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新城和博

2023年12月12日更新

スリバチとビンダレー 楽しい地形散歩|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.112|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

 ぼくは二つの「学会」に参加している。ひとつは、那覇の市場について、研究者、市場の人、地元客らが、あれこれ語る「まちぐゎー楽会」。「学」が「楽」になっているのは、楽しみながら、半分なんちゃって精神を忘れずにいたいからだ。年に1回集まる模合のように、もう20年近く続いている。そしてもうひとつが「沖縄ビンダレー学会」である。これについては、会長も務めている。が、会員はぼくひとり、ちゅいなーである。というのも2018年11月に「東京スリバチ学会」が那覇にやってくるというので、急きょでっち上げた……いや立ち上げたからだ。

 まち歩き、地形マニアなら知らない人はいない東京スリバチ学会とは、東京にある独特の谷、坂にかこまれた地形を「スリバチ地形」と名付けて、長年にわたりそのスリバチ上の地形を探求し偏愛している人たちである。言い出しっぺの皆川典久会長は、かのブラタモリにも出演、東京スリバチ地形のまち歩き本も何冊も刊行して、昨今のまち歩きブームの立役者のひとり。いまや全国に「○○スリバチ学会」と名の付く、それぞれのまちの地形を偏愛する会や、それに類する会が多数あるのだ。彼らは、ときどき現地集合で、全国、そして外国に赴いて、あっちのスリバチ、こっちの暗渠(あんきょ)、そっちのドンツキ(行き止まり)、微妙な高低差、激しい高低差を1日掛けて歩いて、ひぃひぃ歓喜の声をあげている……。つまり、ほくと同好の士なのである。

 その彼らのために、那覇のマニアックな高低差を楽しむなら任せておいてと安請け合いして、ガイドを買ってでたのはいいけれど、全国屈指の地形偏愛マニアの方々が満足してもらえるスリバチ地形が、簡単にあるわけでもないので、「スリバチ」でなくて「ビンダレー」ならどうかしらと名付けたのが、「沖縄ビンダレー学会」。ビンダレーとは、たらい、洗面器のこと。顔を洗って出直すつもりで、深くは考えないでおこう。



 今年の11月、東京スリバチ学会がまたまたやってくるというので、前回の「那覇の一番高い所から一番低い場所まで歩く」という超ハードなコースを設定してしまった、つまり張り切り過ぎの反省を踏まえて、沖縄ビンダレー学会は、あらたなコースを用意した。題して「首里・真和志の山越え谷越えスリバチ、暗渠、ドンツキもあるよ横断コース」だ。いまこのタイトル考えたことは語るまでもないだろう。とにかく観光客でも、いや那覇になんども来ている人でも、いやいや地元の人間でもなかなか通らないであろう、実はぼくも初めて歩き通しますというコース。沖縄ビンダレー学会、2回目の活動である。

 詳しく語ると1日かかるのであるが、首里の琉球石灰岩の高台は、川の浸食により大きな谷に挟まれた地形で、その南側に面する繁多川(真和志地区)は、安里側上流の金城ダムを挟んで対岸に位置する。この金城ダムはいってみれば「ビンダレー」である。そこを越えて急激に登り切ると、お墓たくさんの識名、繁多川の高台へ至る。ここも琉球石灰岩状の高台なので、首里と同じく湧水、カー(井戸)が数多くある。堀り込み式のカーが点在している繁多川はスリバチ地形の宝庫ともいえる場所だったのだ。



 今回、これはという住宅が密集する地域の「スリバチ地形」をひとつコースに組み込んでいた。ビンダレー学会長として、いくつかやってくるであろう東京スリバチ学会のために、とっておきの真和志スリバチ地形を見つけていたのだ。繁多川のある、車がぎりぎりすれ違う坂道からさらにギュッと曲がり、半らせん状につづく道を降りていくと、3方が崖にかこまれた住宅地があった。場所はヒミツにしておこう。全国各地からやってきたスリバチ学会の面々もほぉと声が出た(ような気がした)。なんにも特に特徴がないと思われる住宅地でも、見る人が見たら桃源郷、パラダイスにでもなるのである。スリバチ、ビンダレーと名付けて、見立てることによって、見慣れた風景、初めて訪れたまちがいとおしく思えるのである。


 
 ぼくは皆川会長に「どうでしょうか」と尋ねると、「いやぁ、これは見事なスリバチですよぉ」とにこっと笑った。彼はいつでもにこにこしている人なのだ。きっといつも自分の好きなことをとことんマニアックに楽しんでいるからだろうなぁ。

 今回、沖縄ビンダレー学会は、助っ人が3人も参加してくれた。いずれ単独でビンダレーツアーもやってみたいと思ったが、それはいままで歩いてきたことと果たして何が違うのだろうか……。来年の今ごろも、またこの近辺を歩き回っているような気もする。

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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