新城和博
2023年4月18日更新
春の行商で市場を歩きました|新城和博さんのコラム
ごく私的な歳時記Vol.105|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。
ウグイスの声が今年は早くから聞こえていた。ほー、ほきょきょ。最初は鳴き方がへたっぴぃなのだが、だんだんうまくなっていく。ホーホケッキョ、キョキョキョ。余韻も出てきた。やっぱり鳴き声が美しいとモテるのだろうか。鳴いているのはオスらしい。夜になると、フクロウの鳴き声がよく響いている。ホゥホゥ ホゥホウ。首里の弁が岳かいわいもそれなりににぎやかなのだ。春らんまんか……。
那覇の国際通りにも観光客が戻ってきた。そのにぎわいの人混みにまだ慣れることができずにいるのだけど、春はまたやってきたのだ。アフター・コロナというにはまだ早いのだけど、人気のなかった国際通りが懐かしい気持ちにはなっている。
そんななか、この連載をまとめた『来年の今ごろは ぼくの沖縄〈お出かけ〉歳時記』刊行記念〈お出かけ〉ツアー「遠くに行きたい 近場ですませたい」を、3月から4月にかけて行っている。なにかというと「著者(ワタクシです)がなじみの本屋さんに〈お出かけ〉して、トークイベント、まち歩き、ミニ朗読会、市場で行商したり」という企画である。イメージとしては、例えばニューアルバムを発表したアーティストが、その新譜をひっさげてライブツアーを行う、そんな気持ちである。なんちゃって、という心意気でもあります。久々のエッセー集発売ということで、地道に宣伝活動がんばってみようと、「ツアー」という名前を付けてみたわけです。爪先に灯(ともしび)をともすような、風が吹くと消えてしまいそうな、ほのかなイベントです。
本がらみのトークイベント、まち歩きは、いろんな場所で何度も行ってきたのだけど、今回初の試みとして、那覇の公設市場周辺の商店街通りで、「行商」をしました。コロナ期間中、ずっと工事していた「那覇市第一牧志公設市場」が、3月にやっと開場することになり、その記念として「市場の古本屋ウララ」が、「おかえりなさい、公設市場展」を開催する。その企画に便乗するカタチで、1日だけですが、リニューアルオープンする前日の土曜日、「新刊とその他の行商販売」をやってみたのだ。
市場の通りには、店舗を構えている商売とは別に、商品を運びながら手売りしている行商の方々がいる。荷物運ぶ一輪車に野菜載せたり、リヤカーにTシャツたくさん載せたり、さらには手持ちで総菜を売ったり。市場で一度商売してみたいという願望があるぼくは、第二の人生のプランとして、まずその行商のトライしようと思ったのである。半分シャレで半分マジな気分。
といってどうやるのか、まったく分からなかった。とりあえず駅弁のように、肩から箱を提げて売るスタイルでやるべ、と思ったのはいいが、その箱みたいなものはどこから入手すればいいのか。ネットで調べてみると、やはりあるのですね、名前がその箱にも。「立ち売り箱」というそうです。わかりやすい。立って売る。段ボールを使った簡易な立ち売り箱が通販されていたのだけど、たったひと箱だけの販売はない。組み立て方をみると、自分でも作れるような簡単な仕組みだったので、作ってみた。
事務所にある、本を詰めるための段ボール箱を使い(出版社なのだ)、肩から提げるためのひもは、市場にある手芸店で適切なアドバイスのもと買い求め、適当に箱に穴をあけて通してみた。首からぶら下げるのではなく、一方の肩を通して提げる。あまりたくさんの本は載せられない。本は重いのである。本の表紙が見えるように、ひもの長さ、持つ高さを考えて調整してみた。…………おー、なんかそれらしくなった。自宅であれこれ試していたら、ツレが苦笑して見ていた。ふふ。
さて3月18日土曜日、無事市場で行商デビューを果たしましたよ。市場中央通り、新天地市場通り、サンライズ那覇、太平通り、えびす通り、浮島通りを、てくてくと何度か往復しました。その時の気持ちをつづった日記のようなフェィスブックを見てみよう。こんな感じ。
思いの外売れました。ゆで卵ももらいました。
市場にいるおばちゃんたちには、何売ってるの、ほん?!
若いのにえらいさー、がんばってねと言われました。
いつも通ってる市場だけど、行商するだけで、違った風景が見えました。
ありがとうございましたと、言いたい気持ちです。
いやー、やってみないと分からない。市場で商売している人が声かけてくれて、また本も買ってもらいました。自作の立ち売り箱は、その1日だけで、すぐに解体しました。でもやろうと思ったら、手頃な段ボールさえあれば、すぐにできるのだ。第二の人生プランに「立ち売り」があるかもしれない……。
刊行記念〈お出かけ〉ツアー「遠くに行きたい 近場ですませたい」、まだ続いてます。
那覇の国際通りにも観光客が戻ってきた。そのにぎわいの人混みにまだ慣れることができずにいるのだけど、春はまたやってきたのだ。アフター・コロナというにはまだ早いのだけど、人気のなかった国際通りが懐かしい気持ちにはなっている。
そんななか、この連載をまとめた『来年の今ごろは ぼくの沖縄〈お出かけ〉歳時記』刊行記念〈お出かけ〉ツアー「遠くに行きたい 近場ですませたい」を、3月から4月にかけて行っている。なにかというと「著者(ワタクシです)がなじみの本屋さんに〈お出かけ〉して、トークイベント、まち歩き、ミニ朗読会、市場で行商したり」という企画である。イメージとしては、例えばニューアルバムを発表したアーティストが、その新譜をひっさげてライブツアーを行う、そんな気持ちである。なんちゃって、という心意気でもあります。久々のエッセー集発売ということで、地道に宣伝活動がんばってみようと、「ツアー」という名前を付けてみたわけです。爪先に灯(ともしび)をともすような、風が吹くと消えてしまいそうな、ほのかなイベントです。
本がらみのトークイベント、まち歩きは、いろんな場所で何度も行ってきたのだけど、今回初の試みとして、那覇の公設市場周辺の商店街通りで、「行商」をしました。コロナ期間中、ずっと工事していた「那覇市第一牧志公設市場」が、3月にやっと開場することになり、その記念として「市場の古本屋ウララ」が、「おかえりなさい、公設市場展」を開催する。その企画に便乗するカタチで、1日だけですが、リニューアルオープンする前日の土曜日、「新刊とその他の行商販売」をやってみたのだ。
市場の通りには、店舗を構えている商売とは別に、商品を運びながら手売りしている行商の方々がいる。荷物運ぶ一輪車に野菜載せたり、リヤカーにTシャツたくさん載せたり、さらには手持ちで総菜を売ったり。市場で一度商売してみたいという願望があるぼくは、第二の人生のプランとして、まずその行商のトライしようと思ったのである。半分シャレで半分マジな気分。
といってどうやるのか、まったく分からなかった。とりあえず駅弁のように、肩から箱を提げて売るスタイルでやるべ、と思ったのはいいが、その箱みたいなものはどこから入手すればいいのか。ネットで調べてみると、やはりあるのですね、名前がその箱にも。「立ち売り箱」というそうです。わかりやすい。立って売る。段ボールを使った簡易な立ち売り箱が通販されていたのだけど、たったひと箱だけの販売はない。組み立て方をみると、自分でも作れるような簡単な仕組みだったので、作ってみた。
事務所にある、本を詰めるための段ボール箱を使い(出版社なのだ)、肩から提げるためのひもは、市場にある手芸店で適切なアドバイスのもと買い求め、適当に箱に穴をあけて通してみた。首からぶら下げるのではなく、一方の肩を通して提げる。あまりたくさんの本は載せられない。本は重いのである。本の表紙が見えるように、ひもの長さ、持つ高さを考えて調整してみた。…………おー、なんかそれらしくなった。自宅であれこれ試していたら、ツレが苦笑して見ていた。ふふ。
さて3月18日土曜日、無事市場で行商デビューを果たしましたよ。市場中央通り、新天地市場通り、サンライズ那覇、太平通り、えびす通り、浮島通りを、てくてくと何度か往復しました。その時の気持ちをつづった日記のようなフェィスブックを見てみよう。こんな感じ。
思いの外売れました。ゆで卵ももらいました。
市場にいるおばちゃんたちには、何売ってるの、ほん?!
若いのにえらいさー、がんばってねと言われました。
いつも通ってる市場だけど、行商するだけで、違った風景が見えました。
ありがとうございましたと、言いたい気持ちです。
いやー、やってみないと分からない。市場で商売している人が声かけてくれて、また本も買ってもらいました。自作の立ち売り箱は、その1日だけで、すぐに解体しました。でもやろうと思ったら、手頃な段ボールさえあれば、すぐにできるのだ。第二の人生プランに「立ち売り」があるかもしれない……。
刊行記念〈お出かけ〉ツアー「遠くに行きたい 近場ですませたい」、まだ続いてます。
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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。