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COLUMN

翁長響子

2016年12月26日更新

KOS HAIRDRESSING・翁長響子のコラム|PASSPORT CONTROL

美とファッションの街「ロンドン」で腕を磨き、地元沖縄で美容室を経営する美容師・翁長響子さんがつづる「美」のコラムです。私のインスピレーションvol.03

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PASSPORT CONTROL(パスポートコントロール)

私が初めてイギリスのヒースロー空港に降り立った当時、学生ビザの発行は入国審査官によって行われていた。
必要な書類さえそろっていれば、ほぼ間違いなくビザは発行される。
そう言われていた。
全ての書類を握りしめ、私は長い列に並んでいた。

飛行機の中がひどく乾燥していたので、喉がイガイガしせきが出る。
タイミングの悪いことにその時世界中で問題となっていたのが、SARSという中国からの感染症だった。
東洋人の私がせきをしていると、周りの人は皆、けげんな顔をしていた。
この向こうには、小学校からの親友が迎えに来てくれている。
私より2年先にイギリス留学を始めていた彼女は、強い味方だ。

入国審査の順番がどんどん近づいてくる。
いよいよイギリスで初めての英会話!
準備は万端だった。沖縄で英会話を猛特訓し、先生に日常会話は問題ない! そう太鼓判を押されていた。

入国審査官はドレッドヘアーのおばちゃんだった。

「○〓▲○〓▲○〓▲○〓▲」

ん?

「○〓▲○〓▲○〓▲○〓▲」

1ミクロも理解が出来なかった。おばちゃんは私の手から書類とパスポートを奪い取った。
怖い。。 容赦なくしゃべるおばちゃん。私の頭の中は真っ白。
でも、何かしゃべらなきゃ!!そして私の口から出たのは、

「Study English.」

するとおばちゃんは笑いながら、

「NO NO NO! Your father's job.」

よし。今度は聞き取れた。
しかしおばちゃん! 私のお父さんの仕事は一言では表せないよ!
基礎工事のくいを打つ仕事って英語で何ていうんだ!?
お父さんどうして Policeman とか Teacher じゃないんだ。
など、どうにもならない事が頭を駆け巡っていた。
やりとりは40分続いたが私の発した言葉は、「あー」と「Study English」のみ。
焦れば焦るほどせきこんだ。


おばちゃんが遠くにいた男の人を呼び、何か話しをしている。
男の人に誘導され、別の部屋に連れていかれた。
私の心臓はすでに口から飛び出し、無くなっていた。まったくの放心状態。
書類を渡され”コレを書け”という、ジェスチャーをされた。
電子辞書を使い、時間をかけて書き終えると、

「YOU CAN GO」

と、部屋から出された。
ドアの上にHealth Control(ヘルスコントロール)と書かれてあった。
なるほど。せきをしていたからここへ連れて来られたのか。

私は親友の待つ出口へと向かった。出口から出ると、ロビーにほとんど人はいなく、親友の姿も無かった。
どうしよう。。。パニックは続く。
公衆電話があったので、使おうと試みてみるが小銭がない。
VISA MASTER マークが付いている。クレジットカードが使えるみたいだ。
わちゃわちゃしている時に後ろから

「きょうこ~」

振り返ると変わらない親友の姿があった。遅刻してごめんと彼女は言った。やっと私の心臓が動き出した瞬間だった。
あの時の彼女の声は今でも耳に残っている。

こうして私のイギリス生活が始まった。



翁長響子さんのコラム
・vol.04 美容師のファッション​
・vol.03 PASSPORT CONTROL
・vol.02 suitscase
・vol.01 世界をインスパイアするイラブチャー

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宜野湾市出身 美容師
20歳の時、単身イギリス、ロンドンへ渡る。
ロンドンで美容師資格を取得。現地の有名サロンで10年の経験を積む。
サロンワークのみならずLONDON FASHION WEEKのバックステージを12シーズン務める。雑誌の撮影や賞の受賞、入賞も経験。
30歳で帰国。
その後、宜野湾市真志喜で KOS HAIRDRESSING をオープン。

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