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夫が院長を務める首里城下町クリニックで統括マネージャー、保健師として人々の健康を支えている田名彩子さん。週2回は夜のクリニックを開放し、中高生たちのために「町の自習室」を開く。学びを超えた温かなコミュニティーは人々や地域の希望となっている。(取材/赤嶺初美・ライター、撮影/比嘉秀明)
首里城下町クリニック 統括マネージャー・健康支援部・保健師の田名彩子さん(43)

夜のクリニック 「学びの場」に
私は長年、産業保健師として、働く人の健康管理に携わっています。夫が開業したこのクリニックに移ってからは、「働く人健康支援室」と「町の保健室」を立ち上げ、「彩職賢美」で紹介してもらいました。当時から体制は少しずつ変わり、今では保健師2人と看護師1人の3人で動いています。外来患者さんが重症化しないよう予防に取り組みながら、1人で暮らすお年寄りや、介護保険の申請が必要な患者さんへの対応など、病気のことだけでなく暮らしの支援まで担うようになってきました。
クリニックを開業して25年。当時60歳だった患者さんが今や85歳になって、できないことが増えたり、配偶者を亡くされたり、人生の背景がどんどん変わっています。長くお付き合いしてきたからこそ見えてくることがあって、それに応えられる場所でありたいと思っています。そんな中、2019年から新たに取り組み始めたのが「町の自習室」です。
自習室と食事を提供 自ら学ぶ子ども応援
きっかけは、その年の春に娘が県外の大学へ進学したことです。少し手が空いて、ずっと温めていたアイデアをかたちにしました。
娘が高校生のころ、塾が終わるのは夜の10時。私は夕方6時まで仕事をして急いで帰り、夕飯とお弁当を作り、塾まで届けました。私は何とかできましたが、やりたくてもできない家庭はいっぱいあります。産業保健師として、子どもの不登校や経済的事情に悩む、たくさんの人の話も聞いてきました。もし、学びたいけど学べない環境にいる子がいるなら、応援したいとずっと考えていたんです。
学び合いから成長へ さりげなく寄り添う
自習室は週2回、診療を終えたクリニックの夜の時間帯に開いています。この時間に育ち盛りの子が夕飯を食べずに勉強するのは心が痛みます。そこでクリニックの調理師に30~40人分ほどの夕食を仕込んでもらい、100円で出しています。
高校2年生のローガン来良さんも、部活を終えてから自習室に通う一人です。「自宅はテレビや漫画など誘惑が多いけど、ここは静かで勉強がはかどる。夕食もおいしくボリュームがあり、デザートまであってうれしい」と話してくれます。国公立大学への進学を目指しながら、集中して勉強に励む姿が頼もしいです。
中には、ずっとおしゃべりしていたり、勉強はせずに食事だけ食べて帰る子もいますが、それでも来てくれたことがうれしい。集中して3時間勉強する同年代の姿を見て、自分にスイッチが入る子もいる。押しつけじゃなくて、本人が自分で気付くことが一番大事だと思っています。
医学部の学生はボランティアで来てくれます。立山悠さんは小児科医を目指す5年生。自習室では中高生に勉強を教えるというより話すことが多く、「コミュニケーション力が磨かれている」と感じるようです。また、食事をしながら交流すると緊張がほぐれ、相談もしやすくなります。「『学習以外の支援がある』ことも魅力で、卒業まで続けたい」と話してくれていて、とても心強く思っています。
コロナ禍には席を分散させ、配食スタイルに切り替えるなど工夫をしながら続けてきました。続けることで、職員にも患者さんにも、地域の人にも信頼してもらえる。やめないことが、一番のメッセージになると感じています。
若者に未来を 広がる共感と支援
自習室を始めて7年。中学3年から通い続け、大阪の大学の教育学部に進んだ男の子が、夏休みで帰省するたび、後輩たちへ勉強を教えに来てくれるんです。「卒業したら教えに来ます」という約束をちゃんと守ってくれて。想定外の波紋をとてもうれしく思います。
運営を手伝ってくれるスタッフや友人、ボランティアの学生のほかにも支援の輪が広がっています。産業保健でお付き合いのある企業が毎月、野菜を届けてくださったり、ほかの企業や団体、患者さんやロータリークラブの皆さんからも寄付や食材が届くようになったり。思いが伝われば、協力してくれると実感しています。
将来は、休日のクリニックの駐車場にキッチンカーを呼び、地域の人がくつろげる場所も作れたらと考えています。町を歩いたり、祭りに出掛けたりすると、いろんなヒントを見つけます。やるのは簡単だけど続けることは難しい。自習室もたくさんの人の力を借りて続けています。
夜のクリニックの窓から漏れる「自習室」の明かりが、勉強したい子どもたちの希望の明かりになればと願っています。今後もその明かりをともし続けていきたい。そして、誰もがここにいていいと思える、そんな地域づくりにつなげていきたいです。
働く人の健康支え

田名さん(手前右)を囲む同僚たち。管理栄養士、調理師、産業保健師、重症化予防看護師がいる
田名さんは以前、県内エネルギー会社で14年間、産業保健師として社員約1600人の健康管理支援に携わってきた経験を持つ。
現在は、首里城下町クリニック内の「働く人健康支援室」を拠点に、院長が産業医を担う13社の保健指導や相談業務を受託するほか、数社の健康管理支援を行う。院内の「町の保健室」で外来患者や地域の人の健康相談にも対応。「沖縄県は働き盛り世代の健康に課題があり、早世予防や肥満対策が重点的な取り組み事項となっている。それに関わる産業保健の役割は非常に大きい」と田名さん。「個々の事情に寄り添い、本人だけでなくその家族や生活全体を見つめた支援が必要」と語る。
クリニックでは管理栄養士と連携し、高血圧や肥満など毎月テーマを決めた料理教室を開催。食材の選び方や料理の工夫、弁当購入時や外食時のメニューの選び方のポイントなど「目で見て、食べて、学べる場」を提供している。
プロフィル

たな・さいこ
1964年、那覇市出身。琉大付属病院、県内エネルギー会社をへて2006年、夫が営む「首里城下町クリニック」(01年開業)へ。「働く人健康支援室」「町の保健室」を設置し、産業保健師として人々の健康支援に携わる。19年、夜のクリニックを開放し、中高生を対象とした「町の自習室」を開く。

2007年9月20日号に掲載
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毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」彩職賢美リターンズ〈36〉
第2019号(2026年4月23日発行)より転載
