彩職賢美
2016年12月8日更新
[彩職賢美]花のデザインスタジオ月花TSUKInoHANA 代表の伊藤由里さん|花と日々向き合う
「手仕事は、いいかげんなことがあっちゃいけない」。花に対するこだわり。自らが納得できる仕事をすれば、結果、お客さんは喜んでくれる。花屋歴15年、フラワーデザイナー伊藤由里さん(54)は、名護市と北中城村の花屋を掛け持ちしながら、国際的な展示会に作品を出すなど、日々、意欲的に活動している。ただ、アーティストの肩書、型にはめられるのは拒む。
お客の喜びを仕事の糧に
太陽の花 アンテナショップ「マカロン」
花の仕入れと店づくり、商品指導など担当
花のデザインスタジオ月花TSUKInoHANA 代表
伊藤由里さん
「韓国、中国、日本の国際的なフロリスト、フラワーデザイナー、フラワーアーティストの作品展示をします。出品してください!」。韓国の花専門誌の社長からのメールだ。大きな舞台を前に不安がよぎることはあっても、尻込みすることはない。好奇心旺盛で負けず嫌い、何事にも前向きな性格のなせる業だ。だが承諾後、出品者リストを見て、びっくり。みな国際的なフラワーアーティストぞろいだった。
「こんな中に私が居てもいいのって正直思いました」。でもせっかくのチャンス。並み居る作家たちからこれまでどれほど刺激を受け、感動をもらい、影響を受けてきたことか。
「原点に戻って、自分にできることが何かを考えることにしました」
かくして、ことし8月、在日韓国大使館韓国文化院(東京都新宿区)で行われた「2016AFDU花芸術造形招待作家展」に「亜熱帯の森の鼓動」をテーマに出品した。
作品は、作者そのもの。どこで暮らし、何をしているかを語る、という。今回の作家展で「つながること、集うことの喜びを、改めて、力として受け止めた」と、花専門誌社長には感謝している。ことし5月には韓国で、プリザーブドフラワーのデモンストレーションとワークショップの講師も務めた。その際の橋渡しをしたのも同社長だった。
生粋の浜っ子。結婚を機に、夫とともに名護市に移住して23年目。地元の花屋に勤め、オーナーには花屋の何たるかを教わった。「技と心でお客さまを満足させる」精神は、今も変わらず持ち続けている。
コンテストには積極的に出品してきた。並み居る全国の作家たちと出会う楽しみもあるが、テクニックやアイデアを少しでも商品に生かしたい、との思いからだ。審査員を客と想定。客は何を欲しているかを、テーマに照らし、客が満足する花材、組み合わせ、デザインなどを考える。客が満足すると、大きな賞に結びつくというわけだ。2009年に沖縄県フラワーデザインコンテスト「金賞」、11年同「県知事賞」、13年には花業界の全国組織の大会で「グランプリ」を得るなど華やかな受賞歴を誇る。
太陽の花アンテナショップ「マカロン」は北中城村のイオンモール沖縄ライカム2階にある。スタッフ7人の3交代制。名護市にある「月花」は火、木、土曜日に見て、月、水、金曜日は「マカロン」で花の仕入れ、店づくり、若いスタッフ育成を手伝う。ライカムは人気観光スポットだけに客足は絶えないが、商品の見せ方一つで客の入りが違うことを背中で伝える。
「教えるんじゃない、若い感性を大切にしている。だから、うちに来るとスタッフの数だけ、花の提案ができる」。妻に花束をという男性とは会話をしながら、花の色、種類、組み合わせなどを決め、男性の服装からラッピングの素材と色を決めた。その手法を見て、若手はまねる。
ずっと関わりたいのは、ブライダル。ブーケを持つ花嫁の喜ぶ顔が、あすへの活力源だ。
勉強熱心な韓国の業界
「韓国の花業界は今、日本より熱心かも」。韓国でことし5月にあった国際花博覧会で、デモンストレーションをし、ワークショップの講師をして思ったことだ。そのときワークショップに参加したという女性と沖縄の講習会で再会した。観光で来て、花の講習会に参加するという熱意、向上心には驚かされる。
同博覧会で韓国プリザーブドフラワー・アーティスト協会会長らに歓迎された=写真上右。
8月の展示会に出品した作品=同左=は、県産花材のモクマオウを使い、好評を得た。
(写真はいずれも本人提供)
愛犬2匹は家族の一員
カナ=写真左=とノアは家族の一員。犬が好きで、移住当時は琉球犬の雑種が居て、犬を通じて近所付き合いの輪が広がった。
伊藤さんのハッピーの種
Q.幸せを感じる時間は?花を見ているときですね。
仕入れてきた花を余分な箇所を切って水にさすと、水が上がって行くのが分かる。その瞬間がいい。色がきれいになる。花が生き生きしてくるんです。
じっと花を見ていると、花としゃべっているようだとよく言われる。実際、「みんなおりこうだね」「とてもきれいだよ」と声を掛けているんですよ。
Q.名護の自宅からの移動は苦になりません?
自動車道を使って1時間は掛かりますね。でも、そんなこと苦にしててはだめ。
気持ちを高めるためというわけでもないですけど、よくCDを聞いています。曲名? それはちょっと。自分の内面をさらすような感じがするので…。種類としては結婚式用のCDが多いです。あと青春時代の曲のCD、ドライブ用のCDもありますよ。
それと、車を運転中は一人になれる貴重な時間なので、意外と、頭の中を真っ白にして何も考えてないこともありますね。
PROFILE
伊藤由里(いとう・ゆり)1962年横浜市生まれ。1級フラワー装飾技能士、草月流師範、日本フラワーデザイナー協会フラワーデザイナー講師。短大卒後、服飾デザイン専門学校で4年間学び、その後ファッションデザイナーとして活動。94年名護市に移住、フラワーデザインの道へ。沖縄県フラワー装飾技能競技大会で2年連続「県知事賞」など、各種コンテストで上位入賞多数。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明・編集/上間昭一
『週刊ほーむぷらざ』彩職賢美<1236>
第1534号 2016年12月8日掲載