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2021年6月3日更新
[沖縄・シニアウェ~ブ in ほ~むぷらざ]大里の戦争体験 記録し、つなぐ|知念昌徳さん
このコーナーでは充実したシニアライフを送る人々を紹介します。今月は、今年発刊された「南城市の沖縄戦 証言集ー大里ー」で、調査員の一人として聞き取り調査に取り組んだ南城市大里の知念昌徳さん(78)。戦争体験を記録し、次代へつなぐことへの熱い思いを語ります。
聞き取り調査で携わった「南城市の沖縄戦 証言集ー大里ー」の発刊を喜ぶ知念昌徳さん。同書の証言を演劇グループ「演劇戦隊ジャズプレッソ」が朗読動画で配信するなど広がりを見せている
知念 昌徳 さん(78) 南城市
今年3月、旧大里村出身者の戦争体験を収録した「南城市の沖縄戦 証言編-大里-」が発刊された。
旧大里村の本格的な戦争体験証言集が刊行されるのは初めて。大里出身で聞き取り調査員の一人として携わった知念昌徳さんは、「戦争体験者が減る中、地元住民の戦争体験を調査、記録できたことはとても意義深い」と喜ぶ。
2008年、知念さんは、宮城貞子さん、仲原節子さんとともに南城市から委嘱を受け、女性ボランティアと一緒に聞き取り調査を開始。各地域に住む人の自宅や公民館などで戦争体験者一人一人にじっくりと話を聞いた。
知念さんは、録音データを自宅で聞きながら、紙に手書きで書き起こし、それをパソコンで入力。必要であれば、追加の聞き取りもした。原稿は証言者本人にも確認してもらうなど、丁寧な作業を重ね、証言集は約12年を掛け完成した。同書には同市大里福原区の呉屋勝正さんが自分の集落内で独自に聞き取りした戦争体験記録や、沖縄国際大学元教授の吉浜忍さんと当時のゼミ学生らによってまとめられた資料も収録されるなど、より充実した内容となった。
戦争体験者が語った「殺し合わずに平和に生きられるようにしてほしかった」という言葉が心に強く残っていると話す知念さん。「戦争体験者の真実の声に、今を生きる私たちは真剣に耳を傾ける必要がある」と力を込める。
戦前・戦後の世代つなぐ
青年時代、ある高齢者に「年寄りの話を残すのは君たち若い人の務めだよ」と示唆を与えられ、戦前と戦後の世代をつなぐ年代であることを意識するようになった。大里村役場を定年退職後、社会活動に取り組んできた知念さんの胸の中には「残して、つなぐ」ことが基本にある。
聞き取りでは、戦争体験者の高齢化が進み「もっと早く調査できていれば」と残念に思うこともあった。「大里に限らず、体験者を掘り起こして証言を取る作業は、急いで取り組む必要がある」と警鐘を鳴らす。
再び戦禍に見舞われることがないようにするには、「戦争の歴史を風化させない努力をしなければならない」。その思いもまた、若い世代へと引き継がれていく。
旧大里村の住人に、戦争体験の聞き取り調査を行う知念さん(右)。証言者の話を途中で止めないよう心掛けた(写真提供/南城市教育委員会)
知念さんが聞き取り調査で関わった書籍。「大里南小学校創立100周年記念誌」でも130人の聞き取り調査を行い、DVDにも収録した
取材/赤嶺初美(ライター)
毎週木曜日発行・週刊ほ〜むぷらざ
「第1765号 2021年6月3日紙面から掲載」