やまくにぶーの甘く危険なかおり |新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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新城和博

2020年8月5日更新

やまくにぶーの甘く危険なかおり |新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.74|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



やまくにぶーの甘く危険なかおり

少し気をゆるめたい。遠くまでいかなくていいから、ほんの少しだけ、ちぢこまったこころとからだをのばしたい。

そう思っているうちに、新型コロナウイルスの次の波がやってきてしまったようだ。予想はしていたものの、それを上回るスピードで感染がひろまり、また自粛生活せざるえない状況ではじまった8月。

テレビから流れるドラマを見ては、登場人物がマスクをせず、普通に会話して接触しているのをみて、ふと別の世界の話を見ているような気がした。アナザーワールドという設定はSF、ファンタジーの設定かと思っていたら、ぼくらはすでにその世界に来てしまったのだなぁと実感した。

それでも、これまでの生活、季節感を手放したくない気持ちがある。いつもやっていたことを普通にしたい。遠くまで行かなくてもいいから、ほんの少しだけ前と同じようなこと。



市場通りで店を再開した小商い業の彼女と、マスク越しの立ち話&座り話していたら、通りを歩いていた別の知り合いが手にしていたものに、はっとした。この時期にしかない、新聞紙に包まれた、あるものといえば、やまくにぶーに決まってる。

やまくにぶーは、沖縄ではむかしから使われてきた、衣服などの防虫用の香りのついた草。本部町の山間で自生しているやまくにぶー(和名・モロコシソウというらしいけど)の枝葉を独特の技術で加工したもので、この時期にほんの少ししか市場でも出回らないものなのだ。天然の防虫・芳香剤である。

その香りはなんとたとえようかしら、小さい頃、おばぁの家に行くと香るにおいとでもいえばいいのか。しっとりとしたような、かわいたような、鼻を刺激するのではなく、こころの奥をやすめてくれるような…。でも昆布みたいなうまみのあるにおい。

うちの家族はこの香りが大好きで、毎年、この時期になると、市場の情報に気をつけているが、しかし、ときに買いのがしたりして、来年こそはと思ったりしていた。でも今年は新型コロナ騒ぎで、やまくにぶーも作られてないんだろうなと思っていたのだ。

さっそく売っている店をきいて、仮設の公設市場へ向かった。

細々としたうちなーあれこれを売っている店先につるされたやまくにぶーの束を指さし、三つ買った。店のおじさんは、新聞紙でくるりくるりと包み、手渡す。そう新聞紙じゃないとねー。

ひと束600円。新聞紙ごしのしっとりとした感触を感じる。店の前には数人の市場のおじさんたちが、刺し身をつまみながら、ゆんたくしている。ぼくが、まよわず、やまくにぶーを買っているのをみて、「にいさんは、首里の人ねー」と聞いてきた。ぼくは正確には「首里の人」ではなく、「首里に住んでいる人」なのだが、そうだと答えると、「やっぱりねー。やまくにぶー買う人は首里の人が多いよね」という。なるほどね。なんとなくわかる気がする。

 

琉球のむかしから衣服の防虫・芳香としてつかわれてきた、やまくにぶー。うちではクローゼットにつるすのではなく、リビングや台所につるしている。ウイルスはやっつけないけれど、少しだけ気をゆるめたい。ちぢこまったこころとからだだけど、その香りにつつまれながら、これから先のもうひとつの世界を夢見てみたい…。


 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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