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沖縄県の職員として30年福祉に携わってきた山内優子さん(79)が、「おきなわ子ども未来ネットワーク」を立ち上げたのは70歳の時だ。現場での経験から「支援から最も取り残されているのが若いシングルマザー」と、そのサポートに奔走してきた。相談窓口「にんしんSOSおきなわ」や、若い母親の運転免許の取得と自立を支援する施設を立ち上げて県の事業へ。根底にあるのは「すべての子どもと母親に幸せになってほしい」という強い思いだ。(編集部/栄野川里奈子、撮影/比嘉秀明)
(一社)おきなわ子ども未来ネットワーク 代表理事の山内優子さん(79)

70歳からの挑戦 若い母子の力に
2015年、県内の団地の敷地内で、生後間もない赤ちゃんの置き去りが報道されました。「中3逮捕」という新聞の見出しに、私は強い衝撃を受けました。「彼女は逮捕ではなく、保護されるべきではなかったのか。責めるべきは、彼女を助けられなかった周囲の大人なのではないか」と。
1980年代から児童相談所で勤務し、多くの虐待の現場を見てきました。当初私は子育て真っ最中で、「なぜわが子を」と想像もできませんでした。ただ、その後県内で初めて虐待の事例を調査し、背景に貧困があると知りました。沖縄の子どもの貧困率の高さは、沖縄戦や米軍統治下の影響で子どもを守る法律や施設の整備が本土より遅れたことが関係しています。虐待も貧困も連鎖していて、親自身も過酷な状況にいることが多々ありました。
今も忘れられない親子がいます。放火をした6歳の男の子と、その母親です。
男の子は母親からひどい虐待を受けていました。母親は中学3年生で出産。学校からも親からも拒絶され、「誰の力も借りず育ててみせる」と、1人で夜の仕事をしながら子育てをしていました。母親も本来、サポートが必要な子どもだったのです。
幸い、男の子の火遊びは止まり、私は児童相談所を離れました。ところがその後、彼が少年院に行ったと聞きました。彼を救うことはできなかった。当時、県外には未婚の母のための施設がありました。沖縄にそうした施設があれば、と強く思いました。
福祉に携わり30年 現場の実感を形へ
2018年に、おきなわ子ども未来ネットワークを設立しました。県の職員として働いていたころは現場の問題を洗い出し、母子寮や児童館の設立を訴えて形にしてもらいました。若いシングルマザーのための施設も長年訴えたのですが、かなわなかった。ならば自分で作ろうと決めたのです。
彩職賢美に掲載されたのは、法人を設立する1年半前。「紙面に恥じないように頑張ろう」と、前に進む力になりました。
団体を設立し、最初に取り組んだのは、LINEの妊娠相談窓口「にんしんSOSおきなわ」です。「産まれる前から支援が必要」と、妊娠検査薬を無料で配布。必要な時は、産婦人科の受診に付き添います。友人・知人に付き添いのボランティアを依頼し、離島を含む県内全域でスタートしました。同時に、産んでも育てられない時に特別養子縁組をあっせんする「おきなわ子どもみらいポケット」を立ち上げました。養子になった子が幸せそうに暮らしているのを見ると、活動を続けてきてよかったと思います。
LINEでの相談件数は23~25年度で約4千件、そのうち病院への同行は93件。支援を通して産んで育てる女性が多いことが分かりました。一方で出産や生活の場にすら困窮する厳しい現実に直面し、21年に出産・生活支援の施設を立ち上げました。
◆「沖縄県若年にんしんSOS」のLINE友だち登録は、こちら
これまでの人生で最も苦しかったのは施設ができて2年目、コロナ禍でした。資金繰りが厳しくなり事業の継続も危ぶまれていた時、小さな男の子の手を引いた若い妊婦さんが「行き場がない」と駆け込んできたのです。目の前が真っ暗になりました。けれど、どんな状況でも支援は待ったなし。「誰一人取り残さない」と神に祈りながら、金策に駆け回りました。妊婦さんは施設で無事に出産。行政へ何度も陳情を重ね、翌年に県の事業となりました。
人生初の資格が、未来を拓くカギに
22年、県の「子ども未来応援助成事業」200万円で、若いシングルマザーの運転免許取得の全額支援を始めました。初回、6人の募集に80人以上の応募があり、切実な声が多く寄せられました。免許を取った女性はキラキラした顔で「人生で初めての資格」と喜ぶんですよ。就労、新生活など次のステップへ進む女性も多いです。これまでに21人が免許を取得しました。
一方で、やる気はあっても周囲の問題に巻き込まれて免許が取れない女性もいます。そこで24年に休眠預金事業を活用して、運転免許の取得を目指しつつ生活や就労を支援する施設を設立し、2年間で9人を受け入れました。今年、県の事業となり受託しました。
入所者は半年、運転免許取得に向かって仲間と共に学び就労を目指します。若い母親にとっては毎日の自炊が大きなハードルになるため、温かい食事を提供し不安なく学べる環境を作りました。これまでに免許を取得し通信制の高校に通い始めた女性や、保育助手になった女性がいます。運転免許は、未来を拓くカギになるのです。
スタッフの言葉「道がなければ作ればいい」が活動の根っこにあります。どんな環境にあっても、すべての子ども、母親が幸せになってほしい。13人のスタッフと一緒にサポートをしていきます。
寄付が支える「子と母の未来」
「おきなわ子ども未来ネットワーク」の活動を支える大きな柱が、県内外から寄せられる寄付金だ。
団体の設立時、山内さんが県の職員時代に設立に関わった「源河朝明記念那覇市社会福祉基金」の助成金を受託=写真、さらにその関係者から、200万円の寄付が届いた。

若年妊婦シェルターの資金繰りが厳しくなった際は、クラウドファンディングで資金を集め、活動を継続できた。
「資金繰りに困ると、不思議と温かい救いの手が寄せられてきました。皆様からいただいた『生きたお金』があるからこそ、一人ひとりに寄り添うことができます」と感謝する。
同ネットワークは活動を持続させるための寄付を受け付けていて、寄付金は若い母親の免許取得の費用に使われる。公式ウェブサイトからクレジットカードで手軽に寄付ができ、沖縄の子どもと母親の未来をサポートできる。
問い合わせ
おきなわ子ども未来ネットワーク
電話 098(989)7301
プロフィル

やまうち・ゆうこ
1947年石垣市生まれ。琉球大学教育学部心理学科を卒業後、県職員に。児童相談所など福祉の現場で30年勤務。2008年に退職後、沖縄大学で児童福祉論を担当。18年おきなわ子ども未来ネットワークを立ち上げる

2016年8月25日号に掲載
毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」彩職賢美リターンズ〈37〉
第2035号(2026年8月13日発行)より転載