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2011年12月8日更新
ひもじくないか?「カメー攻撃」感謝して
海んちゅ写真家 古谷千佳子のフォトエッセー「潮だまり」vol.09
ひもじくないか?
「カメー攻撃」感謝して
「遊んでないで早く食べなさいっ!」毎日、毎食、なんど怒鳴っていることか。食事中、ふらふらと脱走しようとする3歳の息子を捕まえては叱ってばかり。いつでもモノを食べることが出来る現代の状況では、「食欲」というものが湧いてこないのだろうか?
痩せっぽちだった幼少の私に、ご飯を食べさせることに苦労した話は、母から散々聞かされてきた。そんな私も東京の実家を飛び出し、沖縄で海の仕事、つまり肉体労働を始めてから、何でも残さず食べられるようになった。
「ヨレヨレのTシャツ姿で、わしづかみしたビニール袋に入ったタコを『はいっ、オジィからもらってきた捕りたてのタコ』とホテルのロビーで手渡された日には、もうどうしようかと思った(笑)」という話を、当時の私を知る東京の知人から最近聞いた。
見た目もかなりやばい状態にあったようで、そんな私と顔を合わすたび、海人(うみんちゅ)やオバァたちは、「ひもじくないか?」といろんな海の幸を食べさせてくれた。いわゆる「カメーカメー攻撃」だ。海人たちの 食卓には、セリに上がらない魚介類が多く並ぶ。モリ突き漁で、突きどころが悪く見た目の悪いものは、セリ値が下がるが味は変わらない。そんな美味しい物を、おもてなしの心で食べさせてくれた。
それに感謝できるのは、おなかがすいて、本当に美味しいと感じられる状況だからだろう。おなかがいっぱいの時には、かなり辛い、カメーカメー攻撃。全身を動かす仕事をして、いつでもちょっと足りないくらいのほうが、心身ともに楽しく、健康でいられるような気がする。
長生きしているオジィ、オバァたちを見て、そして自分の体験からも、「いつも満腹」じゃないということが大切なんだと思う…負け惜しみじゃなくて(笑)。モノ、情報にあふれた時代には、難しいことかもしれないけれど、やっぱり身軽に 生きることが目標だな。
[文・写真]
古谷千佳子(ふるや・ちかこ)
那覇市在住。海の仕事に従事、スタジオで写真を学んだ後、海人写真家となる。海・自然と調和する人々の暮らしや伝統漁業を主に撮影する。TBS「情熱大陸」などに出演。著書に 写真集「たからのうみの、たからもの」、「脳を学ぶ2」(共著)ほか
http://www.chikakofuruya.com/
古谷千佳子のフォトエッセー『潮だまり』
週刊ほーむぷらざ 第1276号・2011年12月8日に掲載