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2012年6月14日更新
本当の美とは?「自然が導く強さ豊かさ」
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.15
本当の美とは?
自然が導く強さ豊かさ
「さっきの母さんと、おんなじ母さん!?」
「母さん、かわいかった?」
「うん、かわいかった。どうやって変身したの」
「母さんお化粧してもらったの」
「こうやって?」(自分の顔をナデナデする息子)
「そうそう」
某ファッションブランドの期間限定モデルとして起用された私。写真スタジオに同行した息子は、普段全くしない化粧をし、おしゃれな服をきた母の姿に照れて、現場では逃げ回っていたが、寝しなに「かわいかった」と言ってくれた。
3歳とはいえ、立派に男の子で、綺麗にした母に喜びを感じてくれたようだ。しかし、皮膚感覚を大切にしてきた私にとって、ファンデーションで毛穴をふさがれることは、なんだか苦しかった。同時に「アスファルトに覆われて、呼吸できない生き物たちのこと」を思った。ひび割れた隙間から、したたかにも顔を出している草花。大人より目線の低い子どもは、そんな植物たちの存在に気がついて「なんでここに花が生えてるの?」と聞いてくる。「この下にはね、いろんな生き物が居るんだよ」
ここしばらく仕事で東京から来た人たちとの時間を過ごしていた。梅雨時期とはいえ、青く輝く海を見て「ほんとキレイ〜!」「癒やされる〜!」と連発していた。私自身20年住んでしまうと、この美しさが当たり前になりつつあったが、昨年訪れた県外の海と比較することで、より「キレイ」に見えた。しかし、海に潜ると、5年、10年、20年前と、年々変貌していることに気がつく。工事などで陸がいじられると、土が流れ込み呼吸ができないから、サンゴは痛んでしまう。サンゴも海中で呼吸しているのだ。
「美しい」とは、さまざまな生き物が生活できる健康的で豊かな海のことを言うのだと思う。多少のことがあっても立ち直れる強さは、日々、風通しがよく、太陽と月の力を常にきちんと与えられている環境にあるのだと。
弱り切っているところに、何かが起きると立ち直れなくなる。それはサンゴも人間もその他の生物も同じではないか?
ガラスの置物のような硬く冷たい美しさ、でなく柔軟性を持ち、懐が深く、したたかな美しさを身に着けたいと思う。それを導いてくれるのは、自然だと思っている。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1303号・2012年6月14日に掲載