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2024年8月22日更新

(有)知名御多出横の代表取締役 知名亜美子さん|こだわりの音 皆へ届けたい[彩職賢美]

沖縄の職人が生んだ世界に誇るオーディオ機器「TINA AUDIO」。その開発者で創業者の知名宏師さんが引退した後、2代目として奮闘するのが知名亜美子さん。会社経営は未経験ながら、存続危機にあった同社の状況を改善し、リブランディングも手掛けた。製品の魅力を広く発信し、多くの新しいファンを獲得。成長を続けている。

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リブランディングでV字回復

(有)知名御多出横 代表取締役
知名 亜美子さん


オーディオ業界と経営
未経験でも果敢に挑戦

そのスピーカーは、音楽を聴く体験を一変させる。円筒型の美しいフォルムから奏でられる音は、室内360度どこにいても最適に聴くことができる。開発者で創業者の知名宏師さんが一貫して追求した「音」の美学の結晶だ。

知名御多出横が製造・販売するスピーカーとアンプのブランド「TINA AUDIO」は、約38万円から140万円と高価格帯にもかかわらず、製造が追いつかないほど、全国から注文が相次ぐ。熱烈なファンの中には、著名な作曲家や音楽家の名もある。製造はほとんどが手作業。1975年に開業して以来、家族経営でやってきた。そんな知名家の親族と結婚したのが縁で、創業者の引退後、2代目として奮闘しているのが知名亜美子さん(46)だ。デザイナーだった亜美子さん。結婚祝いにもらったオーディオのお礼をしたいと、製品に付いていた手書きの取扱説明書をデジタル化したのがきっかけで、リーフレットの作成などを少しずつ手伝うようになった。

2016年に夫妻で沖縄に移住してからは、経理面もサポートするように。「帳簿を見たとき、深刻な経営危機の状態が分かりました。ものづくりにはこだわるけど、経営は無頓着。無駄な支出が多かったので、整理することから始めました」と振り返る。20年、宏師さんが引退を決め、家族会議で代表を引き継ぐことになった。「オーディオ業界も経営も経験がない。自信はないけど、それでも大切な家族のためにやってみようと覚悟を決めました」と語る。

亜美子さんは、積極的に営業活動を行い、展示会への出展や視聴会を開催した。「知名御多出横と言うと、話を聞いてくれたし、応援してくれる人も多くて、先代たちがこれまで誠実にやってきたことを改めて感じました。イベントに行くと、何千万円もする海外製品より、当社の製品の音がいいと言ってくださる人がいて、聴覚過敏の人もこのスピーカーの音は聞けると喜んでくれ、そういう経験を重ねて、自信もつきました」と笑顔を見せる。
 亜美子さんは同時にリブランディングにも着手。ウェブサイトのリニューアル、自社製品の中古品をアーティストとコラボして再生させた「アップサイクルスピーカー」の企画販売、グッズの製作も行い、新たなファン層の拡大へとつなげた。


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オーディオの素人だったからこそ、懸命に勉強し、宏師さんが接客するときのやり方や言葉を完全コピーした。また、過去に掲載されたインタビュー記事や動画を見て、文字起こしをしてまで、「自分の中にインストールした」と亜美子さん。「宏師さんは、いつも経営のことより、お客さまに喜ばれるものをという純粋な気持ちでものづくりにこだわってきた。だからこそ良い製品が生まれ、根強いファンがいる」と笑顔で語る。宏師さんのきょうだいをはじめとする家族が職人として今も製造し続けている。「宏師さんの作り出すものへの素晴らしさを感じ、尊敬しているからだと思う」

亜美子さんの懸命な努力によって、TINA AUDIOの知名度はさらに広がりを見せている。県外から出展やイベント参加の依頼も多く、昨年はほぼ毎月、沖縄と県外を行き来していた。「とにかく実際に聞けば、音の良さを実感できる。いろんな場所に出向いて、より多くの人に音を聞く機会をつくっていきたい」と亜美子さん。「将来はTINA AUDIOの技術が広まって、宏師さんの名前が歴史に刻まれてほしい。その技術を伝承する家族が働きやすい職場づくり、後進の育成も代表としての役目」。静かな語り口にも、未来へ向かう熱い思いが伝わってくる。

 

家族経営で支える知名御多出横

「TINA AUDIO」を生み出す知名ファミリーの皆さん。右から2代目代表の亜美子さん、創業者の妹で現在も塗装から加工まで全てをこなすなど製造を中心的に担う洋子さん、創業者の妻のヨネさん、創業者の宏師さん、創業者の息子の嫁の泰子さん、息子の武さん(写真提供・知名御多出横)


知名御多出横は家族経営で行っている。1975年、知名宏師さんが知名オーディオを創業。「音を生演奏に近づけ、感動を届けたい」という思いでものづくりを追求し続け、2002年には円柱型のスピーカーを開発。販売を開始するようになった。製造工程のほとんどが家族によって手作業で行われている。20年、宏師さんは引退。それまで経理を担当していた亜美子さんが2代目として代表を引き継いだ。「若手後進の育成も課題として取り組んでいきたい」と話す。

23年にショウルームを沖縄市中央にある現在の場所に移転。多くのファンが県内外から訪れている。


■(有)知名御多出横(ちなオーディオ)
電話=098-938-3994

 

 全国で試聴会を開催 


昨年4月、D&DEPARTMENT OKINAWAプラザハウス2階広場で開催されたトークイベント「d SCHOOL わかりやすいオーディオー知名オーディオから学ぶ音の魅力ー」の様子。Banana conceptの仲宗根巌代表をゲストに迎え、「TINA AUDIO」の音を聞きながら、その音の魅力について深掘りした。中央が仲宗根代表、右が亜美子さん(写真提供・知名御多出横)

亜美子さんが代表となってからは、積極的に、自社オーディオ製品を実際に聞いてもらう機会を提供したいと、全国各地に出向いている。県外には耳の肥えたオーディオファンが多く、「TINA AUDIOの音が一番いい」と声を掛けられることが増えた。2022年には、亜美子さんが企画したアーティストDENPAとのコラボモデル「アップサイクルスピーカー」が循環型経済をデザインするグローバル・アワード「crQf Awards2022」を受賞するなど、知名度も上がり、県内外から注文が入るようになると製造が追いつかない状態になった。「TINA AUDIOの音を聞いてもらえれば、きっとその良さを実感できる。今後もたくさんの人に聞いてもらえるようにしていきたい」と亜美子さんは意気込む。

 


プロフィル/ちな・あみこ
1977年、三重県伊勢志摩出身。デザイナーとして働く。2004年、結婚。そのお祝いに夫の親戚である知名宏師さんからTINA AUDIOを贈られる。16年、夫の転勤で沖縄に移住。会社勤めをしながら、宏師さんの論文作成を手伝い、経理も担当するようになる。2022年、知名御多出横の代表取締役に就任。リブランディングに取り組み、赤字経営からの回復に成功する。


↓画像をクリックして、『知名御多出横』の公式ホームページへ

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撮影/桑村ヒロシ 取材/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1437>
第1933号 2024年08月22日掲載

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