彩職賢美
2021年10月28日更新
[沖縄・輝く女性を紹介]彩職賢美|AIOアーツマネージャーの内間直子さん|アートと社会をつなぐ
沖縄には、美術、芸術、音楽など、さまざまな分野で表現する人がたくさんいますが、その活動と社会を結ぶキュレーターの役割を担う存在が少なすぎる。アートプロジェクトを企画・運営して、沖縄のアートシーンをリードする人材を育成していきたいです。
実践でキュレーターを育成
AIOアーツマネージャー
内間 直子 さん
アートに正解求めない クロスオーバーを促進
1997年、ロンドンに渡り、大学で写真と現代アートを専門に学んだ内間直子さん(47)。英国では多くの美術館が無料で観覧でき、生活の中にアートが身近にある。欧州のアートシーンを目の当たりにした内間さんは、「日本の社会や教育で培われた、アートを含む社会や物事に対する固定観念が覆され、心が解放された」と話す。英国で見た日本映画や展覧会などから、そのような場を企画、運営する側として、アートと社会をつなげる役割に興味を持つようになった。
また、13年間の英国生活で沖縄という原点を見直し、沖縄の芸術文化を誇らしく思うようになった。勤めていた会社がリーマンショックで倒産したときは「離婚も重なり、精神的にひどく落ち込んだ」が、一時帰省で足を運んだライブは「感動する心と生きる力を取り戻せた」と語る。
2009年に企画した「ロンドン沖縄DAY」は、沖縄の芸術文化を紹介する欧州最大の沖縄イベントになった。
「沖縄に居ると、ヨーロッパの美術館にあってもおかしくない作品が何げない場所で飾られていたりする。沖縄には、さまざまな分野で素晴らしい作品を生むアーティストがたくさんいることに改めて驚いた」と内間さん。同時に、そんなアートと社会をつなぐ役割を持った、キュレーターやアートマネジャーのような存在が少なすぎると感じた。また、小学校で「空は青」といった固定観念を押し付けたり、正解を求められる日本の美術教育にも疑問を持つようになった。
内間さんは「子どもや沖縄の人々に、本物のアートに触れる機会や、いろんな分野のアーティストがクロスオーバーして刺激を与え合う場をつくり、沖縄のアートと社会をつなぐ人材を育成したい」と考え、琉球大学教育学部美術教育准教授のティトゥス氏や有志とともにAIO(アート・イニシアチブ・オキナワ)を設立した。
コロナ禍で活動計画は変更ばかりだが、アーティスト、行政、メディア、学生など、さまざまな立場の人が参加するオンライン会議などを積極的に開催。「AIOの強みは世界に広がるネットワーク。各国の事情から学ぶことが多かった」と話す。
特にドイツはコロナ禍でいち早くアーティストへの支援対策を打ち出したことが注目された。「アートは生活に必要不可欠という、アートに対する国民の信頼の高さを感じた」と内間さん。「不安や閉塞(へいそく)感を持つ人が多くいる。アートの力は今こそ必要だと思う」と力を込める。
「早く行きたければ、一人で行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け」というアフリカのことわざが好きだという。さまざまな人と協力しあい、アートとさまざまな分野をつなぎながら、「沖縄のアートの創造拠点になりたい」と目を輝かせる。
「アートを社会へ分かりやすく、効果的に見せて橋渡しをするのがキュレーターの重要な役割。魅力的な施設や企画の裏側にはそういうキュレーターの存在がある」と話し、イベントの企画立案から開催に至るまで、関係者との話し合いや、運営スタッフとして主体的に取り組ませるなど、実践を通したキュレーターの育成にも力を注ぐ。11月には、2回目となる「サウンドスケープオキナワ」=下記事参照=を開催予定だ。
「アートは一方通行の発信だけでなく、対話がキーワードになる。アートに正解は求めない。気軽にその場を楽しんで、ぜひ感想を聞かせてほしい。そして、家族や友人と見たこと感じたことを話してシェアしてほしい。それが、アートの発展につながると思うんです」。シェアの瞬間を内間さんも楽しみにしている。
「サウンドスケープオキナワ 2021」開催
AIO提供
AIOは11月、南城市糸数城跡を会場に「サウンドスケープオキナワ 2021」を開催する。
同イベントは昨年12月に続き2回目。「さまざまなジャンルのアーティストによる演奏や展示作品と風景を楽しむ、音の野外美術館」と内間さん。観客が自由に城内を動き回り、それぞれのタイミングで音の風景を感じて楽しんだ昨年のイベントは、国内外から大きな反響を得た。
会場:糸数城跡(南城市玉城糸数133)
<前夜祭>11月19日(金)17時~21時。事前にチケットの購入が必要。
<メインイベント>11月20日(土)、21日(日)13時~17時。事前にチケットの購入が必要。
詳細は下記の特設サイトで確認を。
◇https://soundscape.okinawa
創造のプロセスを楽しむ
「サウンドスケープオキナワ2021」のプレイベントとして、去る10月2日~10日には、大田和人さんの私設美術館「キャンプタルガニー」(糸満市)で展覧会を開催。制作過程の発表も行った。内間さんは「作品が展示されるまでの段階的なところを見る機会はあまりない。そのプロセスを見せることで、アーティストが何に着想を得て、どう作り上げ、アイデアを広げて展開していくのかというのを知ってもらいたかった」と話す。
アーティストの1人である上地gacha一也さんは、扇風機の風や来館者がたたくシンバルなど、その場の音を拾い、映像に融合させてモニターに映す作品を発表。制作公開では、芸大生らが積極的に話し掛けるなど高い関心を示され、内間さんは「学生から質問が出るなど、作者も意見交換ができたことを喜んでいた」と笑顔で振り返る。
プロフィル
うちま・なおこ
1974年、沖縄市出身。97年、渡英。Westminister Kingsway Collegeにて、写真とファインアートを専攻。2009年、ロンドンで沖縄の芸術文化を紹介する「ロンドン沖縄DAY」を企画。11年に帰国。名嘉睦稔氏の「アカラギャラリー」、OCVB 沖縄フィルムオフィスなどでプロジェクトの企画、制作、運営に携わる。20年、琉球大学教育学部美術教育准教授のスプリ―・ティトゥス氏とともにAIO(アート・イニシアチブ・オキナワ)を設立。ESM Okinawa代表。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明 文/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1391>
第1786号 2021年10月28日掲載