“当たり前”にある幸せ|ドクトルきよしのダイアローグ

精神科医の長田清さんが、人生を豊かにする心の持ち方や、職場や親子の人間関係などについてつづります。(文/長田清 長田クリニック院長)

「おかげ」に気づくとき

ものごとがうまくいかない時、私たちは「ひとりぼっち」の孤独感や不安を感じます。逆にうまくいっているときは「自分の力だけで生きていける」と傲慢(ごうまん)な有能感を抱くこともあります。

しかし、人は決して1人では生きられません。実は数多くの見えない「おかげ」に支えられているのです。食卓に並ぶ食事一つをとっても、生産者、物流、販売店、そして調理してくれる家族など、多くの人の手を経ています。当たり前だと思って口に運んでいるものも、手に入らなくなって初めてありがたさに気づきます。

親についても同様で、「孝行をしたいときには親は無し」という川柳の通りです。

あなたの大切な人は

反抗期で母親に反発し、友人宅を泊まり歩いていた中学2年生の女子生徒がいました。リストカットが見つかり、母親に連れられて来院。ひとしきり話を聞いた後、「あなたにとって大切な人は」と尋ねると、友だちの名前が3人出てきました。

「他に大切な人は」と続けると、しばらく間を置いて「…お母さん」と答えました。「それはどうして」「お母さんはいつも一番心配してくれる…」。母の小言やおせっかいがうるさくて家を飛び出していたのに、今になってようやくそのありがたさに気づいたのです。お母さんの目に涙がキラリ。

自分を支える人や環境の存在に気づき、その恩恵を実感したとき、心は開かれ、幸福感と強い信頼関係がもたらされます。そうして家族や周囲とのつながりを実感すると、幸せホルモン(セロトニン)が分泌されるのです。だからこそ普段から「何か感謝できることはないか」と自ら問いかけ、周囲に目を向けることが大切です。

今の幸せに目を向け

私たちは不足しているものに目を向けがちです。すると不満がいっぱい湧いて来て、不幸の種となります。しかし、すでに「与えられているもの」へ意識を切り替えた瞬間、心に柔らかな余裕が生まれます。「今日も朝食をおいしく食べられた」「雨が上がって良かった」「家族が無事に帰ってきた」…。そんな日常の足元にある無数の「おかげ」を一つひとつ拾い集めること。それこそが、今ある幸せに気づく最もシンプルで確実な方法なのです。

最後に良寛さん(越後の清貧の禅僧)の俳句を紹介します。泥棒に入られた後に詠んだ句です。

「盗人(ぬすびと)に取り残されし窓の月」(盗人は、一番美しいお月様を取り残してくれた、ああうれしい)。

次回は「内観」について。人間関係を通して具体的に「おかげ」を見てみます。

読者の感想

◆親の務めは「問題」ではなくて「達成したいスキル」に焦点をあてること。ほんの小さな「うまくいっていること」に注目すること。子どもの気になる点は、裏を返せば「これから大きくのびる余地」という言葉が胸にストンと落ちました。「親」という字は「木の上に立って見る」から成り立っているように子どもの可能性を信じて見守っていきたいです。(BELIEVE・61歳)

ドクトル「子育てに悩む親が多い中、なぜ祖父母は孫と幸福な関係を築けるのか。違いは『目線の高さ』です。親は成功を期待するあまり、上から見下ろして間違いを正そうとします。一方、祖父母は孫の目線に立ち、良い所だけを見ては共に喜びます。教育的な親の視点と、肯定的な祖父母の視点。足して二で割るバランスが大切」

◆高校生の娘にも読ませて一緒に感想を話し合っています。初めて娘と対話でき、娘の成長も実感できてよかったです。(ヒロ・50歳)

ドクトル「普段は黙っていても、子どももそれぞれ意見を持っています。お互いの考えを知り、そして尊重する。安全な関係を築いてください」

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執筆者プロフィル

ながた・きよし 2001年に那覇市で長田クリニック(精神科)を開院。心理療法の活動に軸を置く。沖縄いのちの電話理事長。おきなわCAP代表。沖縄エッセイスト・クラブ会長。著書「ドクトルきよしの大ピンチ」ほか多数


毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」ドクトルきよしのダイヤローグ(4)
第2032号(2026年7月23日発行)より転載