彩職賢美リターンズ
2021年6月24日更新
[沖縄・輝く女性を紹介]彩職賢美リターンズ|演劇講師/俳優 インプロオキナワ代表 渡辺奈穂さん|演劇教室で育む子どもの自立力
彩職賢美に出た人が再登場する「彩職賢美リターンズ」。音楽や美術といったアートに比べて、まだまだ「特別な人がやるもの」というイメージが強い演劇。「感性の柔らかい子ども時代に、演劇を通して自分らしく、たくましく生きる力を身につけてほしい」と、沖縄初の小・中学生向け演劇教室「こどものためのドラマスクール」を開く渡辺奈穗さん(51)。俳優、演劇講師として培った経験を生かし、子どもたちの可能性を広げる。
演劇講師/俳優 インプロオキナワ代表
渡辺 奈穂 さん
心と体に残る過程を大切に
演じるという行為には、実は、生きていくために必要な力の要素が詰まっています。海外では、小学校でも授業の一環として、ごく普通に演劇教育が行われ、子どもたちは、年齢に合わせた内容で、体感できる学習方法としての演劇に取り組んでいます。
私は大人になって演劇を始めましたが、もし子どものころに出合えていたなら、いろいろな価値観や体験に触れて自信を持ち、自分の視野や可能性がもっと広がっていたのではないか。そんな思いから、2018年に「こどものためのドラマスクール」を始めました。
インプロで新世界 一人一人と丁寧に
高校卒業後に演劇を始め、1995年に母の故郷・沖縄に移住。劇団を立ち上げて、演出も手がけました。30代半ばでインプロ(即興演劇)に出合い、新しい世界が広がりました。東京に戻って修業を重ね、小学校や企業にインプロを導入するプロジェクトに参加。イギリスの演劇教育DIE(ドラマ・イン・エデュケーション)も学びました。沖縄に早くインプロを伝えたくて、2005年にインプロオキナワを設立。東京と沖縄を行き来して、インプロのワークショップをスタートしました。
東京では6年間、学童保育に勤務し、生活の中に、演劇的な活動を取り入れることを実践しました。子どもたちの発想はとても豊か。自由な発想力を壊さないためには、固定概念を捨て、いかにオープンで、柔軟に付き合えるかが重要でした。子どもの自立と大人の関わりについて、深く考えるきっかけを得た体験です。
2010年に沖縄へ再移住。地域おこし協力隊として沖縄市の活性化に携わりました。観客参加型のインプロショー「シアタースポーツ」を上演する際に「彩職賢美」に掲載され、たくさんの人にインプロを知っていただく機会になりました。
県内のモデル事務所では、タレント育成のための演技レッスンを担当。南城市でも、ジュニアコーラスで体と言葉のレッスンを担当しています。県外の劇団の沖縄校での指導経験を経て、もっと子どもたち一人一人とじっくり関われる場が欲しいと思い、自分で演劇教室を立ち上げることにしました。演技者として、人間として、自分が大切だと思うことをダイレクトに伝えたかったのです。
台本から即興まで異年齢で学び合う
ドラマスクールには現在、小学3年生から中学3年生まで、12人が通っています。異年齢でのグループレッスンなのですが、大きい子が小さい子をケアするという環境が自然に生まれています。発表会のチーム分けをした際も、子どもたちから「年齢が違う子がいた方が、いろいろな考え方があって面白くなる」という意見が多く挙がり、この感覚は沖縄の子の素晴らしい個性だと感じました。
レッスンは、ゲーム感覚で演劇的なセンスを磨くエクササイズや、音感やリズム感のトレーニング、台本を読み解き、書いた人の気持ちをディスカッションする、などさまざまです。中でもインプロは、自己肯定感を育み、他者と丁寧に関わることを深く学べます。
演劇のワークでは、目の前の人が自分と違うことを思っている、考えていることを体感できます。さまざまな体験を通して子どもたちは、自分で考え答えを出す力、他者と協力して問題を解決する力、物事を多面的に見る力など、これからの時代を生きていく上で必要な力を身につけていきます。
安全に自分を発揮 しなやかに生きる
感情がうまくコントロールできなかった子が、周りとの関わりの中で少しずつ自分との向き合い方が分かるようになってきた。映画のオーディションに挑戦して、合格を勝ち取って自信をつけた子。スクールの子どもたちは、それぞれのペースで変化しています。
レッスンでは、成果よりも、過程を大切にしています。最終的に形にならなくても、子どもたちの体にはその過程で得たことが体験として残るからです。
生きている限り、必ず世間や他人とぶつかることがあります。対立によって自分の存在を否定されたりすると、とてもしんどい。私も経験しましたが、時には生きていく自信さえ失う人もいます。だからこそ、他者の評価におびえることなく、自分を思いっきり出せる「安全な場」が必要だと感じます。人は自信を手に入れると、しなやかに対応できる強さと解決法を自分で探せるようになります。ドラマスクールが、子どもたちにとって、安心して自分を表現できる場になればと思っています。
オンラインでもドラマスクール
コロナ禍では、オンラインでのレッスンも始めた。東京に住んでいる妹さんからの「学校が休校になった娘の相手になってほしい」という声がきっかけ。「めいの友達も交えてワークをする中で、みんな少しずつ自分は自分でいいんだと思えるようになったよう」と喜ぶ。
緊急事態宣言が出ると、通常は対面で行っているドラマスクールも、オンラインに切り替える。そんな経験から、県を問わずに参加できる、オンライン版のドラマスクールも立ち上げた。関東、中部、九州と、違う県に住む子どもたちが参加し、和気あいあい楽しんでいる。「演劇活動をしたくても、近くに環境がない子たちのために何かできれば」と思いをはせる。
渡辺さんのハッピーの種
Q.いつもパワフルですが、日々のエネル ギーチャージと癒やしは?
癒やしは、同居する猫の寝顔を見ることです=下写真。生まれて間もないころに拾った猫で、10歳になりました。
パワーの源は、晴れた日の海を見ることです。いま住んでいる南城市に引っ越したのも、植物の緑と海の青に引かれたからです。
渡辺さん提供
■問い合わせ先/メール:info@kodomo-dorama.okinawa
プロフィル
わたなべ・なほ
1969年、東京都出身。1989年から演劇を始め、俳優、演出を経て後進の育成に携わる。2004年にインプロ(即興演劇)に出合い修業を重ね、05年、インプロオキナワ設立。モデル事務所でタレント育成の演技レッスンを担当。子どもから大人、教育、人材育成、プロを目指す現場まで幅広く指導。18年、こどものためのドラマスクールを開講。
初登場の紙面(2011年6月16日号に掲載)
撮影/比嘉秀明 文/比嘉千賀子(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美リターンズ<13>
第1768号 2021年6月24日掲載
この記事のキュレーター
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- 比嘉千賀子
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編集者
住まいと暮らしの情報紙「タイムス住宅新聞」元担当記者。猫好き、ロック好きな1児の母。「住まいから笑顔とHAPPYを広げたい!」主婦&母親としての視点を大切にしながら、沖縄での快適な住まいづくり、楽しい暮らしをサポートする情報を取材・発信しています。