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2023年1月19日更新

再生医療でQOLに貢献! ~痛みや難治性疾患に 沖縄でも新たな選択肢~|当山美容形成外科 開院70周年記念座談会

沖縄県内でいち早く最先端治療「再生医療」に取り組んできた当山美容形成外科。院長の当山拓也氏と会長の当山護氏に、研究と臨床の両面でともに手を携えてきた東京大学整形外科学准教授の齋藤琢氏、再生医療認定医で細胞培養加工施設CPC(株)取締役の辻晋作氏を交え、再生医療の今を語り合いました。


東京大学整形外科学准教授 齋藤琢氏
東京大学整形外科学准教授
齋藤 琢 氏

東京大学医学部卒業後、東京大学整形外科の研究室にて、変形性膝関節症の基礎研究と再生医療研究にあたる。東京大学大学院医学系研究科整形外科学准教授。東京大学医学部附属病院骨粗しょう症センター長。

再生医療認定医/形成外科専門医 辻晋作氏
再生医療認定医/形成外科専門医
辻 晋作 氏

東京大学医学部卒。東京大学整形外科との共同研究で生まれた脂肪由来幹細胞TOPs細胞®を用い、アヴェニューセルクリニックで治療にあたり、TOPs細胞®を培養する施設CPC株式会社の取締役・事業統括医を務める。

当山美容形成外科会長 当山護氏
当山美容形成外科会長
当山 護 氏

東京医科大学卒業後、東京警察病院形成外科、当山美容形成外科院長を経て、17年、同院会長に就任。日本臨床形成外科医会元会長・理事、那覇医師会元会長、第24回日本美容外科学会会長などを歴任。

当山美容形成外科院長 当山拓也氏
当山美容形成外科院長
当山 拓也 氏

東京医科大学卒業後、東京大学医学部形成外科学教室入局。東京西徳洲会病院形成外科・美容外科医長、アヴェニュー表参道クリニック副院長などを経て、2016年、医療法人形成会当山美容形成外科副院長。17年、同院院長に就任。

 

法律が安全性を守る 日本の再生医療

―日本の再生医療の現状は?

齋藤 再生医療というと耳や手が生えてくるようなイメージがありますが、現時点で実用化されているのは、弱っている臓器や組織に元気な細胞を加えることで自然治癒力を高めるような研究や治療です。

私たちが使っている間葉系幹細胞は、20数年前から研究されてきたもので、この細胞から何かを作って体内に戻すのではなく、幹細胞をそのまま傷んだ患部へ投与したり、静脈を通じて体内へいきわたらせることで、炎症や痛みの改善が期待できます。


「ヒアルロン酸注射と手術の中間にあたる、変形性膝関節症の新たな治療法です」(齋藤)


―日本の再生医療にはどんな種類があるのでしょうか?

当山拓也 研究段階にあるiPS細胞や他人の細胞を移植するなど、人体に未実施で高リスクな第1種、骨髄や脂肪などから採取する間葉系幹細胞を使った、すでに治療が進行中で中リスクな第2種、PRP療法や免疫療法など、主に血液や脂肪などを加工して使う低リスクな第3種に分類され、当院での治療は主に第2種になります。厚生労働省のホームページで確認できる限りでは、昨年8月時点で沖縄県内で提出された第2種再生医療計画は7件あり、そのうち4件が当院になります。

治療では辻先生が開発した器具で患者さんの腹部を少しだけ切って、米粒二つ分ほどの皮下脂肪を採取し、そこに含まれる幹細胞を培養して使います。脂肪には幹細胞が比較的多く、培養しやすい特徴がありますね。

齋藤 自分の体から採った細胞を培養して戻すので、安心安全な治療だと言えると思います。


◆再生医療等安全性確保法の手続き等のイメージ
再生医療等安全性確保法の手続き等のイメージ


―日本ではどのようにして安全性が守られていますか?

 自費診療は従来、患者と医師との間に同意があれば、医師の責任の下に治療が行えます。しかし、2014年に再生医療等の安全性の確保等に関する法律(以下、安確法)ができて、たとえ患者が望んでも、法にそぐわない場合は再生医療の治療は行えないという規制ができました。

安確法は、国民に迅速かつ安全に再生医療を届けるための法律です。安全性という意味では、再生医療を受けた患者の状況や有害事象などについて年に一度、定期報告を行わなければなりません。再生医療に使われる細胞の培養加工施設も、すべて国に届出・許可が必要となり、年に一度の定期報告の義務もあります。つまり、再生医療の治療と細胞培養に関することは、すべて国の管理下になったことで、安全性が担保されたわけです。

また従来、医師の責任の下に院内施設で行わなければならなかった細胞培養を、専門施設に委託できるように。これにより再生医療を行う全国の医療機関が診療だけに従事できるようになり、迅速に再生医療を実施できるようになりました。

私自身も他の医療機関へ提供できる細胞培養施設に携わっていますが、日本では10数カ所とまだまだ少ないのが現状です。


「他の医療機関へ提供できる細胞培養施設は、CPC以外に国内ではまだまだ少ないです」(辻)


当山護 再生医療は今が創成期。何ができ、どんなリスクがあるのか、患者さんにはまだまだ分かりにくい。そして、医療側の倫理観を確立するために、法律で規制しようとしているのが、日本の現状だと思います。再生医療の名前だけが先行している中で、医療者がしっかりとした倫理観や自浄作用を持つことが、今後の礎になるでしょう。


CPC社の細胞培養加工室(写真提供:CPC株式会社)CPC社の細胞培養加工室(写真提供:CPC株式会社)
CPC社の細胞培養加工室(写真提供:CPC株式会社)

 

空輸されるTOPs細胞®医師が合同勉強会も

―TOPs細胞®とは?

齋藤 Tは東大、Oは整形外科、Pは形成外科の頭文字で、再生医療の頂点を目指そうとの想いを込め、努力の結晶をTOPs細胞®と名付けて商標登録しました。

患者さんから採取した脂肪を特許出願中の特殊な素材にのせ、幹細胞をより分け、専用の培養液で増やします。投与する日に合わせて最初は数百個だった幹細胞を2~3週間で約1億個に増やし、できたTOPs細胞®を注射器や点滴で患者さんに投与します。

 TOPs細胞®の培養を担当する私たち加工施設CPCが一番時間をかけてきたのは、培養にあたる技術者の教育です。非凍結細胞は予定日に投与できないとすべてムダになってしまうのですが、凍結細胞に比べ投与後の腫れや発熱などの合併症が少ないので、非凍結にこだわっています。

沖縄へ航空便で送る際は、搭載前に放射線をかけないように依頼し、温度を2~8℃で厳守するため、東京のCPCから沖縄の当山美容形成外科に届くまで、細胞の容器のそばにセットした温度計を双方からリモートでずっと監視し、記録しています。

当山拓也 治療の際も、辻先生と齋藤先生の共同研究で改良が重ねられたTOPs細胞®を、最高の状態で患者さんに戻せるよう、細心の注意を払っています。


◆細胞輸送の流れ
細胞輸送の流れ



「沖縄県民の人生や生活の質を向上する先端治療。その一つが再生医療です」(当山護)


―TOPs細胞®を使う医師が集まってオンライン合同勉強会を?

当山拓也 細胞治療が非常に有効だった例や今ひとつだった例を持ち寄り、それはどうしてなのか意見交換を重ねています。

齋藤 整形外科で患者さんが一番多いのが変形性膝関節症で、日本の人口約1億2千万人のうち約2千万人は関節の変形が認められ、その半数弱が痛みに苦しんでいます。細胞治療は、ヒアルロン酸注射と手術の間にあたる位置づけで行っていて、とても有効な方もいれば、それほど効果のない方もいます。

どれくらいの確率で効果が見込めるか、事前に患者さんへお伝えする際に、今までは海外の改善率のデータを参考にしていましたが、合同勉強会を立ち上げてからは、持ち寄ったデータを突き合わせ、MRIなどで関節の骨や軟骨などの状態を細かくチェックすることで、かなり正確に治療後の予測ができるようになり、患者さんにお伝えできるようになりました。

 変形性膝関節症は、細胞治療だけではなく、その後のリハビリや後療法がとても大事。患者さんに良くなってもらいたい気持ちはみな同じなので、「治療後に、こういうリハビリをしたら、もっと良くなった」という報告があれば、「ならば、うちも」となるわけです。

さらに齋藤先生の基礎研究が大きな役割を果たしています。TOPs細胞®が最終的に組織を再生することはあっても、それがメカニズムの中心じゃない。変形性膝関節症でいうと、痛みを取るためにどんなタンパク質が出て、どんな遺伝子変化が起きているのか、ちゃんと研究して裏付けてくれるので、安心して細胞治療を続けられています。

 

「また、できる」喜び 人生に光を取り戻す

―治療後の患者さんの声は?

当山拓也 当院では変形性膝関節症、脳梗塞の後遺症、難治性アトピー、皮膚の加齢性変化に幹細胞治療を行っていますが、変形性膝関節症の治療後、痛みが半減した、杖(つえ)が不要になったという感想があり、脳梗塞の後遺症で言葉がうまく出なくなった女性の患者さんが、息子さんの名前を呼べるようになった例もありました。

齋藤 変形性膝関節症で痛くて動けなかったのに、海外旅行、社交ダンス、テニス、卓球、ゴルフなどへの復帰や孫の送り迎え、スーパーを1周できるようになった方もいらっしゃいました。患者さんが何を取り戻したいのか、何ができるようになりたいのかを詳しく聞き、その期待に応えられる確率はどのくらいかを伝えてから治療にあたると、目標に向かってうまく治療が進むことが多いですね。


―再生医療を受けたいときは?

齋藤 厚生労働省のホームページに再生医療を提供する医療機関の名前と説明同意文書があり、治療内容や価格まで記載されています。これらを確認して医療機関を選ぶことが大切です。


「東アジアの玄関口である沖縄から、安心で質の高い再生医療を世界へ届けたい」(当山拓也)


―再生医療の可能性や、沖縄で行う意義などについては?

齋藤 再生医療の可能性は無限で、100年先には失われた手や臓器を再生させることができる時代が来ると思います。

 一人一人の患者さんの細胞培養にきちんと取り組みつつ、患者さんの身体的負担とともに経済的負担も減らしたい。安全性を守りながら少しでも手に届きやすい価格で提供できるよう、工夫を重ねていきたいですね。

当山護 再生医療は、生活の質を高めてくれる、できたての新技術。人生120年時代がくるといわれる中、その第一歩が始まったと感じます。今後の研究も大いに期待できますし、われわれももっと努力しなければ。

当山拓也 沖縄は上海、台湾、韓国などから非常に近い東アジアの玄関口。法整備された日本から安心で質の高い再生医療を世界に届けるには、地理的優位性が高い沖縄でやることに非常に意義があると思います。

沖縄は高い志を持って医療に取り組んでおり、今後ますます発展していくと思います。いつか一緒に再生医療に取り組もうと志してきた仲間と、こうして沖縄で実現できたことを、幸せに感じています。



<この記事に関する問い合わせ先>
医療法人形成会 当山美容形成外科
098-867-2093
http://www.touyama.com/
Eメール info@touyama.com

<過去記事一覧>


『週刊ほ〜むぷらざ』当山美容形成外科 開院70周年記念座談会
第1850号 2023年1月19日掲載

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