フォルマシオン・ミュジカル指導者 津覇えりなさん|音楽は言葉 心つなぐ橋[彩職賢美]|fun okinawa~ほーむぷらざ~

沖縄で暮らす・食べる
遊ぶ・キレイになる。
fun okinawa 〜ほーむぷらざ〜

沖縄の魅力|スマイリー矯正歯科

毎日を楽しく

彩職賢美

2025年7月17日更新

フォルマシオン・ミュジカル指導者 津覇えりなさん|音楽は言葉 心つなぐ橋[彩職賢美]

那覇市出身の津覇えりなさん(45)は、フランスの文科省が制定した音楽教育の指導法「フォルマシオン・ミュジカル」を学び、パリで指導者として活躍している。技術偏重ではなく音楽そのものから学ぶこの教育法の魅力に取りつかれ、顔面神経症という試練を乗り越えながら、日本での普及にも情熱を注ぐ。

彩職賢美

タグから記事を探す

パリを拠点に音楽教育を研究

フォルマシオン・ミュジカル指導者
津覇えりなさん

 

音楽の耳を育てる
仏音楽教育を普及

4歳からピアノを始め、音楽を専門的に学んできた津覇えりなさん。大学院在学中の2003年、沖縄県国際交流・人材育成財団の国外留学派遣生に選ばれ、「フォルマシオン・ミュジカル」を学ぶために渡仏したことが人生の転機となった。「当初は2年ぐらいで戻るつもりだった」が、数々のすばらしい出合いがあり、フランス生活は21年、今も続く。

津覇さんは現在、パリ区立音楽院でフランスの音楽院の必修科目になっている音楽基礎教育法フォルマシオン・ミュジカルを指導している。従来の技術中心の音楽教育とは異なり、「音楽から音楽を学ぶ」ことが特徴だ。さまざまな楽曲を聞きながら音楽の構造や表現を理解していく。「音楽の耳が育まれ、いろんな曲の中身が聞こえてくるようになる」と説明する。

この教育法の魅力は、プロを目指す子どもだけでなく、アマチュアとしても音楽を楽しめる聴衆を育てることにある。「1年生の男の子がある曲を聴いて『この曲、前回聴いてたのと似てるよね』と発言し、独特な音階を使っているのを理解していた。耳が育成されている風景だった」と話す。また、フランス人の友人が音楽家でないのにかかわらず、ラジオから流れる音楽の構成を分析して話す姿に感動したこともあった。
 
          

津覇さんは43歳のとき、さらに学びを深めようとフランス国立パリ高等音楽院に入学した。しかし、仕事と学業の両立は想像以上に過酷で、23年の卒業直後、顔面神経症を発症。「そのとき初めて、体が悲鳴をあげていたことに気付いた」。重症と診断され、現在も後遺症がある。

発症当初は、「フランス語の発音がうまくできない、歌えない、まひした顔は子どもたちを怖がらせるのでは」と悩んだが、「これは私への挑戦状だ」と奮起。休むことなく子どもたちの前に立ち続けた。「休んでいたら、きっと再び子どもたちの前に立つ勇気は出なかったと思う」と振り返る。子どもたちからの励ましの言葉にも支えられた。

津覇さんの音楽教育への思いは深い。「音楽は言葉。良い演奏をするためには、いろんな音楽言語に触れることが大事。小さいときから音楽を聞きながら音楽の基礎を学ぶことで、本当の意味で音楽を愛する心を育てられる」と熱く語る。

津覇さんが受け持つ区立音楽院のフォルマシオン・ミュジカルクラスには、7歳から14歳の子どもたちが通う。音楽家を目指してというより、「音楽が好きだから」という理由の子が多い。最初の4年間は試験もない。「競争ではなく、ゆっくり学んでいける環境がある」と語る。
 
          

津覇さんはフォルマシオン・ミュジカルを日本でも普及させたいと力を注ぐ。これまで9年間、全国各地で指導者向け講座を開催。7月20・21日には沖縄でも講座を開く。その情熱はゆっくりと広がりを見せている。

夢はフランスで販売されているフォルマシオン・ミュジカル教材の翻訳出版と自身の教科書出版。そして世界各地でこの教育法を伝えていくことだ。「60歳、70歳になったときに、そういうふうになっているといいなと思いながら生きている」

パリ郊外の森で鳥のさえずりに耳を傾け、音楽と自然の調和を感じながら暮らす。フランス人の人情味あふれる気質には沖縄の人々との共通点を見いだす。「音楽という言葉で世界の架け橋になりたい。それが、これまでお世話になった人々への恩返しになる」。感謝の思いを胸に活動を続けている。


 フォルマシオン・ミュジカル 音楽を学ぶ子の必修科目にも 
フォルマシオン・ミュジカルは、1977年にフランスの文化省が制定した新しい音楽教育の指導内容およびその指導法で、ジャンルや時代を問わず、さまざまな音楽に触れ、実際の音楽作品を用いて音楽から音楽を学ぶ。

フランスでは、水曜は学校が休みで、音楽やサッカーやテニスなど各自、課外活動を行うことになっている。7歳以上で音楽院に通い、楽器を習う全ての子どもたちはフォルマシオン・ミュジカルと合唱が必修科目だ。

国家資格を持ち、これまで6カ所の音楽院で指導、現在はパリ区立音楽院でクラスを持つ津覇さんの下にも7歳~14歳の子どもたちが通う。「音楽が好きな子どもたちの感性と、競争でなく、ゆっくりと音楽を学ぶ環境に豊かさを感じる。顔面神経症を発症し仕事を辞めようか悩む時期もあったけど、子どもたちに元気をもらっている。続けて良かった」と笑顔で話す。


フランスでの授業風景(写真提供:津覇さん)


 各地で指導者向け講座を開催 
夏休みを利用して帰国し、各地で指導者向け講座を開催している津覇さん。今年も7月から沖縄を含め各地で開催を予定している。

コロナ禍をきっかけにオンライン指導も可能になり、遠隔地でも学習ができる環境を整えた。受講生からは「自分が子どものころに、この教育法に出合いたかった」との感想が多く寄せられるなど好評だ。

「指導者の育成を通じて、日本でも普及させたい」と津覇さん。その精力的な活動の背景には、かつての恩師たちへの思いがある。「大学院を卒業せず退学してフランスに渡ったことが、先生たちに申しわけなかったという気持ちがある。フランスで学んだことを日本に持ち帰って広めることが、私にできる恩返し」と語る。


以前行われた講座の様子(写真提供・津覇さん)



プロフィル/つは・えりな
1979年生まれ、県立開邦高校芸術科、県立芸術大学音楽学科ピアノ科卒。同大大学院在学中の2003年、沖縄県国際交流・人材育成財団で国外留学派遣生に選考され、翌年渡仏。フォルマシオン・ミュジカル科最終課程高等ディプロムを取得し、後に音楽教育国家資格を取得。音楽院でフォルマシオン・ミュジカルの指導をしながら、国立パリ高等音楽院でも学び卒業。現在、パリ区立音楽院に勤務、指導しながら、フォルマシオン・ミュジカルの普及を目的に国内外で講座を行うなど精力的に活動している。



今までの彩職賢美 一覧
撮影/比嘉秀明 取材/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1448>
第1979号 2025年7月17日掲載

彩職賢美

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

スタッフ
funokinawa編集部

これまでに書いた記事:4703

沖縄の大人女子を応援します。

TOPへ戻る