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新城和博

2023年2月9日更新

還暦のドアをノックする|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.103|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

一回りしてもとに戻るというのは、散歩していてもよくあることだ。問題はその距離というか時間である。60年たって一回りしたとなるとどんだけ迷ったのか、いち大事のように聞こえるが、ようするに「還暦」のこと。どうやらぼくも十干十二支の組み合わせのマイ暦がぐるりとまわり、癸(みずのと)・卯(う)年を迎えたようなのだ。卯年であることは、ものごころついてから、ちゅーじゅーく意識していたが、「癸」ってなんだろう……。



まっ、とにかく2月生まれのぼくは、おかげさまでなんとか還暦のドアをノックできそうだ。しかし還暦のドアってどんな音がするんだろう。コツコツか、カツカツ、コンコンか。これまでの人生のありようが響いてくるようではないか。

旧正月を迎えて最初の卯の日、いわゆるトゥシビーなので、せっかくだから実家のトートーメーに手をあわせにいった。ここまで生き残れたのはきっとみなさんのおかげですと、十二本三本の平御香(ヒラウコー)をうさげて、ひと参りした。線香はいつもと同じようにゆっくり燃え尽きて灰になる。

特にどうということもなかったが、ひと呼吸おいて考えると、まさか自分が60歳になるなんてと、実感なさすぎで、逆にびっくりである。

50歳になるときは、ちょっと面白かった。いろんな人から「若いねー」といわれるようになったのだ。でもそれってけっこう当たり前で、それは「50代にしては」という前提があるのだ。そして50代というのは40代とつながっているようで、まあ分からないでもない感触であった。しかし60歳となると、なんか違う気がするのだ。さて人生の階段を下り始めるか、という感じ。同級生たちは「定年退職」というキボウを語るひともいる。でも魚座のぼくは、このコラムを書いている時点で60歳を迎えてはいないので、気がするだけである。

ふとトートーメーの横をみると、今年90歳になる母の今年の書き初めがある。小さな色紙に書いてある。すでにさまざまな記憶をおいてきた母であるが、世話している姉によると、最近は食欲もあるという。良き、良き。

その書き初めの言葉がすてきだった。

「ぴょん びょん」

卯年だからか。

震えているように、斜めにジャンプしたような筆跡の「ぴょん ぴょん」に、にんまりする。すこしよれているのも味がある。まるで因幡の白ウサギのよう。

よし今年の抱負はこのオノマトペで決まりだ。母よ、ありがとう。

そうか、癸卯年の還暦のドアは「ぴょん ぴょん」と入っていけばいいのだな。

 

 

[お知らせ] さて還暦記念ということではありませんが、2015年に始まった「ごく私的な歳時記」これまで掲載したなかからセレクトしてエッセー集を刊行します。タイトルは『来年の今ごろは  ぼくの沖縄〈お出かけ〉歳時記』(ボーダーインク)。2月中旬より沖縄県内外書店で発売開始です。よろしくお願いします。  

 

 ※詳しくはボーダーインクのサイトまで。
 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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