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新城和博

2025年1月23日更新

失敗ラフテー、失敗ターム|新城和博さんのコラム

ごく私的な歳時記Vol.123|首里に引っ越して30年ほど。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、季節の出来事や街で出会った興味深い話題をつづります。

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味がしなかったのだ。新年早々どうして……。

下ゆでは悪くなかった、と思う。年末になるといつも通っている市場の肉屋さんに、今回は予約してはいなかったが、それなりの三枚肉は選べた。下ゆではもちろん時間をかけて、皮を表にしてぐつぐつ、そしてひっくり返してぐつぐつ。いつもの手順。

ぐすぐずしている暇はない、あとすこしで年がかわる。

大掃除は一日前にすませ、このトゥシヌユールーは、ゆっくり正月の料理を、妻、娘、それぞれ好きな一品、二品を分担してこしらえる。だいたいそのようにして過ごしてきたから、ラフテーもいつものように出来るものだと、油断した。いつものようにと思ったとき忍び寄る影に誰も気づかない。

ゆでただけの段階ではシシ(豚肉)は美味しかった。すこし塩をかけて、千切れたシシのかけらをつまんだのだが、軟らかくてそのまま酒のつまみでもいいくらい。

肝心の煮込むときの味付けが問題だった。泡盛、醤油、黒砂糖は適量だった(はず)。問題はカツオの出汁だ。つい慎重になり過ぎて、いつもより多めにたっぷりと入れてしまったのだ。カツオ出汁なんて、あればあるほどいいじゃないと思っていた節がある。失敗にいたる布石は振り返ればたくさんある。とにかく多めのカツオ出汁によって、全体的に薄味になっていたのだ。色味は良い感じだったし、味もなめる分にはよかったのにだ。料理は見た目で判断しちゃだめだった。何も染みこんじゃいなかった。

元日の朝、他の正月料理はとても美味しかったのだが、ラフテーは味がなかった。まるで今年の自分の運勢のようななにかが、心の中でちーんと音がした。



正月三日目、まだ料理していなかったターム(田芋、ターンムとも)をどうしようかと思い、久々に軽く油でちゃらみかして、醤油と砂糖でからめてみた。甘辛くしないと美味しくないから、そのあんばいが肝心。

そうしたら……今度はもの凄く味が濃いタームのかけらになってしまった。

なせだ! 続く負の連鎖。

前にこしらえていたときは、薄く切って、すばやく砂糖醤油にからめて、さくっと美味しく出来たのに。今回はなぜか、ほんの気持ち厚めの短冊形にしてしまった。

砂糖醤油に絡めるときに、しっかり味を付けようと思い手間取っているうちに、しっかりと醤油が染みこんでしまっていた。年越しの悪夢のラフテーを引きずってしまったのだ。一口、二口が限度であった。なんて新年だ! 失敗していると家人に自己申告する。

またなにしてるのよ、という顔つきだった妻が、ふとつぶやいた。

「あの味のないラフテーと一緒に食べたら」
 まだ未練がましく残していたラフテーに真っ黒な黒糖のようなタームのかけらを添えて食べてみた。

すると……美味しかったのだ。

失敗と失敗を足すと美味しくなったのだ。こんなことってあるんだ。はじめてかもしれない。数年前のぼくに教えてあげたい。

こういうことはねらってできるもんじゃないだろうが、失敗と失敗を足すと成功することもあることだけは、とりあえず今度の旧正月までは憶えておこう。

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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