らしさを伝えたい。潜水を通して、自分を見つめるきっかけを沖縄の海から発信したい」と意気込む。
「暗い海中から戻るとホッとする。太陽があって、待っていてくれる人たちがいる。一人で潜っても孤独ではないと感じられる。それもフリーダイビングの魅力であり、楽しさ」。木下さんの挑戦は始まったばかり。
潜水中の木下さん。フィンを足に着けて潜ることもあるが、写真はボンベなどの器具は装着せず、自分の力だけで深く潜っているところ(本人提供・篠宮龍三氏撮影)
お守り、日本食は必携
大会や遠征に欠かせないものは「両親からのお守り、塩、梅干し、日本食」という。「大会はコンディションが重要。日本食を必ず持っていく」そうでスーツケースの半分を占めることも。
大会前はリラックス効果のある曲を聴きながら目をつぶり、深い呼吸を繰り返し、集中力を高める。「楽しいことやみんなが笑っていることなどを想像。もちろん競技をイメージし、いい記録を出した時のことも」とにっこり。
大会に臨む際は「あの場所の空気感も楽しむ」とも。「フリーダイビングの良さは、潜水し海面に戻ってきた選手を全員が拍手で迎えるところ。ライバルであっても、みんなで健闘をたたえ合う。気持ちがつながる素晴らしい競技だと思う」と話した。
木下さんのハッピーの種
Q.両親の反対などはありませんでしたか?むしろ、一番の理解者です。両親の後押しもあったから今競技を続けられていると思います。
また、プロとして活動する中、スポンサーも自分で集めて回りました。しかし、日本ではなじみが薄い競技。「なんで潜るの?」「自分の子どもにはさせたくない」など、厳しい声を聞くこともありましたが、競技のことを説明し、大会に出場。記録を伸ばすと、応援してくれる人も増えました。こうした応援も本当にありがたいです。
Q.フリーダイビングの楽しみ方は?
海を全身で感じ、海を通して自分を見つめること。そこで大切なのが呼吸法。一呼吸で長く潜水をするためにも欠かせません。呼吸一つで気持ちをリラックスさせたり、心拍数や血液の流れなどをコントロールしたり。慣れてくると苦しくなくなりますよ。
また、今月23日(土)・24日(日)には恩納村の真栄田岬沖を会場に「沖縄フリーダイビングカップ2016」という大会も開催。私はスタッフとして参加します。興味がある方はチェックしてみてください。
<問い合わせ先>
sayuri.k1231@gmail.com
フェイスブック:https://m.facebook.com/Sayuri-Kinoshita-ferrdiverフリーダイバー木下紗佑里-320037798188092
PROFILE
木下紗佑里(きのした・さゆり)
1988年長崎県出身。0歳から水泳を始め、高校卒業までは競泳選手として競技生活を送る。大学卒業後、スイミングスクールに就職。在職中、フリーダイビングを始める。2014年、沖縄に移住。16年4月バハマ国際大会でアジア人初の世界新記録を樹立。6月AIDA認定フリーダイビングインストラクターの資格も取得。沖縄フリーダイビングチーム トゥリトゥリ所属
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撮 影/比嘉秀明
編 集/相馬直子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1221>・第1513号 2016年7月14日掲載
この記事のキュレーター
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- 相馬直子
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編集者
横浜市出身、沖縄で好きな場所は那覇市平和通り商店街周辺と名護から東村に向かう途中のやんばる。ブロッコリーのもこもこした森にはいつも癒されています。「週刊ほ〜むぷらざ」元担当。時々、防災の記事なども書かせていただいております。被災した人に寄り添い現状を伝えること、沖縄の防災力UPにつながること、その2点を記事で書いていければいいです!