精神科医の長田清さんが、人生を豊かにする心の持ち方や、職場や親子の人間関係についてなどをテーマにつづります。(文/長田清 長田クリニック院長)
小さな希望の明かり
前回のコラムの最後で、「しっかり希望を意識することが大事ですよ」と書きました。夢や希望は、人が生きていくための大切な原動力だからです。しかし人生には、時に心が折れ、疲れ果てて「もう何もかも失った」と立ち尽くす瞬間があります。この、生きる道しるべが見えなくなった状態を、私たちは「絶望」と呼びます。私自身も、過去に幾度となく失敗や挫折を経験し、そのたびにこの暗闇を味わってきました。
でも、少しだけ立ち止まって考えてみてください。実は、人が完全に希望を失うことはありません。私は、希望には二つの種類があると考えています。一つは、夢や目標といった、未来に向かって高く掲げる「大きな希望」。そしてもう一つは、私たちが生きていくために不可欠な、体の奥底にある「小さな希望」です。
私たちには、生まれ持った「生存本能」があります。眠りたい、食べたい、喉(のど)を潤(うるお)したいといった切実な欲求は、すべて「生きたい」という本能が発するメッセージです。これが、私が呼ぶところの「小さな希望」です。私たちが持つ五感もそうです。生き延びるために周囲の危険を察知するセンサーであり、同時に周りと喜びを分かち合うコミュニケーションツールとして備わっています。
絶望の状態は、しばしば「明かりを失った夜の闇」に例えられます。真っ暗な闇の中では、誰でも不安や恐怖に襲われ、呼吸は浅くなり、心拍数も上がります。しかし、ここからが人間の不思議な力です。暗闇に長くいると、網膜の光センサーは感度を増し、ほんのわずかな光さえ捉(とら)えられるようになります。同じように絶望の淵にいるときほど、実は「小さな希望」に敏感になれるのです。
「少し呼吸が楽になった」「水がおいしい」「温かいシャワーを浴びたい」。そんな、ささやかな欲求がわいてくること自体が、あなたの内側で「小さな希望」の明かりが再びともり始めた証拠です。自分の呼吸や脈拍、筋肉の張りに意識を向け、今の状態をそのまま受け入れてリラックスすることを「マインドフルネス」と言います。特別なことではなく、自分の命が懸命に刻んでいるリズムに耳を傾けること、それが「しっかり生きる」ということに他なりません。
明けない夜はありません。暗闇は悩みを深くしますが、同時にあなたの感受性を研ぎ澄ませてくれます。自分を支えてくれている「小さな希望」を意識してみてください。「少し眠れた」「少し食べられた」。そんな当たり前の日常に宿(やど)る喜びこそが、あなたを癒やし、再び前へ進める力を与えてくれるのです。だから、大丈夫ですよ。

読者の感想
◆新学期、子供たちも新しい環境に慣れない中、イライラ、ダラダラしている様子が度々見られ、怒ってしまう時がありますが。前回の記事の「タイムアウト」を意識して、親子ともども行き詰まったら怒るのではなくて、近くのコンビニまで散歩しながらアイスを買いに行くとか? その場を離れて、気分転換してみようと思いました。(こまこま・51歳)
ドクトル「自分の感情に振り回されずに、相手の気持ちも理解出来ると対応が変わりますよね。楽しく対応しましょう」
◆前回の「『小さな習慣』迷いを取り除く」という箇所に納得。私自身も朝のルーティンがあると心身が整うと思っていて先生のメッセージが心に刺さりました。4月は、新しいことに慣れるまでにエネルギーを取られ、疲労がたまってくる時期。とてもタイムリーな記事でした。(ママは魔法が使える・61歳)
ドクトル「4月はにぎやかで楽しいけど、疲れるもの。迷いはエネルギーのロス。迷わず悩まず行動できることを増やしましょう」
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執筆者プロフィル

ながた・きよし 2001年に那覇市で長田クリニック(精神科)を開院。心理療法の活動に軸を置く。沖縄いのちの電話理事長。おきなわCAP代表。沖縄エッセイスト・クラブ会長。著書「ドクトルきよしの大ピンチ」ほか多数
毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」ドクトルきよしのダイヤローグ(2)
第2024号(2026年5月28日発行)より転載