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2022年12月15日更新

[沖縄・輝く女性を紹介]彩職賢美|ゑんぴつ堂のオーナー 朝日さん|悲しみ癒やし生きる力に

大切な人を亡くした遺族の気持ちに寄り添い、立ち直りをサポートする「グリーフケア」に絵を通して取り組んでいます。遺族の思いと故人を掛け合わせて表現するため、絵に注目が集まりがちですが、制作に掛かるまでのヒアリングが重要で大切だと考えています。

ゑんぴつ堂 オーナー 朝日さん
撮影/比嘉秀明


グリーフケアで気持ちを整理

ゑんぴつ堂 オーナー
朝日さん



大切なのはヒアリング
絵は「作る思い出」


2階に上り、改装されたばかりのアトリエを訪ねた。壁に掛けられた絵の中の家族は皆、幸福感に満ちた笑顔を浮かべている。差し込む柔らかな日差しにも包まれて、見る側も優しい気持ちになる。

大切な人を亡くした遺族のかなえられなかった夢を1枚の絵の中で表現する朝日さん(38)。家族の背景や思いをヒアリングし、写真をもとに描く。「制作までの打ち合わせや写真を選ぶ工程が故人をしのぶ作業の一つとなり、悲しみの中にある人をサポートするグリーフケアとしての効果がある」と話す。

アトリエの展示作品にはそれぞれ「絵の中でかなえたい夢や思い」の説明がある。「寝たきり生活だった父が9年前、母も3年前に他界。残すことができなかった家族写真を似顔絵で残したい」「次男を亡くし、家庭の機能を失ってしまったこともあった。再び生きる気力を取り戻せたのはそばにいる家族の存在と長女の誕生。きっと家族全員そろったら、ワイワイしていたはず。絵の中でかなえたい」「両親は娘の私が見てもうらやむくらいラブラブだった。そんな二人の仲良しな姿を残せたら、母を亡くした父も励みになると思う」

展示を見て涙を流す人は多い。「絵の力ではなく、人が人を思う力。そこに共鳴している」と朝日さんは感じている。

11年前に創業した「enpitudo」は、義父が病で急逝したとき、感謝の気持ちを伝えていない後悔がきっかけだった。「大切な人に感謝や愛を伝えるお手伝いがしたい」と、好きだった似顔絵とドライフラワーのギフトショップを開いた。

創業時から、故人と遺族をともに描く似顔絵の依頼がずっとあった。「最初はなぜ写真があるのにわざわざ絵にするのか不思議だった」と朝日さん。あるとき依頼者から「本当にありがとう。この絵が亡くなった後に増やせる、この人との思い出なんだよね」と言われ、はっとした。

朝日さんは、取り組みをより丁寧にできるよう、2019年、グリーフケアの資格を取得。今月、事業をグリーフケア専門に絞り、アトリエも改装して新たにスタートを切った。
 

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絵に注目が集まりがちだが、重要なのはヒアリングと強調する朝日さん。「故人との幸せな時間があった分、悲しみはより深い。だけど、幸せな時間や考え方、価値観など故人が残してくれたものがある。そんな宝物に気付いてもらう作業を意識している」と話す。

ある日、赤ちゃんを亡くした夫婦から、子を抱く家族の絵を依頼されたことがあった。死別によって夫人は引きこもる時期もあったという。

名前の由来、エピソードを聞いて、絵を描いた。納品のとき、朝日さんはどうしても気になって、「余計なことかもしれないが」と話し掛けた。「もし自分たちを責めているとしたら、それは違うと思います」。その言葉に夫妻は泣き出した。本質的なグリーフケアは「そこから始まった」と朝日さんは振り返る。

号泣しながら気持ちを吐き出してくれた夫妻に、「赤ちゃんが二人の元に来た意味がある。赤ちゃんが教えてくれた命の重みを、また次に来てくれる子の命に重ね、その重みを受け取り、育てていくことが二人ならできるはず」と言葉を掛け、心の中の塊をほぐしていった。

「大切なのは今、生きている人たち。生きていくために、少しでも前向きになれるようにしたい。ヒアリングでは悲しいエピソードより、故人からどういう幸せをもらったか、それに気付いてもらえるように心掛けています」

朝日さんが届けてくれる天国からのギフトが遺族の生きる力となる。


 亡き息子も一緒に 

亡くした次男や、その後に生まれた娘も一緒にワイワイとにぎやかに過ごす家族の絵=写真=を依頼したAさん。当初は、「悲しみがよみがえることを恐れ、夫婦で何度も話し合った」と話す。

完成した絵を見て、夫妻は「胸がとても熱くなりました。この痛みとともに、これからも生きていこう、そんな勇気を与えてもらったと感謝しています」と話し、朝日さんのグリーフケアをきっかけに、気持ちを前向きにすることができた。


 母となり生活も変化 

今年9月に第1子を出産した朝日さん。「生命の誕生に向き合い、グリーフケアに向き合えるか悩んだ。でも、やりがいのある仕事なので、子育てと両立しやすいワークスタイルにして、続けていこうと思います」と笑顔で話す。お母さんとなった朝日さんが今後、どのような作品を生み出していくのか、ますます期待が高まる。


 プロデュースするのが好き 

以前は沖縄歌舞劇団に属し、県内外、海外で公演をしたり、舞台製作の会社代表を務めていたこともある朝日さん=写真。「裏方役やプロデュースすることが好き」と笑顔で話す。

新しいアトリエは1階がカフェになっており、今後はそこも活用しながら、「人の出会い、縁づくりの場所にしたい」と構想を膨らませている。遺族を集めたお話会など、グリーフワークに取り組んだり、遺骨などの遺品で作るアクセサリー商品の開発も計画中だ。


ゑんぴつ堂 オーナー 朝日さん
プロフィル/あさひ 1984年、北中城村出身。沖縄国際大卒。沖縄歌舞劇団「美(ちゅら)」に入団し、県内外、海外で公演。2011年、「enpitudo」を創業。大切な人に感謝や愛の気持ちを伝える贈り物として、似顔絵とドライフラワーのギフトを提案。19年、グリーフケアの資格取得。北谷町宮城に移転。22月12月、同店舗2階にアトリエを移しグリーフケア専門「ゑんぴつ堂」とする。


■問い合わせ先/ゑんぴつ堂
電話090・1341・4978(完全予約制)


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文・赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1415>
第1845号 2022年12月15日掲載

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