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2020年10月30日更新

“抜け感”を残す、完璧過ぎない庭づくり|岩村浩生さん(造園家)

ヤマトンチュの沖縄ライフ『楽園の暮らし方』<vol.23>
沖縄に移住した人たちの「職」と「住」から見えてくる沖縄暮らしのさまざまな形を紹介します。

岩村浩生さん (造園家)


「完璧に作り込まれた庭よりも、ほどよく抜けたところのある庭の方が人はくつろげる」。そう考える宮崎県出身の造園家、岩村浩生さんは“作り込み過ぎない”庭づくりを探求している


身近な植物がメインの庭。“野の趣”が癒やしに

楽しい、うれしいといった感情とは、いささか無縁にも思える状況で、岩村浩生さん(37)は得も言われぬ幸福感を味わった。

沖縄の県立芸術大学でデザインを学んだ後、造園家になることを目指して東京で修業に打ち込んでいた20代半ばのことだ。師匠に言われて草むしりをしていると気分が高ぶってきた。

「何だかとても楽しくなってきたんです。『こんなに楽しい上に、お金までもらっていいものか』と思ったほどでした」

7年の修業を終えて独り立ちし、ふるさとの宮崎でなく沖縄に拠点を置いて造園家として活動する今でも、同様の高揚感がしばしば胸に湧き起こる。

「お客さんの庭で草刈りや剪定の作業をしている時など、途中から楽しくて仕方がなくなってくるんです。庭仕事は苦行だと思っている人や管理が面倒だから庭を持たないという人がいますが、楽しいなんていう言葉では言い表せない楽しさが庭にはある。仕事を通してその喜びを伝えたい」



4年前に設計、施工した那覇市の庭。もとはフラットだった地面に起伏を付けて、すぐ向かいにある公園の丘と風景的につながるようにした。「借景になっているその公園から木々が下りてきたような庭をイメージしました」(写真は岩村さん提供)


南城市にある宿の庭。以前ここにあった芭蕉(ばしょう)畑や裏山の緑を極力残しながら作ったという。どこまでが元の景色でどこからが造園されたのか、境目が分からないほどに自然(写真は岩村さん提供)
 

作り込み過ぎない庭

「どこにいても、尊敬できる人との出会いに恵まれる」という岩村さんには、強い影響を受けた2人の“師”がいる。1人は、「最低でも30年後を見越して作庭しなさい」と教えてくれた東京の師。もう1人は、東京から名古屋に移って造園会社で働いていた時期に出会ったSさん。常識に縛られ過ぎないことの大切さを彼から教わった。

「木には“顔”と言って、一番美しく見える部分があります。普通は顔がよく見える向きで植えますが、Sさんは逆に、背中を向けて植えたりもした。木に顔も背中もあるものかという考えだったのでしょう」

Sさんが作る庭は、完成したばかりでも元からそこにあったように場所になじんだ。里山の一角を切り取って再現したような自然な趣があった。その作風は、暇さえあればSさんに付いて回ったという岩村さんに受け継がれている。

「庭を作る時、僕はガチガチに作り込まないようにします。あまりに完成された庭だと、枝がどこか1本飛び出ているだけで人はストレスを感じてしまう。雑草が少しくらい生えていてもよしとするくらいの、若干抜けた感じの庭を作るようにしています」

“抜け感”をわざと残す岩村さんの庭は、人の手で作られたものであるのに、人工的な匂いが薄い。あたかも植物が思い思いに生えてきて、自発的に庭にまとまったような印象を与える。そうした持ち味を、お客さんは「野の趣がある」と言って愛でてくれている。


北谷町の民泊施設に作った玄関アプローチ。「どんなに短いアプローチにも、歩くのが楽しくなるような見せ場を盛り込むことはできる。沖縄の住宅は外構をコンクリートで覆っていることが多いですが、土のスペースを少しでも広く残してほしい、というのが僕の願いです」(写真は岩村さん提供)
 

作って終わり、ではなく

庭づくりを依頼されると、岩村さんは多い時で10回も打ち合わせを重ねる。「施主さんを知れば知るほどいい庭ができる」と信じるからだ。設計、植栽、石工事と庭づくりの一切を幅広く手がける中で、一つ心がけているのは島の在来植物をできるだけ取り入れることだ。

「物珍しい外来植物よりも、身近な沖縄の植物に光を当てる庭を作りたい。島に昔からある植物だけで、現代の暮らしに合う庭は十分にできると思います」

庭が完成して引き渡しを終えても、岩村さんの仕事は終わらない。むしろ、そこから始まる。

「僕の仕事は植物という生き物を扱います。相手が生き物である以上、植えて終わりのはずがない。植えた後のお手入れまで、というかそれこそが自分の仕事です」

「自分で植えた植物はわが子のようなもの」と話す岩村さんは、どこの庭にどんな植物を植えたかを克明に記憶していて、台風が直撃した後などには被害が出ていないかを確かめに行く。

「ここ数年のうちに、若い後継者を一人、育てたいと思っているんです。万一僕に何かあっても、お客さんの庭をお手入れし続けられるように」

僕が植えた木は僕よりも長生きするはずですしね、と言い添えた岩村さん。師匠の教え通り、数十年先の未来まで見据えている。


仕事道具。飾り方次第で、シャベルやツルハシもアートのように見える
 

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岩村さんの自宅は木造平屋建て。台風の影響を受けにくくするために建物の高さを低く抑えてある。「家が低い方が植木が高く見える、という視覚的な効果も考えました」。設計は南城市の建築士、山口博之さんにお願いし、施工は大工さんと岩村さんの2人で行った


古い農家の一角のような懐かしさが漂う玄関土間。2歳と6歳の子どもたちが裸足(はだし)で駆け回れる格好の遊び場だ


“ロの字”につながる仕事と暮らし

京都の寺など、日本の古い伝統建築を見て歩くのが好きだという岩村さんは、「家を建てるなら木造で」と以前から決めていた。だから、陶芸家の妻、照美さんにゆかりのある読谷村に気に入った土地を見つけた時、設計を依頼したのは、県内で木造建築を多く手掛け、高い評判を得ている建築士、山口博之さんだった。

「家づくりには強い思い入れを持っていて、自分でも図面を100パターンほど描きためていたんです。しかし、さすがに山口さんの案はその全てを上回るすばらしいものでした」

例えば、山口さんは家の真ん中に中庭を設けた。その周りに玄関土間、仕事場、LDK、寝室を“ロの字”に配置した。中庭を挟むことにより、仕事と生活の領域の間に、近過ぎも遠過ぎもしない絶妙な距離感が生まれた。

「中庭が欲しいとこちらから要望したわけではないんです。むしろ僕としては、仕事場と住居を完全に分けて分棟にするつもりでした。だけど、この造りの方が断然使いやすい」

おまけに中庭は、光や風の取り込み口になって室内を明るく、涼しくしてくれる。また、植栽の緑はせわしない日常の中で一服の清涼剤にもなる。住み始めて7年。「この家の快適さが身体に染みついている」と言うほど住み心地に満足している。


家の中央にある中庭が、仕事部屋(向かって右)と住居部分(奥と左の部屋)とをゆるやかに切り離し、ゆるやかにつなげる



無垢(むく)の木の壁や琉球石灰岩の床、竹やわらびでできた生活道具など、岩村家の暮らしは隅々まで天然素材に包まれている。キャビネットの中の陶器は妻、照美さんの作品。古い時代の器のようなたたずまいがあり美しい



文・写真 馬渕和香(ライター)


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1817号・2020年10月30日紙面から掲載

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