彩職賢美
2022年3月24日更新
[沖縄・輝く女性を紹介]彩職賢美|声楽家・メゾソプラノの宮城 里美さん|歌い届ける心 感動を共有
生まれ育った東村で音楽と出合い、たくさんの縁と支えがあり音楽を続けることができました。14年間、研さんを積んだイタリアでは人生観を得ました。昨年、拠点を沖縄に移し、故郷への思いをCDにしたり、気軽に参加できるコンサートを企画したり、身近に音楽を楽しむことができる環境づくりに取り組んでいます。
音楽は喜び、祈り、希望
声楽家・メゾソプラノ
宮城 里美さん
やんばるとイタリア
育まれた音楽と人生観
3月、東村にある博物館のピロティで「広場コンサート」を行った声楽家の宮城里美さん(59)。黄色の華やかなドレスは、ゆうなの花が咲いたかのように、やんばるの山の緑に映える。歌声は、聴衆だけでなく、春を迎えてさえずる鳥たちをも舞台へと呼び寄せた。
会場には、いい席で鑑賞しようと、早々に来場した人や遠方から足を運ぶ人もいれば、隣接する公園に遊びに来た家族やカップルが芝生に座って耳を傾けていたりとさまざま。開放的な場所で、どの顔にも自然と柔らかな表情が浮かんでいる。
「イタリアでは大小いろいろな野外コンサートがあり、服装もカジュアルでみんな思い思いに楽しんでいる。そんなふうに沖縄でも気軽にクラシック音楽が楽しめる機会をつくり、音楽が身近になる環境をつくれたらいいなと思っているんです」
声楽家として国内外で数々のオペラや演奏会に立ち、称賛を得てきた宮城さんは、コンサートホールでの公演だけでなく、誰でも音楽が楽しめるようにと、公共施設や福祉施設での公演にも力を注ぐ。近々、北部地域で開設を予定しているという音楽教室でも、声楽家の歌唱指導など後進の育成だけでなく、愛好家や子ども、高齢者にも指導し、「ジャンルを問わず音楽を楽しむ教室にしたい」と笑顔で語る。
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音楽好きの家族の中で育ち、幼少期から「不思議なほどの素晴らしい多くの出会い」とサポートがあり、音楽の道を歩むことができた。「私の音楽は、やんばるの大自然に育まれた。東村にいたから純粋に音楽を愛し、心に境界線を持たず、東京、イタリアへと渡り挑戦することができた」と話す。これまで師事したピアノや声楽の指導者をはじめ、メゾソプラノの声帯を持っていることを見つけてくれた耳鼻咽喉科の医師、14年間過ごしたイタリア時代に、まるで母親のように気を掛けてくれたアパートの隣人や姉妹のように親しくなった友人などへ感謝の思いは尽きない。
特に、ドットーレと呼んでいたイタリアのホームドクターに与えられた人生観は、今も宮城さんの胸に深く刻まれている。ドットーレは体も心も健康であることと、自分の役割を果たすために、何を目指していくか考えることの大切さを説いた。「あなたの心が平穏であることが大事」。その言葉に出合い、音楽への向き合い方も変わった。「イタリアでは熱意を大切にする。物事を動かすのは熱意であり、なぜ自分がそれをやっているのかを自覚している。私も音楽を何のためにやっているか、納得しているかどうかを意識するようになりました」と話す。
イタリア中部の都市アッシジにある聖フランチェスコ大聖堂で演奏したとき、聴衆と感動を共有し、歌う意味を見いだした。「私にとって音楽は喜び、祈り、希望。そういう音楽を特定な人でなく、いろいろな人と共有したい」と思った。
イタリアから東京に戻ったあとは、自身の演奏活動の他、後進の育成にも携わりながら、子どものためのコンサートやワークショップ、チャリティーコンサートにも意欲的に取り組んだ。昨年、沖縄に帰郷し、東京をはじめ各地を行き来している。
「やんばるは私が心地よく、私らしくいられる場所。そこで感じる幸せを歌で共有していきたい」。そんな故郷に抱く思いを曲にし、CDにも収めた。
「健康でなるべく長く歌っていきたい。島ぞうりを履いて参加できるような、気軽に楽しめるコンサートをいろいろな場所でやっていきたい」。宮城さんの弾む声に、今後への期待感で胸が躍る。
イタリアでの経験が原動力
スタンディングオーベーションを受けたクリスマスコンサート
1996年から14年間、イタリアで活動していた宮城さん。各地で数々の公演を行い称賛を受けた。2005年と06年、聖フランチェスコ大聖堂のアッシジ少年少女合唱団クリスマスコンサートにソリストとして招聘(しょうへい)されたときは、聴衆が涙を流すなど大きな感動に包まれた=写真。「音楽は喜び、祈り、希望。それを聴衆の皆さんと共有したとき、感情とか感動のようなものが生まれたと感じ、私はずっと歌っていかなきゃと思ったんです。私にとって音楽とは何なのか、私が職業として音楽をやる意味が分かりました」と語る。
気軽に楽しむオペラ
やんばるの自然に囲まれた会場におよそ100人余りが来場し音楽を楽しんだ
3月13日、東村立山と水の生活博物館で広場コンサートを行った宮城さん。普久原智美さんのピアノ伴奏に乗せ、「カルメン」のハバネラなどオペラの名曲をはじめ、沖縄の童謡や、宮城さんが作詞作曲したオリジナル曲など9曲を歌った。
沖縄市の国吉みさおさん(73)は「ロックが好きだが、初めてオペラの歌を生演奏で聞いて感動した。声の出し方がすごい。CDを購入したら大根ももらえた」と笑顔。80代の男性は「大満足のコンサートだった。同じ東村出身なのでこれからも応援していきたい」と話した。
故郷への思い歌に
「何十年も抱いてきた故郷への思いを歌にしたい」とオリジナル曲を制作した宮城さん。やんばるの自然の美しさや家族、友人を思い浮かべながら作詞した「花想い」「アザレアーつつじの丘」は、東風平高根さんが作曲。幼少期に祖母の膝まくらで過ごした情景を歌った「子守唄」は宮城さんが作詞作曲した。今年2月、それらを収録したソロCD「花想いHANAUMUI」=写真=をリリースした。
■Miyagi Satomi STUDIO
電話090(7813)5950
プロフィル
みやぎ・さとみ
1962年、東村生まれ。辺土名高、武蔵野音大卒。日本オペラ振興会オペラ歌手育成部修了。藤原歌劇団正団員。96年渡伊。ミラノ音楽院で研さんを重ねながら、数々のオペラに出演し称賛を受ける。2012年、拠点を東京に移す。演奏家グループSrenità Soloist Ensembleのソリスト。やんばるウィーク代表。昨年、帰郷。今年2月、初ソロCD「花想いHANAUMUI」をリリース。近々、北部で音楽教室を開設予定。
[今までの彩職賢美 一覧]
撮影/比嘉秀明 文/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1399>
第1807号 2022年3月24日掲載