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2024年12月12日更新

(株)石川酒造場 執行役員 製造部長 マスターブレンダー 石川 由美子さん|泡盛を育てる 情熱は世界へ[彩職賢美]

農学を学んだ石川由美子さんは、泡盛メーカーで独自のブレンド技術を確立し、古酒の魅力を追求しながら品質向上と業界発展に貢献してきた。男性中心の職場で地道な努力を重ね、県知事賞を受賞。泡盛など日本の伝統的酒造りがユネスコ文化遺産に登録されたのを受け、「泡盛の歴史と文化を国内外に発信し、新たな価値創出に挑みたい」と意気込む。

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古酒の深みと文化が泡盛の魅力

(株)石川酒造場 執行役員 製造部長
 マスターブレンダー

石川 由美子さん

一つ一つに個性 味わいの進化を追求

薄暗い醸造室に、赤と紫の布がかかった甕(かめ)がずらりと並んでいる。ある甕の酒をグラスに注ぎ、その香りを深く吸い込む石川由美子さん(48)。全身を集中させている様子に静かな緊張感が漂う。

石川さんは、琉球大学農学部を卒業後、沖縄の特色ある食品に興味を持ち、泡盛メーカーに飛び込んだ。女性の少ない男社会だったが、特に気にせず挑戦を始めた。入社当時を「会社はまだ小規模で、商品へのこだわりや品質向上への取り組みが少なかった」と振り返る。品質管理の担当者として、泡盛の味や品質を独自に改善する道を模索し、データ収集や作業の改善など提案を重ね、地道な努力を続ける中で、泡盛の味の変化や要因に気づくようになり、ブレンダーとしての道を歩み始めた。

石川さんは味の安定化を目指し、独自のブレンド技術を確立。当初、ブレンドという手法は消費者からの評価が低かったが、やがて商品の価値を高めるための重要な技術として認知されるようになった。石川さんは、数値化したデータや自身の経験をもとに品質の向上に取り組み、泡盛鑑評会でブレンダーオブザイヤーを受賞。業界内外で高く評価される存在となった。
 


泡盛の魅力について、石川さんは古酒の存在を挙げる。「寝かせることで味が深まり、香りが豊かになる。泡盛特有の特徴が多くの消費者を引きつけている」と語る。長期熟成を経た泡盛は特別な香りを放つ。「泡盛は5年で少し尖(とが)りが残る中堅社員、10年でバランスの取れた円熟味を感じる部長、15年で貫禄のある社長、そして30年経つと穏やかなおじいちゃんになるんです」と、熟成状態をユニークに例える。醸造室に並んだ泡盛の甕一つ一つを深く理解し、大切にしている様子が伝わる。
 

          


石川さんは製造部長として、「コミュニケーションを大切にし、現場の知識や技術を尊重しながら、適切な指示や判断をして信頼関係を築きたい」と話す。特に、後輩の女性ブレンダー育成では、マニュアルではなく、自ら表現したい泡盛が作れるよう、感性を重視した指導を心がけている。

本年度からは執行役員として新たな挑戦も始まり、経営知識の習得や売り上げ目標の設定など、現場とは異なる役割を担う。それでも、ブレンダーとして自らの感性や技術を生かす時間が最も充実していると感じており、その情熱は今も変わらない。

今年、泡盛鑑評会で県知事賞を受賞した泡盛の原酒は、以前、香りに問題があると判断し、石川さんがブレンドし2~3年寝かせたことで見事に復活したものだった。「あきらめかけた子どもが立派に成長したような気分」と目を細める。泡盛を育てる過程そのものに、彼女の情熱と深い愛情が感じられる。

12月5日、泡盛など日本の伝統的酒造りがユネスコ文化遺産に登録された。これを機に、国内外で泡盛の認知度が向上することを期待している石川さん。「泡盛の歴史や文化を伝えることで、新たな消費者層が興味を持つきっかけになる」と語る。

石川酒造場では琉球大学などと連携し、科学的なデータを基にした古酒化の研究を進めている。成果は業界全体で共有し、泡盛の発展に寄与したいと考えている。石川さんは「自社だけでなく、業界全体で連携を深めるべきだ。他メーカーとの情報交換や協力を進める中で、泡盛全体の品質向上に貢献したい」との思いが強い。

今後も泡盛の品質向上と業界の発展に向け挑戦を続ける石川さん。その姿勢は、泡盛を愛する多くの人々に希望を与えている。
 

 泡盛の魅力を発信 


写真は石川さん提供

9月4日の「クースの日」には、泡盛ブレンドセミナーを開催するなど泡盛の魅力を発信することにも力を注ぐ石川さん。昨年行われたブレンドセミナー=写真=では、バーなど飲食店を経営する人や、一般人が参加し、石川さんの指導のもと、ブレンド体験を行った。「産業まつりなどでブースに立っていると、セミナーを受講した方から声を掛けられることもあるんです。記憶に残っていることがうれしい。もっと泡盛ファンを増やしたい」と石川さん。セミナーは好評で、県外からの開催依頼もあると話す。

 第1回「ブレンダーオブザイヤー」受賞 


写真は石川さん提供

ブレンド作業の様子。11月1日の「泡盛の日」の「泡盛鑑評会」で、同社は2013年から24年まで12年連続で県知事賞などを受賞。2020年に石川さんが「第1回ブレンダーオブザイヤー」を受賞した。同社は県内で唯一の甕仕込み、甕貯蔵を現在でも行っており、甕一つ一つの個性を知り尽くした石川さんのブレンド技術が高い評価を受けた。「原酒の味わい、風味、香りなどを総合的に整えるのがブレンド。甘いものと香りのいいものを混ぜればいいお酒になるとは限らず、ちょっと癖のあるものを入れるとアクセントになり深みが出たりする。それが醍醐味」と語る。次世代継承のため、10年後、30年後に向けた原酒作りにも余念がない。

■石川酒造場 電話=098-945-3515

 

 趣味の手芸で衣装を手作り 

写真は石川さん提供

「趣味は手芸。新体操をやっている娘の衣装を手作りしています」と話す石川さん。スパンコールなどは全て手縫い。気の遠くなるような作業も「娘のためなら楽しい」と笑顔を見せる。

他にも「普段は泡盛よりビールが好き」と意外な一面も。「泡盛を飲むと、ついつい味や香りを評価する癖が付いていて、リラックスできない。職業病ですね」と笑う。



プロフィル/いしかわ・ゆみこ
1976年、沖縄市出身。琉球大学農学部生物資源科学科卒。2000年、(株)石川酒造場入社。酒質の調整を行うブレンダー業務や、泡盛やもろみ酢など製品の品質管理業務、商品開発業務、製造管理業務に携わる。20年、泡盛鑑評会にて第1回ブレンダーオブザイヤー受賞。22年、同社製造部長。24年、執行役員製造部長就任。プライベートでは、高校生と中学生の子を持つお母さん。

↓下の画像をクリックして「石川酒造所」のホームページへ




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撮影/比嘉秀明 取材/赤嶺初美(ライター)
『週刊ほ〜むぷらざ』彩職賢美<1441>
第1949号 2024年12月12日掲載

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