翁長響子
2016年11月29日更新
KOS HAIRDRESSING・翁長響子のコラム|suitscase
美とファッションの街「ロンドン」で腕を磨き、地元沖縄で美容室を経営する美容師・翁長響子さんがつづる「美」のコラムです。私のインスピレーションvol.02
世界のウチナーンチュ大会の記事を新聞で読むたび、世界中で活躍するウチナーンチュたちのスゴさに本当に感動する。
彼らに比べると、私の10年間のイギリス生活はとってもピヨッコだけど、記憶の断片を書かせていただきます。
出発の日の朝、私のスーツケースは玄関で大きく開いていた。パンパンに詰め込まれた洋服は今にも破裂しそうだった。飛行機に乗る時は、必ず家を出る直前までスーツケースを閉めない。お姉ちゃんに教えてもらった荷造りのコツ。
そのスーツケースをいよいよ閉める時がきた。東京経由でロンドンへ出発。パンパン過ぎて閉まってくれないスーツケースの上に乗り、思いっきり体重をかけてやっとの思いでカギをかけた。
suitscase
重い重いスーツケースは私の気持ちと一緒だった。
自分で選んだ挑戦だけど、怖くて気持ちが重い。
家族や友達、当時のボーイフレンドと離れ離れになるのが嫌で仕方なかった。
そんな気持ちを悟られないように皆が見送ってくれる中、私は飛行機に乗った。
東京で一泊し、翌朝成田からヒースロー空港へ出発した。
家を出てからずっと続いている緊張感は、飛行機の中でも全く収まらない。
画面で現在地をチェックすると、私はロシアの上にいた。
心を落ち着けようと、財布の整理をしてみた。
当分使うことの無い日本円を取り出し、両替したピカピカのポンド札を財布にしまった。
その時、見覚えのない紙が出てきた。
それは当時のボーイフレンドからの手紙だった。いつのまにか、しのばせていてくれたのだ。
読み始める前から、私の目からたくさんの涙がこぼれていた。
中には、頑張れっていう内容が2枚にわたってツラツラと書かれていた。
読み終えて思わず一言「長ッ!!」と声を上げ、笑いが止まらなかった。
私の顔は泣きすぎてパンパンに腫れていた。
隣が空席でよかった。
それから何度も何度もその長い手紙を読み返した。
おそらく100回以上読んだと思う。
何度読んでも、何度読んでもロンドンにはたどり着かなかった。
私はまだロシアの上にいた。
ロンドンはとっても遠く、ロシアはとっても広かった。
<続く>
翁長響子さんのコラム
・vol.04 美容師のファッション
・vol.03 PASSPORT CONTROL
・vol.02 suitscase
・vol.01 世界をインスパイアするイラブチャー
この記事のキュレーター
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- 翁長響子
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宜野湾市出身 美容師
20歳の時、単身イギリス、ロンドンへ渡る。
ロンドンで美容師資格を取得。現地の有名サロンで10年の経験を積む。
サロンワークのみならずLONDON FASHION WEEKのバックステージを12シーズン務める。雑誌の撮影や賞の受賞、入賞も経験。
30歳で帰国。
その後、宜野湾市真志喜で KOS HAIRDRESSING をオープン。