冬枯れた小径にて|新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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新城和博

2022年1月15日更新

冬枯れた小径にて|新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.91|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

那覇の冬枯れた風景も悪くない。

ひとけのない那覇市民会館の裏を流れるガーブ川沿いの砂利道を歩きながら思う、2022年1月。すでに成人式もおわり、新春気分はないのだけれど、旧暦12月8日のムーチーが今期一番の寒さを連れてきたおかげで、ようやく冬らしくなった。



川沿いの桜はまだひっそりとしている。ざく、ざく、ざくっ。砂利を踏みしめる音が思いのほか耳に心地よい。まるで雪を踏みしめているよう……。水面を覆うススキの穂がざわっと茂っている風景にはっとする。モノトーンのような与儀公園と続く川沿いの小径。老朽化のため閉鎖されて、ただ解体を待つだけの那覇市民会館は、立ち入り禁止のためのフェンスにぐるりと囲まれて寒々しい。だれも入れないはずなのに、モトクロス仕様の自転車が施設内の壁にぶら下がっている。いつ見ても不思議だ。



川をはさんで反対側には、これまた閉鎖されたままの旧沖縄県立図書館がじっとしている。ぼくが大学生のときに建て替えられた県立図書館は、旭橋に新しく建設されたビルに移転してしまった。いま元図書館の建物は閉鎖されたまま、誰も入ることはできない。いつも混んでいた駐車場の門も閉じられたままだけど、枯れ葉が風に舞っているなか、なぜかいつも数台車が駐車している。どのようにして入ったのだろうか。不思議だ。

那覇市民会館と沖縄県立図書館という大きな建物二つが閉鎖されている。ここにひとけがないのは当然だ。

ぼくは散歩しているわけではない。仕事に必要な書籍を借りに、那覇市中央図書館に行く途中なのだ。ここはもちろん閉鎖されていない。でもこの建物ってたしか復帰前の「琉米文化会館」だったはずだから、市民会館や県立図書館よりも古いんじゃなかろうか。ここもいずれ閉鎖されてしまうのだろうか。

そう考えると、与儀公園へと続くこのガーブ川沿いはなんとももの悲しいところになってしまったようだ。でもぼくは嫌いじゃい。



砂利道から中央図書館の入り口へと向かう階段をあがると、今日もいた。花壇の縁に首をうなだれて座っている高齢の女性の姿。ぼくが本を借りにいくとき、返しにいくとき、なぜかいつも同じ場所にいるのだ。というか3回ぐらいは見かけた。冷たい風に吹かれても薄着のままだ。

そそくさと仕事に必要な本と、ついでに趣味のための小説数冊借りて戻ると、あの女性はいなかった。なぜかほっとする。うなだれた姿をみないですむからだろう。

ひとけのない、といいながら、その女性のようなたたずまいのひとは、ぽつんぽつんといる。行き場所のない、とは思わない。川沿いのこの風景こそが、やがて私たちの通る道なのだから。

誰もいない冬枯れた川沿いの小径にひとり砂利を踏みしめて戻ると、桜の根元の草むらに白いネコがいた。そこだけ暖かそうな草むらのうえに、うつらうつらしていた。ひとけはないがネコにはそれなりに人気のスポットなのかもしれない。

もうすこしすると、この川沿いの桜の花が咲き始める。いまはそれを楽しみにして冷たい風をやりすごそう。




 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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