コザに抱かれて眠って起きた|新城和博さんのコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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COLUMN

新城和博

2023年3月16日更新

コザに抱かれて眠って起きた|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.104|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

まずはお知らせです。
この2015年から始まったこの連載がおかげさまで本になりました。
タイトルは『来年の今ごろは ぼくの沖縄〈お出かけ〉歳時記』(ボーダーインク刊)。県内書店を中心に発売中です。2022年の年の瀬までのエッセーを収録していますが、一冊にまとめると、またいろいろな感慨が湧いてきます。お見かけの際はそろりとページをめくってみて、「来年の今ごろは」どうしているのかしらと、想像してみてください。
※読者プレゼントへの応募はこちらから。
 

先日、コザ(沖縄市)に泊まった。
これまで何度となく遊びに来ている街ではあるが、一泊するのは、沖縄に生まれて半世紀を過ぎて、初めてなのである。でも那覇出身だと、だいたいそうなんじゃないかしら。コザで遊んでも那覇だったら深夜になってもどうにかすれば帰れる距離だ。そもそも那覇の人はコザにあまり飲みに行かない、ということもある。なんで集まっての飲み会が久茂地ばっかりなのだ、という不満が宜野湾以北にたまっているのではないか。いつか那覇打ち上げ阻止総決起大会が計画されるのではないかと常々不安視している。



ザ・ワルツという、コザをホームタウンとするロックバンドの37周年記念ライブがゲート通りのミュージックホールで開催された。1990年代初頭、ぼくはこのバンドのライブを聴くために頻繁にコザに通っていた。その名もB1という地下のライブハウスに、当時わざわざ那覇からやってくるファンは、結構珍しかったのだ。いまはもちろんその店はなくなり、地上には大きな多目的なミュージックホールが立っている、というわけ。
長かったコロナ禍を乗り越えて久々のライブの余韻覚めやらぬなか、そのまま那覇に帰るのは味気ないかもと考え、コザのパークアベニュー通りの、当世はやりの空き店舗をリノベーションしてできたホテルルームを予約したのだ。旅行支援の県内割を使ったりして。
ライブは最高で、その興奮のままぼくらはコザの夜をさまよった。ゲート通り周辺の飲み屋は、米兵関係者らしいBBQ集団と日本人、地元人らしき居酒屋グループなどと、くっきりエリア分けされた感じででーじ盛り上がっている……けど久々すぎて勝手が分からないぼくたちは、どこかに入ることもなく、野良犬にさえなれずに、すごすごホテルルームに戻った。途中見た白人男性女性たちのカラオケではABBAが歌われ、静かなパークアベニューの入り口では夕方もいた黒人男性たちが通りに面したソファに座り、ずっとブラックミュージックを流している。目が合うと「GOOD NIGHT」とあいさつされた。
リノベーションしたホテルルームは映画のセットのようで、大変気持ちよく眠れた。眠れてしまった。



翌日、せっかくだからと朝のコザの街を散歩してみた。人気のない住宅街の朝の散歩は、どんな街でも同じ光が注がれているような気がする。
パークアベニュー通りはよく通るが、そのすぐそばだけど、車で通りすぎることもなかった住宅街を当てずっぽうに歩いていったら、ちょっとした小山の公園を見つけた。
繁華街は、海のそばか川沿いか、谷間の地形に発展していく場合が多い。しかしコザは高台の街である。戦後、米軍基地が建設されなければ、まったく違った農村地帯になっていたかもしれない。立派なお墓に囲まれたその公園のてっぺんの見晴台に行くと、はるかかなた(というほどでもないか)に中城湾、勝連半島といった、気持ちのいい明るい朝の東海岸が見える。太陽の光がまぶしすぎて、なんとなく夜のイメージが強烈なコザとは違って見えて、那覇から来たぼくにとってはなかなか新鮮だった。高台の街はそのときだけはのんびりとした時間が漂っているような気がした。
ホテルルームに戻る途中、昨日の夜と同じ場所のソファに黒人男性がゆくっていた。通り過ぎながら「グッ、モーニン」とあいさつした。
那覇からわずか20分ほどのコザの街、沖縄南インターを降りて、また泊まりにこようと思った。
 

新城和博

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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