読了時間 約4分
家族の健康が気がかりな「ほーむさん」が専門のドクターを訪ね、気になる病気について聞くこのコーナー。今回も高齢者に増加している乳がんにスポットを当て、ハートライフ病院乳腺外科センター長の柏葉匡寛先生に話を聞きます。(取材/堀基子・ライター)
決め手は術前療法+補助療法/新薬の登場で再発率が低下
Q1 転移再発の原因となる微小転移とは?
乳がんだけではなく、他のがんもそうですが、手術でがんのしこりを切除してしまえば大丈夫とは断言できません。たんぽぽの種が風にのって飛散するように、わずかに体の中にがんが潜んでいると考えられ、それを転移再発の原因となる微小転移といいます。その広がりや性格を顕微鏡での病理診断の結果や遺伝子検査で想定し、再発リスクに合わせた術後薬物療法で再発を減らします。手術が成功しても薬物療法が必要な理由がそこにあります。
Q2 術前化学療法後の治療は?
近年の乳がん治療では、術前薬物療法を行うことで、治療成績が大きく向上しています。例えば進行HER2陽性の乳がんの場合、10年後の再発率を予想すると、手術だけの場合は約80%と高く、術前薬物療法を行ってから切除した乳腺にがん(遺残がん)が残っていない場合は約10%まで低下します。残念ながら乳腺にがんが残っている場合は約40%と予想されますが、術後にもう一つ薬剤を追加すると約10~20%まで再発率を下げることができます。
術前化学療法後の遺残がんの有無によって、目に見えない微小転移まで含めた治療効果を予測し、がん細胞に直接抗がん剤を届けるカドサイラやエンハーツのようなADC(抗体薬剤結合体)という新薬を追加することにより、理想的な治療が標準化されました。
最新治療で改善する10年後の再発率
続々と新たな治療法が登場している乳がん。進行HER2陽性タイプの場合、10年後の推定再発率は、手術だけの場合は約80%ですが、術前薬物療法を行って切除した乳腺に遺残がんがない場合は約10%に下がります。遺残がんがあった場合は40%ですが、T-DM1(抗体薬物複合体:抗チュブリン系)を術後に投与すれば20%、がん細胞に直接届くT-Dxd(抗体薬物複合体:SN38系)を術後に投与すれば10%まで低下します。
進行HER2陽性の乳がんの推定10年再発率

Q3 高齢者が注意すべきことは?
医学の進歩により、乳がんの再発率や死亡率は年々下がっており、手術でも乳房温存率が高くなってきています。ただし、高齢者の場合、たとえ同じ年齢だったとしても、これらの治療に耐えられる体力があるかどうかは個人差が非常に大きく、一概に年齢だけで治療法を決めることはできません。一般に言われるように「高齢だから、がんの増殖や進行が緩やかでおとなしい」という訳ではないことも多く、有効かつ高齢者に優しい標準治療はそれほど多くありません。
また、退職後に職場での乳がん検診を受ける機会がなくなってから受けていない方が多く、早期発見できずに進行してから見つかるケースも多いのが現状の問題点です。
60代から80代の乳がん患者が全国よりも特に多い沖縄で心掛けて欲しいのは、「年を取ったら乳がんにはならない」という都市伝説を信じず、60代以降も乳がん検診を受け続けること。乳がんの危険因子となる肥満にならないこと。バストにしこりや違和感を見つけたら検診ではなく早めに乳腺外来を受診すること。そして、万が一の乳がんに備えて「治療に耐えうる体力」を日常の運動習慣で蓄えておくことです。これらは乳がんに限らず、他のがんや生活習慣病にも当てはまることなので、ぜひ覚えておいていただけたらと思います。
教えてくれた人

かしわば まさひろ/ハートライフ病院乳腺外科センター長
医師、医学博士。日本乳癌学会指導医。日本乳癌学会ガイドライン(薬物療法)作成委員や乳がん研究団体JBCRG理事を歴任。抗がん剤の開発治験や標準治療の確立に携わる。モットーは「世界的な標準治療を安全かつ高いレベルで提供する」。ベストドクターズ2026-2027。
お問い合わせ
社会医療法人かりゆし会 ハートライフ病院
沖縄県中城村字伊集208
電話 098(895)3255
毎週木曜日発行「週刊ほ〜むぷらざ」身近な病気もっと知ろう 家族の医学手帳(146)
第2039号(2026年9月10日発行)から転載