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2018年10月4日更新

[彩職賢美]美術・工芸書の古書の店「言事堂(ことことどう)」店主の宮城未来さん|アートを本で身近に

出産後、パートを探したものの見つからず、30歳で美術・工芸専門の古書店「言事堂」を立ち上げた宮城未来さん(41)。「知らないことを知ることに興味があるんです。美術や本は、新しい世界を広げてくれる」。オープンして11年。経営が苦しい時期もあったが「自分のペースで、好きなだけやりたいことができる。辞めようと思ったことは一度もないですね」と話す。

ページめくり新しい世界へ

美術・工芸書の古書の店「言事堂(ことことどう)」
店主
宮城未来 
さん

「宮城さーん、蜂がいるよ」と、扉を開けたのは小学生の女の子2人。「本当だ、怖いねぇ」と宮城さん。女の子たちは、慣れた様子で店の奥でお絵描きを始めた。那覇市の浮島通りの外れ、住宅地内にある「言事堂」には、いろいろな人が訪れる。「人の話を聴くのは面白い。壁を作るなんて、もったいない」と、自然体で受け入れる。

自宅兼店舗をオープンしたのは、娘が5歳になったころ。出産後、パート勤めを探したが、「子どもが小さい時ほど、仕事が見つからなかった」。自分のペースでできる自営業をと考えた時、「大好きなアートと本の組み合わせ」を思いつく。県内に競合店が無かったことも、背中を押した。

本やアートとの関わりは深い。幼いころから絵を描くことが好きで、工芸高校で彫刻、芸大で陶芸を学んだ。「美術は、既成概念を崩す仕掛けだと思う」。同時に、図書館に行くと心が躍る少女でもあった。「知らないことばかりで、すっごく楽しくて」。小さなときから、「新しいものが見たい。突き詰めたら違う物が見えてくるんじゃないか」と思い続けてきた。宮城さんにとって、アートと本の組み合わせは必然だったのだろう。

とは言え、書店経営は素人。開店当初は、苦しい時期が続いた。「扱う本が少なく、売るノウハウも無い。3年間、がむしゃらに働きました。口コミやネットで、お店を知ってもらえるようになったのは、5、6年たったころ。頑張るほど結果が出て、ペースもつかめ、楽しくなってきました」。娘はできるだけ仕事場に連れ出し、子育てと仕事を両立した。

やちむんや写真、絵画、デザインなど、沖縄の美術・工芸に特化した蔵書は、現在では約2万冊に。店が手狭になり、3年前に現在地へ移転。徐々に常連が増え、県外からも注文が来るようになった。「ここに来ると面白い本が見つかる、と思ってもらえる場所にしたいんです」。


香川県出身。持ち味は、好奇心とフットワークの軽さだ。大学時代、バイトで貯金しては旅をした。見たい絵や工芸を求めて、アイルランド、ドイツ、ヨーロッパへ。飛行機のチケットだけ取り、宿も行き先も現地で決めるバックパッカー。「会話は英語で何とか通じるし、怖いこともなかった。事前に決めない方が楽しい」。

大学卒業後、沖縄へ移住。ギャラリーで働き、「アーティストを支える面白さ」に目覚める。「展示会や評論家につなぐことで、社会に出るきっかけを作れるのが、うれしかったんです。ただ、ご飯を食べる時間も惜しんで働いていたら体調を崩してしまって」。転職を視野に仕事を辞めた。それでも、当時の思いは現在につながる。「アーティストを知ってほしい」と、店に作品を置き、展示会を開く。

「気付かないうちに暴走する」行動力は、店の外へも。電子書籍が台頭する中、「本に注目してもらおう」と2013年から本のイベント「ブックパーリー」の実行委員として奔走する。「本で人が呼べるんだと、地域の人が喜んでくれた。手渡しができ、気持ちを込められる『物』であることが、本の魅力」。アート・クラフト系の店を紹介する「那覇アートマップ」の編集にも携わる。

敷居が高くなりがちなアートを、本を通して身近に。地域へ、発信し続ける。



意外な専門道具!

仕事に欠かせないのが、ホウキや専用のブックブラシなどの掃除道具。本をきれいに保つため、本を守るためのカバー掛けも行う。入荷した本を拭く、本棚の補充、注文された本を探し、梱包して配送、買い取った本の値付け、接客、などが、1日の仕事だという。「座って店番をしているイメージがありますが、重い本を持ったり、運んだり、意外と動き回っています。絶版や出版、はやりで本の価格は変動するので、本の値付けにも時間をかけますね」と宮城さん。


11月4日までブックパーリー

毎年秋に開催される本にまつわるイベント「ブックパーリーOKINAWA」(主催:同実行委員会)。県内の書店や古書店、出版関係者が、多彩な催しを行う。ことしは10月1日から11月4日まで約30のイベントが県内で開催中。宮城さんは実行委員の一人で、イベントや広報に携わる。10月5日(金)、音楽ライブとトークを行う「ブックンロールオキナワ2018」に出演し、10月6日(土)の本を巡るバスツアーを企画。それ以外にも、11月4日(日)の「沖映通りえきまえ一箱古本市」など、イベントが目白押しだ。


<問い合わせ先>
言事堂(ことことどう)
那覇市松尾2-21-1(地図
098‐864‐0315


宮城さんのハッピーの種

Q.楽しいのはどんな時?
「今何時?」「お水ちょうだい」と子どもたちが遊びに来るんです。夏休みは7~8人来たりして、学校の先生だったっけって思うことも(笑)。この前は、女の子たちが工作で本棚を作ってくれました。ロボットの扉を開くと、本が入れられるようになっているんですよ。とても仲のいい友だちです。


お店が自治会事務所の向かいになり、1人暮らしのお年寄り、親の帰りが遅い子どもなど、地域の人と、暮らしが身近になりました。いろいろな人が気軽に立ち寄れる場所にしたい、と思っています。




PROFILE
みやぎ・みき

1976年香川県生まれ。95年香川県立高松工芸高等学校美術科卒業。99年倉敷芸術科学大学陶芸コース卒業。翌年、沖縄へ移住。前島アートセンターを経て、県立博物館・美術館の準備室で働く。結婚、出産後、2007年、那覇市若狭に美術・工芸専門の古書店「言事堂」をオープン。15年、那覇市松尾に移転。13年から本のイベント「ブックパーリー」の実行委員を務める。


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撮影/比嘉秀明 編集/栄野川里奈子
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1313
第1628号 2018年10月4日掲載

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栄野川里奈子

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編集者
おいしいものに目がないガチマヤー(くいしんぼう)。2016年に国際中医薬膳師の資格をとりました。おいしく健康に!が日々のテーマ。

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