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新城和博

2023年7月20日更新

5週目の〈沖縄島をまわる人生〉宜野座で貸し切り状態|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.108|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

遠くに行きたい。近場ですませたい。ここ数年の休日のテーマである。この相反する気持ちの距離はわが住まい首里からすると、やはり国頭郡あたり、できたら中頭郡寄りということになる。言い換えると、北上して「やんばる」の入り口あたり。ここ数年、迷った末に北上して沖縄高速道から降りるのは、「宜野座」である。

ぼくは、まだ人生1週目の人なのだが、〈沖縄島をまわる人生〉と考えると、5週目である、たぶん。1週目は、復帰前に生まれてから中学校くらいまで。那覇から一番遠いところに行ったのは、本部町の海洋博だった。沖縄島のスケールを実感していないころ。2週目は、高校の3年間。ワンダーフォーゲル部で、夏、冬、春休みや連休となれば、那覇からヒッチハイクして、大宜味村、東村、国頭村のいわゆる「やんばる」の山歩きをしていた。沖縄ってこんなに広いんだってことを、やんばるのジャングルで道に迷いながら体感していた。大学ではフィールドワークで今帰仁村や伊江島などの集落をまわり、沖縄は民俗、歴史的にも広く深いところだと実感した。3週目は、大学卒業後、出版を生業(なりわい)にして、雑誌取材で民宿情報を集めたり、各地の小学校の訪問販売の集金や書店の在庫チェックなどで、沖縄島をぐるぐるまわっていたころ。沖縄の町も村もいろいろ個性があることがわかってきた。それがのちにさまざまな沖縄県産本をつくる土台になっている。4週目は、結婚して子どもができて妻とともに子連れで、それこそ沖縄じゅうをアマハイクマハイしていたころ。子連れで楽しい観光施設や公園はもとより、海・山・川遊びの穴場を探していたなぁ。その全てが終わり、夫婦ふたりだけの生活がベースとなった現在が、5週目というわけ。つまり一応めぼしいところはまわったのではないかという既視感のもと、どこに行けばいいのかと悩んでしまう日々。日常をたんたんとこなすのはいいのだけど、「遠くに行きたい。近場にすませたい」というとき、決断できないのが5週目の特性である。
そんなとき、そうだ、宜野座へ行こう、となるのである。ならなくてもなってください。遠いけど近い、海もあれば山ある。東海岸特有の、人気(ひとけ)のない場所もあちこちにある。



今回は、まず宜野座ダムに行った。いつも高速道路から眺めるだけだったのだ。常々ダムについては関心はあった。全国にダムマニアがいることも知っていて、沖縄のダムは珍しい工法や、また山原の自然とどのように折り合いをつけているのか、気になってはいたのだ。でもせっかくの休みに中年夫婦ふたりだけで「よしっダムに行こう♡」などとは普通ならないだろう。ダムまつりはまだ先だ。いったい何があるのだろう。確かめもせずに行ったのだが、しかしこれがなかなかの正解だった。

ダムのまわりはだいたい公園のように整備されているだろうと見越していった。虫取りをする家族づれがちらほら、散策コースにはわざわざウオーキングのために来た中年のおじさん2人ほど。ダム湖をながめるだけでも、すこしうれしくなる。水がたくさんたまっているだけなのに、誰もいないから、独り占め感があるのだ。親水ゾーンの水はほぼ干上がっていたが、そこから自然観察コースへ向かうと、そこは想像の翼を広げると尾瀬のような湿原があった。トンボやらトンボやらトンボがいた。人がいない森の小径を歩けるのがとりあえず得した気持ち。




そこから車でダム本体の部分へ。ダム博物館があるという看板に従っていくと、ありました。そこはダムの仕組みだけではなく、やんばるの自然を解説して水槽にはやんばるの水性生物のほんものと、やんばるの森を再現したジオラマが展示されていて、いきなり自動案内音声が流れてきたりする。ここももちろん誰もいない、ぼくたち二人の貸し切り。なんか得した気分。



せき止めている壁は専門用語でなんというのだろうか知らんけど、その上を歩くだけでテンションがあがる。誰もいないからダム貸し切りである。そこからダム展望台への登り階段があるので、急な斜面を登って行くと、立派な展望台がたんと設置されていた。展望台の屋上にのぼると、ダム湖の全体とその奥に鎮座する山々、振り返ると宜野座の海原が一望できるオーシャンビューが広がっていた。なんといってもそこから吹いてくる風がなんとも心地よい。涼しいのである。いままで貸し切り状態で歩いていたこともあるが、この風の涼しさは今年いち! と断言しよう。海から山へふきぬける、宜野座の風。



ダムの河口にはマングローブの遊歩道ミニがあってそこもまた二人だけでゆっくりと散歩が楽しめた。この貸し切り感が宜野座の醍醐味(だいごみ)だと個人的に決定した。帰りに見た「ぎのざの駅」の人出はすごかったけれどね。



そのあと、またまた誰もいない浜辺で数年ぶりに海に浸かり(泳ぐのではない)、貸し切り状態の波に揺られたのだが、それはまた別の話である。

新城和博

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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