小満&芒種(ぼうしゅ)の夕日 浦添「てぃだ結の浜」にライド・オン・タイム|新城和博さんのコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

沖縄で暮らす・食べる
遊ぶ・キレイになる。
fun okinawa 〜ほーむぷらざ〜

沖縄の魅力|スマイリー矯正歯科

COLUMN

新城和博

2023年6月15日更新

小満&芒種(ぼうしゅ)の夕日 浦添「てぃだ結の浜」にライド・オン・タイム|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.107|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

今年は梅雨になっても、今まで記憶にないくらい「爽やかな」日が続いた。「沖縄は梅雨入り宣言すると晴れる」なんてよく言うけど、今年は、いわゆる「空梅雨模様」という言葉では言い表せないくらい爽やかに感じたのは、あの「湿気」がなかったからだ。沖縄の暑さというのは結局、湿気なのである。昼間、家の中にいても、じんわりと汗ばむようなことにならず、扇風機&冷房いらず、こんなお日柄なら、いつまでも続いて欲しい小満&芒種だ……と思っていたら、6月早々に台風がやって来て、それなりの雨を降らすと、島の空気に例の湿気がやってきた。気がつけば雨をもたらす前線が南西諸島あたりに居座っている。連日の大雨。もうすぐハーレー鉦(かね)が鳴るはずなのにおかしいなぁ。

そんな梅雨前線が復活するとは思わなかった、少し前の夕方の話しである。
台風明けの日曜日、いつものように散歩するかと首里弁が岳の自宅から出かけた。
行くあてはない。また龍潭あたりまで歩いて、建築中の首里城でも眺めて、ドイツビールでも飲むか……と、首里ルーティンを考えていた。でも久々に海でも眺めながらビールとかもいいなとつい思う。これが「遠くに行きたい、近場ですませたい」という中高年独特の心情である。(詳しくは絶賛発売中『来年の今ごろは ぼくの沖縄〈お出かけ〉歳時記』ボーダーインク刊、よろしく)
ふと思いついてケイタイで調べると、ゆいレールで首里駅からおもろまち駅へ、そこから直行バスで手軽に行ける浜があるではないか。「てぃだ結の浜」という名前がいつのまにか付けられている。戦後ずっと米軍基地だったそこは数年前返還されると、県内最大規模のショッピングモール施設がオープンした。皮肉なことではあるが、米軍基地があることによって、西海岸では数少なくなった天然の浜、遠浅の海岸にはサンゴが、そして藻場が残っていたのだ。



ということが最近よく話題になるのは、その海岸が、那覇軍港の移設予定地となっているからだ。あぎじゃびよーと思いつつ、商業団地がある浦添西洲から宜野湾コンベンション地区へとつながった道路を車で走りつつ、その海岸を遠くに眺めていた。とりあえずそこは西海岸。つまり海に沈む夕日を眺めることのできるところ。一度ゆっくり夕暮れどきの「てぃだ結の浜」でビールを飲んでみたかったのだ。いい機会だから、おもろまちのバス停からショッピングモール直行バスに乗ってみようと、連れ合いに提案。ちょうど乗り継ぎの時間も悪くない。
いつもはドライブがてら通るコース、バスに乗ってしまうと、ちょっとした旅気分になるから不思議だ。



とくに渋滞することもなくすんなりバスはショッピングモールに到着。さっそくビールを買いだしして、車道向こうの防波堤へと向かう。日が落ちるまではまだ1時間ほどある。みると、海をなんとなく眺めている人びとがちらりほらり。潮が満ちているなか、小さな砂浜には中学生とおもわれる子どもたちが波と戯れている。というか、Tシャツのまま海に入っている。良き光景。そこにはのんびりとした時間が、波のしずかなうなりとシンクロするように寄せては返していた。



西日が強いかと思ったけど、真夏と比べたらぜんぜん大丈夫。夕日を待ちながらビールを飲む。気持ちいいに決まっている。でも思っていたのの何倍も心晴ればれとなる。振り向けば巨大なショッピングモール、左手には埋め立ての商業団地、右手にはまるで滑走路、夜空につづくような西海岸道路の高架橋。目の前に広がるだけの海原を見ていたら、いつのまにか日の入りの時間にあわせて、老若男女、夫婦、家族づれ、友達同士、いろんなたたずまいの我々が防波堤のあちこちに座っていた。言葉少なく、ただ日が落ちるの眺めている。これ以上、なにもいらないのではないかしら。



帰りは違うバスに乗って那覇のまちの最寄りのゆいレール駅に行き、そこから首里駅まで。自宅にもどるころには、弁が岳の向こうに、きれいな月があがってきた。首里の森から浦添の海へ。ほんの小さな移動だけど、島の豊かさはこんな風景の中にもあるらしい。
今考えると、小満から芒種へつづく、梅雨の晴れ間のことでした。

新城和博

タグから記事を探す

この記事のキュレーター

キュレーター
新城和博

これまでに書いた記事:90

ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

TOPへ戻る