「経膣分娩は無理なんだ」涙止まらず 3度の帝王切開 助産院を開いた42歳の思い|彩職賢美

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「私には経膣分娩は無理なんだ」。2人目の予定帝王切開の前夜、助産師の赤嶺秋さん(42)は涙が止まらなかった。一人のママとして、葛藤を乗り越えて迎えた3人目の「ハッピーな帝王切開」が活動の原点だ。「どんなお産も命がけで、かけがえのないもの」という思いで開いた「秋ちゃん助産院」。お産の振り返りや産後ケアを通じ、「ママ友のように」一人一人に寄り添う。(編集部/栄野川里奈子、撮影/比嘉秀明)

秋ちゃん助産院 助産師の赤嶺秋さん(42)

「帝王切開も私のお産」 どんなお産も思いも◎

ママ友のように寄り添う「帝王切開経験助産師」

看護学校時代、授業で聞いた「赤ちゃんが最初に会うのは助産師」という言葉に感動し、助産師を志した赤嶺さん。お産への思いは、人一倍強かった。

1人目を緊急帝王切開で出産し、「次こそは経腟分娩で」と臨んだ2人目の妊娠中。だが予定日を過ぎても陣痛は来ず、予定帝王切開が決まった。手術の前日、「今陣痛がきたら…」と、祈るような思いで病院の階段を歩いたが、医療者の「明日には会えるのに何をしているの」という言葉に心が折れた。

お産のプロとして母子の安全が一番だと、頭では分かっていた。ただ、帝王切開を2回すると二度と経膣分娩は選べなくなる。心がついていかなかった。

「『もう少し待っていたら』『もっと何かしていたら』そんなことばかり考えていました」。無事に産まれた子どもはいとおしいけれど、重いモヤモヤが心に残った。

転機は3人目の妊娠だ。「お産に向き合おう」と、オンラインで「帝王切開を経験した助産師の会」に参加。誰にも言えなかった心の内を吐き出し、ボロボロ泣いた。

妊娠中、医師や麻酔医に「術中、眠くならないようにしてほしい」「眼鏡を持ち込みたい」と希望を伝え、サラシを自ら虹色に染めると気持ちも晴れやかに。臨んだ3人目のお産は、心から満足できるものになった。

産後、術後の傷ケアについて複数の講座を受講。実践すると長年続いていたかゆみや違和感が消え、穏やかな気持ちになった。「帝王切開は受け身な部分があるけれど、私にできることはたくさんあった。帝王切開も私のお産」と胸を張る。


「悩み、傷ついたママたちを支えたい」。そんな思いで2023年に起業をした赤嶺さん。だが、起業後1年目は人生で一番苦しかった。訪問サービスへの利用者が思うように集まらず、他の助産院でアルバイトをした時期もあった。

「状況を変えたい」と拠点を設けることに。「お家のようにくつろげる場所にしたい」と物件探しを始めたが、難航。何件も断られた末、ようやく借りることができた。昨年、通所型としてオープンすると、産後ケアの利用者が急増。今では予約1カ月待ちの人気だ。

アパートの一室にある助産院は、利用者から「実家のよう」と言われることも多い。柔らかな物腰の赤嶺さんに笑顔で迎えられると、初めてでも不思議とリラックスできる。

産後ケアは、分娩方法を問わず受け入れている。3時間と6時間のコースがあり、ママに自由に過ごしてもらい、その間に赤ちゃんをケアする。「とにかく楽に過ごして、温かいご飯をゆっくり食べてほしい。指導というよりママ友のように、おしゃべりをしたり悩みを聞いて情報を伝えたりしています」

利用者の4割は帝王切開を経験したママだ。そんなママには「傷はどう?」と声をかける。「必要に合わせてケア方法や受診を勧めることも。実は産後、傷について聞かれることがあまりないんです」

活動を続ける中で、視野も広まった。「帝王切開で安全に産めて良かったと感じる人もいる。どんなお産も思いも◎。ママの気持ちを丸ごと受け止める場所でありたい」

産後ケアで関わった赤ちゃんの成長を親戚のおばちゃんのように喜び、性教育で学生たちに命のすごさを伝える。「毎日楽しくて、家族にも生き生きしているねと言われます。命が近い、この仕事が好き」

「帝王切開を経験していなかったら起業はしなかった」と語る赤嶺さんの名刺には「帝王切開経験助産師」と書いてある。その笑顔は、充実感にあふれていた

「いのちのとびら」から生まれた3人の子

帝王切開で、3人を出産した赤嶺さん。帝王切開を「いのちのとびら」、経膣分娩を「いのちの道」と表現し、「どちらもかけがえのないお産」と話す。

1人目は赤ちゃんの回旋異常(うまく回転できず分娩が進まない状態)で、深夜の緊急帝王切開に。2人目は経膣分娩を望んだが陣痛が来ず、予定帝王切開となった。術後の強い眠気から記憶が曖昧なまま目覚めて、「赤ちゃんはどこ?」と強い恐怖に襲われた。

「お産はもう嫌だ」と一時は避妊していたが、「やっぱり子育てがしたい」と3人目を迎える決意をした。過去の経験を振り返り、望むお産と向き合って臨んだ3人目の出産で、「やりきった」と納得できた。 

現在、5人に1人が帝王切開とされるが、情報は不足している。赤嶺さんは「お産中に緊急帝王切開になることもあり、誰にでもありえる。事前に手術の流れや何をするといいか知っておくと、お産が変わる」と両親学級を開催。また、「産後、経験者同士で語り合うことで気持ちが楽になることがある」とお産の振り返り会も行う。

左から1人目の長男、2人目の長女(赤嶺さん提供)

左から長女、次男、長男(赤嶺さん提供)

長男とハマった「糸かけ」 ママ向けに講座も

1年前、当時小学4年生だった長男と「糸かけ」を体験した赤嶺さん。

糸かけは、板に打ったピンに一定の規則で糸をかけ、幾何学模様を作り出すアート。長男はハマり、登校前に1層、帰宅後に1層と、糸を重ねて作品を仕上げた。もともとハンドメイドが好きな赤嶺さんも一緒に教室に通って講師講座を受講し、修了証を取得した。それぞれ作品作りに取り組んでいる=写真。

赤嶺さん提供

糸かけの魅力は、無になって作業に没頭できること、選ぶ色で作品の表情がガラリと変わることだという。以前から「お産も結婚式のように、好きな色やアイテムで彩ることで前向きになれる」と考えていた赤嶺さんは、豊かな色彩に引かれた。

今後、ママ向けに糸かけのワークショップを企画中だ。赤嶺さんは「子育て中は家事や作業が中断しやすい。そんなママたちに『今日はこれができた!』という達成感を味わってほしい」と目を輝かせる。

プロフィル

あかみね・あき
1983年、沖縄県出身。浦添看護学校を卒業。4年間働いた後、県立看護学校の別科助産専攻1期生として入学、卒業。総合病院の産科、不妊治療クリニック、市町村の助産師を経て、2023年に助産院を開院

■秋ちゃん助産院
aki.akamine.mw@gmail.com

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毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」彩職賢美〈1465〉
第2039号(2026年9月10日発行)より転載