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2024年10月10日更新

行政書士いっこオフィスの代表 小林郁子さん|経済の壁超え若者の夢応援[彩職賢美]

23年間の市役所勤めを退職し、夢をかなえるためにステップアップし、昨年4月、行政書士として独立した小林郁子さん。相続、遺言、農地の手続き、IT開発系の補助事業に関する業務などを行いながら、「若者が経済的な理由で未来を諦めなくていい、そんな社会をつくりたい」と仕事に取り組んでいる。

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自身の経験を原動力に社会変革

行政書士いっこオフィス 代表
小林 郁子さん


遺言書作成や遺贈寄付文化醸成にDXで挑戦


「あの時の自分を助けたい。同じ状況にいる子どもたち、若者を助けたいという思いが、私の原動力になっています」。困難を乗り越えてきた強さと、社会を変えたいという熱意がその眼差しに宿る。

行政書士の小林郁子さん(54)は、中学生のころ両親が離婚し、宮古島で母親の苦労を見ながら育った。勉強もスポーツも成績は良かったが、バスケットや陸上で県大会に派遣が決まると、その渡航費用の負担が重くのしかかった。

「母親に申し訳なくて、自分が頑張ったら親に負担を掛けると罪悪感を持つようになったんです」。そのうち、応援してくれる母親の思いを理解しつつも「自分にふたをする」ようになり、大学進学も諦めた。現在は、さまざまな奨学金や派遣費用の助成制度もあるが、「財源不足のため必要な額の補助ができていない」と指摘。「経済的な理由で未来を諦める若者をなくす」ため、補助金に頼らない、若者を支援する仕組みづくりに取り組んでいる。
 

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小林さんは卒業後、上京し19歳で結婚、3児を授かった。しかし県外生活で子どもたちのぜんそく症状が悪化。宮古島の空気のきれいな環境で育てたいと、3人の子を連れ、島に戻った。後に、離婚。シングルマザーで子育てと生活を両立するのは簡単ではなかったが、懸命に努力を重ね、公務員試験に合格。現在の宮古島市役所に23年間勤務した。その中で特に印象に残っているのが、児童家庭課での経験だ。

「昔、自分が必要としていた支援はこれだったんだと思いました。その支援と必要な人をつなげたいと、周知や仕組みづくりに力を注ぎました。すごく忙しくて大変な部署でしたが、私はそれ以上に充実感に浸っていました」。この経験が人生の転機となった。

「それまでネガティブに捉えていた自分の人生が、社会に貢献するうえで貴重な財産、必要な体験だったんだと気付いたんです。そのときから、私がやることはこれなんだって思うようになりました」

50歳を機に、小林さんは大きな決断をする。長年勤めた市役所を退職。NPOや財団法人勤務を経て、昨年、行政書士事務所を設立。遺言書作成、認知症対策、事業継承、終活などの支援を行う。誰もが気軽に遺言書を作成できる仕組みづくりにも力を注いでおり、それらを通して遺言書を書く文化を醸成し、相続による家庭内トラブルを防ぐとともに、「相続人のいない遺産を社会に役立てる仕組みをつくりたい」と熱く語る。

小林さんは、土地など相続人のない遺産として国庫に帰属する事例が年々増えていると指摘。そうなる前に、遺言書で希望する人に遺せる「遺贈寄付」を財源にした若者を支援する社会システムの実現を目指す。本格的な仕組みづくりはこれからだが「たくさんの出会いや協力を得て、少しずつ前進しています」と笑顔を見せる。自身の経験を糧に、社会をより良くしようとする彼女の姿勢は多くの人々の心を動かしている。

「困難な経験もいつか自分や誰かの人生を豊かにする財産になり得る。今、つらい思いをしている人がいたら、そう思ってのり越えてほしい」。そのメッセージは小林さんが自らの人生から学び得たものだ。

個人の努力だけでは解決できない社会課題に、テクノロジーも活用してアプローチしようとする新しい形の社会貢献に取り組む小林さん。その歩みは、私たち一人一人が持つ経験や思いが、よりよい社会づくりになる可能性を示している。

「所得格差が教育格差とならない社会を実現したい」と力強く語る小林さんの今後に目が離せない。
 

 セミナーで相続対策のポイントを指導 

宜野湾市商工会女性部で行なった「終活セミナー・今日から始まる幸せの連鎖」の様子


行政書士として、遺言書作成、認知症対策、事業継承、終活などさまざまな支援を行っている小林さん。「令和3年の司法統計年報によると、全国で相続トラブルに関し裁判にまでなった割合は、5000万円以下で42%。1000万円以下で32%と、遺産の大きい小さいは関係ありません。裁判になった主な要因は相続対策をしていないこと。対策は1日でも若いうちに始めた方がいい」と語る。
 


小林さんは、遺言書のほか、資産に関する情報や思いを記す「安心ノート」の作成を勧め、その方法や書き方について、セミナーを開き、終活の大切さを伝えている。

 社会課題解決にDXを活用 
小林さんは、沖縄の学童保育の課題解決にDXを活用した先駆者でもある。2021年に「沖縄のIT・サービス産業界におけるDX推進人材育成プログラム」を受講。その学びを生かして、自身で製作した職員配置管理エクセルアプリの活用を推進。県内全域の学童クラブへ情報を発信。希望者に無償で提供した。

このアプリにより、補助金の適正利用や事務作業の効率化を実現。これが学童クラブの運営改善につながり、さらにIT企業と連携したシステム開発へと発展している。「デジタルの活用で、職員の負担が軽減し職場環境が改善すると、心にゆとりが生まれ、子どもたちの心の安定にもつながる」と小林さん。

今年度も再びDX研修を受講し、学びを深めており=下写真、遺言書作成や遺贈寄付の文化を醸成するためのデジタル活用を進め、社会課題解決におけるDXの可能性を追求し続けている。
 

DX人材養成講座2024で発表する小林さん




プロフィル/こばやし・いくこ
1970年、沖縄市で生まれ、3歳で宜野湾、10歳で宮古島に移住。高校卒業後、上京し、19歳で結婚。3人の子に恵まれるが、ぜんそくを患う子どもたちの健康を考え、宮古島に戻る。その後、離婚。平良市役所(現、宮古島市役所)の採用試験に合格し、23年間勤める。退職後、NPO法人沖縄県学童保育支援センター、(一財)沖縄ITイノベーション戦略センターを経て、昨年4月、行政書士いっこオフィスを創業。趣味はズンバダンス。

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撮影/比嘉秀明 取材/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1439>
第1940号 2024年10月10日掲載

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