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新城和博

2023年1月10日更新

自分史上最高のラフテー|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.102|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、これまでの概ね30年を振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。

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元日が日曜日にあたると、なにかしら損をした気分になる。年末年始の、あのまったりとした気分を通常の休みが相殺してしまうような感じ。「また来年!」と言いつつ、心の中で「すぐ来週だよねッ」という舌打ちをしたりして。しかしだからこそ有意義に使いたいお休みである。コロナ禍三回目の正月、親戚まわりもない。2023年、卯(う)年の正月は、三が日の料理を仕込むのは最小限にした。となればぼくが作るのは、ラフテーに決まっている。



おととしの正月だったか、那覇第一牧志公設市場の知り合いの肉屋さんに皮付き豚肉、つまり三枚肉を買いに行ったら、目指していた脂身少なめシシ(肉)が売り切れていて、無念の涙を流したことがあった。今回はその反省のもとクリスマス明けに様子うかがいに行ったら、店のおじさんに予約していたほうがいいよと言われて、さっそく予約した。脂身少なめ、上等から。今年は娘は帰省しないので夫婦ふたり分ほど。電話番号を伝えようとしたら、いいいよ、いいよ、とのこと。細かいことにかまわない相対売りの市場なのだ(?)。

数日後、正月の準備で買い物客がごった返す公設市場へ向かう。おもえば2019年夏、市場の改築にともない、プレハブの店舗に移動し営業してきた仮設公設市場で迎える、最後の新正月の買い物である。新しい市場は2023年3月上旬に開場する。しかしこの仮設市場の期間中、首里城正殿焼失、コロナウイルスと前代未聞のことが起こり、訪れる観光客の数は大幅に減った。新築の市場もなんやかんやで完成は一年ほど延び、復帰50年の節目にも間に合わなかった(前の市場は復帰の年1972年に開場したのだ)。

そんななか地元客は、旧盆、新旧正月などの年中行事には、やはりこの市場で買い物をしていた。もちろん昔と比べたらずいぶん客足は減っているだろうが、年の節目となるときにはやはり市場かいわいの店で、という家はいるのである。

ぼくは、なんちゃって地元客なので、なんとなくお盆、正月前にぶらつく程度ではあったのだが、今回「公設市場のなじみの肉屋で正月用の上等三枚肉を取り置きしてもらう」ということで、かまぼこ買うために並ぶほどの地元感はないけれど、それなりの常連的な気分を味わうことができた。

取り置きしてもらった三枚肉はなかなかのもので、良い部位をたっぷり準備してもらった。上等だからこのまま買ったらいいよというので、予定の量のほぼ2倍いただくことになった。今年は夫婦ふたりだけなのに。まぁいいか。しーぶん(おまけ)に豚の肝とウインナーをいただく。やった。

さて大みそか、その三枚肉をじっくり湯がいて煮込んで仕込んだラフテー、元旦においしくいただきました。今回レシピは『松本嘉代子のイチから琉球料理 ~家庭料理の作り方~』(タイムス住宅新聞社刊)にお世話になりました。しーぶんの肝も松本先生のレシピにしたがい「チムシンジ」にしました。松本先生、ありがとう!



自分史上最高の出来のラフテーである。そうか、良い肉を手に入れれば、とうぜんおいしくなるに決まっているのだ。なにより、肉の層がくっきり地層のように見目麗しいのがうれしい。

かつて市場で豚肉を買い求めるお客さんたちは目利きで、肉の質にはこだわっていた。肉の新鮮さはもとより、お店の人に肉を手のひらに載せてぐるりと回させてチェックしたり、いまでは考えられないが、客が直接手で触ってもよかったんだそう。できるだけおいしい肉を、あの世の人にも、カミさまにも、ヤーニンジュ(家族)にも食べさせたかったのだ。

ラフテーがうまく出来た今年は良い年になりそうな……いやいいかげん、そろそろ良い年になってほしいのだ。

[お知らせ] 2015年に始まった「ごく私的な歳時記」も連載9年目に突入します。びっくりです。それでということでもないですが、これまで掲載したものをセレクトしたエッセー本を刊行します。タイトルは『来年の今ごろは  ぼくの沖縄〈お出かけ〉歳時記』(ボーダーインク 2月刊行予定)。詳しいことはあらためてご紹介いたします!
 

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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