彩職賢美
2018年11月15日更新
[彩職賢美]ピアニスト ピアノ講師の仲村渠悠子さん|「舞台は祝祭」
ピアニストを志し、中学生で沖縄を離れた仲村渠悠子さん(41)。ドイツ留学、海外での演奏会、コンクール入賞。華々しい経歴は、2人の子どもを出産し、育てながら築き上げてきた。留学中、第一子の妊娠が発覚。「周囲から猛反対されたけれど、子育てもピアニストも、昔からの夢。両立に迷いは無かった」。おっとりとした雰囲気の中に、芯の強さが見える。
子育てしながら海外で活躍
ピアニスト ピアノ講師
仲村渠悠子 さん
「舞台は祝祭。日々の努力が披露できる場で、舞台上でしか学べないことは多い。生涯ピアノを弾き続けて、死ぬ直前に一番うまくなっていたい」と話す仲村渠さん。教室で教えたり、即興演奏、作曲など幅広く活躍するが、核としているのは演奏活動だ。
「ピアノはかけがえのないパートナー」と言い、ピアノとの付き合いは長い。幼いころは、かなり内気だった。「あまりにしゃべらないので、両親が病気を疑ったほど。呼ばれた名前に反応したので、耳は聞こえるんだ、と安心したそうです」。
家にあるピアノを弾き始めたのは、3、4歳。世界が変わった。
「弾くことで、言葉にできない気持ちを吐き出せた。家族が病気になり、厳しい雰囲気だったときも、ピアノがあれば忘れられた」。レッスンに通い始める前は、知っている曲の伴奏を好きに弾いていた。その合間にピアノの下にもぐったり、上でご飯を食べるほど、一日中ピアノにくっついていた。小学校就学前には「ピアニストになる」と決めた。
ピアノを学ぶため、中学2年生で県外へ。一筋に打ち込んでいたが、高校時代、スランプに陥る。「先生が変わり、今までの奏法を全部捨てて、一からやり直しに。一音ずつしか音を出せず、曲も弾けない」。周囲と比べて焦りが募った。ついた先生は厳しいことで有名で、ピアノを辞める人も多かった。
それでも「やるしかない」と、続けられたのは、「鈍いから」と笑う。
「海外に留学したい」という夢をかなえたのは、26歳。学費が無料のドイツの音楽大学を受験し、合格した。
その半年後、妊娠が発覚。子どもか、学ぶことか。どちらかを諦める選択肢は無かった。「厳しかった先生が渡航費を援助してくれたんです。やり遂げないとと思った」。産後は、許可を得て子連れで学校へ行き、学業と子育てを両立した。
最も大変だったのは、第2子を身ごもったころ。大学の卒業試験と大学院の入学試験、ギリシャでのコンクールが重なった。練習する時間もままならない。「こんな状態で参加していいのか」、悩みながら臨んだコンクールの決勝で、納得のいく演奏ができた。審査員特別賞であるディプロマ賞を受賞。審査員から「演奏に、あなたの人生が出ていたからよ」と評された。
卒業試験は子育ての合間をぬって、子どもが寝た後に練習。「もう戻りたくない」ほど、ハードな日々だったが、首席で卒業。大学院に合格し、ドイツの国家演奏家資格を取得。卒業後は6年間、大学で講師として働いた。韓国で指揮者をする夫とは遠距離結婚で、ほぼ1人で2人の子を育ててきた。
2015年、家族の介護のために帰沖。ピアノ教室の講師や、参加者が自由に曲を弾きあう「ピアノ部」部長など、多彩な活動をしている。「ピアノを聴いたり、弾くことが好きな人が増えたらうれしい」。
年々、演奏が楽しくなっているという。「音楽には、自分の中にあるものが出る。人の心に届く演奏をしたい」。出産、子育て、介護、海外での生活。さまざまな経験から生まれたピアノの音色は、優しく軽やかだった。
韓国と沖縄で遠距離結婚
写真は仲村渠さん提供
夫=写真中央=は韓国人で、韓国で活躍する一流の指揮者。以前はドイツと韓国、現在は沖縄と韓国での遠距離結婚だ。写真は、ドイツ滞在中。仲村渠さんは「ドイツ留学中に出会い、結婚。夫から、ドイツから韓国に仕事の場を移したいと聞いたとき、彼がいい仕事ができるなら、その方がいいと思った。いい音楽を作りたい、という思いは夫婦共通」と話す。沖縄に引っ越し、以前より会う頻度が増えたという。
2人の出会いも、音楽から。隣の部屋の仲村渠さんの演奏を聞いた夫から、伴奏を頼まれたのがきっかけだ。
子どもたち=写真右と左=は、以前はバイオリンを習っていたが、今はロック好きに。「家では、クラシックは私だけ」と笑う。
活動幅広く
幅広く活動している仲村渠さん。近々、二つのコンサートに出演する。
11月18日(日)午後3時~、南城市文化センターシュガーホールで、8人の音楽家が参加する「シュガーホール ガラコンサート」に出演。同25日(日)はカフェステーション(浦添市)で午後4時~、新垣好美さんのバイオリンリサイタルに出演する。12月9日(日)は、電波堂劇場(那覇市)で、参加者が弾き合いをする「ピアノ部」も。自作の即興曲を収めたCD=下写真=を発売中。
仲村渠さんのハッピーの種
Q.集めている物はありますか?
ポーランドやドイツの食器が好きで、留学中に街中で見つけては、一つずつ買い足してきました。ころんとした形がかわいい。沖縄へ帰ってくる時に、物を随分減らしたのですが、お気に入りのものを厳選して持ってきました。
PROFILE
なかんだかり・ゆうこ
1977年那覇市生まれ。2002年、桐朋学園大学音楽学部研究科修了。03年、ドイツのデトモルト音楽大学に入学。卒業後、同大学院へ。09年、ドイツ国家演奏家資格取得、同大学院卒業。同大学講師となる。ギリシャレシムノン・ザイラー国際ピアノコンクールでディプロマ賞を受賞。ドイツ、ギリシャ、韓国で演奏活動を行う。15年、帰沖。
撮影協力/南城市文化センターシュガーホール
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明 編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1318>
第1634号 2018年11月15日掲載