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2019年7月19日更新

世界水準の科学研究をPR|大久保知美さん(沖縄科学技術大学院大学 広報担当)

ヤマトンチュの沖縄ライフ『楽園の暮らし方』<vol.14>
沖縄に移住した人たちの「職」と「住」から見えてくる沖縄暮らしのさまざまな形を紹介します。

大久保知美さん(沖縄科学技術大学院大学 広報担当)


長野県出身の大久保知美さんは、長い海外経験で培った語学力と国際感覚を生かし、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の広報担当として活躍する


日本離れした職場で語学力と国際感覚生かす

今年4月のある朝、大久保知美さんはテレビ画面を見ながら喜びをかみしめていた。流れていたのは全国的な人気を誇る情報番組。そこでクラゲの遺伝子に関する新発見のニュースが紹介された。地道にまいてきた種が花を咲かせた瞬間だった。

「朝の5時台から7時台まで、3度も放映されました。クラゲの遺伝子解析の話が、ですよ。取っつきにくい基礎科学の話なのに大ニュースのように取り上げていただいた。日々の積み重ねが実ってうれしかったです」

7年前、世界最高水準の科学教育・研究機関を目指して恩納村に開学した沖縄科学技術大学院大学(OIST)。大久保さんはその広報部門でメディア担当を務める。仕事内容は多岐にわたるが、中でも重要なのが、世界数十カ国から集まる科学者の研究成果を国内外の新聞やテレビ局に広報して、ニュースなどで取り上げてもらうことだ。


政府の肝いりで恩納村に設立されたOIST。東京ドーム約20個分の敷地に自然林をできるだけ傷つけない形で建てられたキャンパスで、世界50カ国以上の科学者が世界レベルの研究にいそしむ(全景写真は東郷憲志さん撮影、OIST提供)



人間関係の種を育てる

メディアに取り上げてもらうと言っても、これがなかなか難しい。

「『こんな研究成果が出ました』とお伝えしても、よほどおもしろい研究か、お付き合いのある記者さんでないとそう簡単には取り上げてもらえません」

だから普段から記者たちとの人間関係を築いておく必要がある。東京まででも出向いて行って記者に会ってもらう。

「会えば会うほど関係が近くなって、OISTのことを取り上げていただけることも増えると実感しています。人間関係の種が育って花が咲いてくれた時はこの仕事の醍醐味を感じます」

「一生続けたい」という広報の仕事に大久保さんが初めて出合ったのは、20代の頃に勤めた外務省で広報課に配属された時だ。ちょうど「外務省は閉鎖的」と世間の厳しい目が向けられていた時期。大久保さんは、国のために献身的に働く職員の素顔を知ってもらう企画を提案した。

「職員にインタビューをして記事を書き、外務省のホームページに載せましょうと提案したんです。うれしいことに、そのコーナーは今でも続いています」
 

海外生活で多言語を習得

外務省に数年勤めた後は、留学や仕事でフランス、カナダ、中国、台湾で暮らした。仏、英、中の3カ国語を学び、カナダと中国では広告分野で働く経験もし、日本に帰国したのが5年前。実家のある長野に久しぶりに戻ったが、長続きする仕事を見つけられずに悶々(もんもん)とした。

「日本に戻ってから省庁や外資系企業の中途採用に応募したのですがうまく行かなくて、『私の人生、もうダメかも』と悲観的な気持ちになっていました」

そんなある日、ハローワークに出かけた。求人情報検索用のコンピューター端末の前に座り、画面に並んだ検索キーワードの二つにチェックを入れた。一つは「引っ越し可」。もう一つは「外国語」。求人中の企業や組織が画面にずらっと出てきた。

「確か5ページ目だったと思います。私がやりたかったこととあまりにも合致する仕事が目に飛び込んで来たんです。『これだ!』とすぐに応募しました」

それがOISTの仕事だった。


OISTを取り上げた国内外のニュースを朝一番でチェックすることから始まる大久保さんの多忙な一日は慌ただしく過ぎていく。この日は、フランスの映画関係者が沖縄の映画を撮るための下見に訪れたためキャンパスを案内した

 

巡り合った自分らしい仕事

OISTで働き始めて4年がたつが、文系出身の大久保さんにとって科学を広報するのは決して容易なことではない。科学者から渡された研究内容を報道発表しようにも、「難解過ぎてさっぱり分からない」と頭を抱えることもある。それでも、「自分らしい仕事と巡り合えた」と思う気持ちは変わらない。

「中学生の頃、『世界のともだち』という本が大好きで何度も読み返して、世界の国々の生活にあこがれを抱きました。今、OISTという国際的な環境で働いている。自分に合ったことができていると感じています」

広報は「裏方の仕事」と大久保さんは言う。主役は科学者とその研究。自分は科学者と記者を取り持つ仲介者に過ぎないと。

「でも、私がお膳立てしたことで、科学者が懸命に努力して出した研究成果が、記者という言葉のプロの手でかみ砕かれて、分かりやすい形で世間に伝わる。その瞬間、ピカーッと花火のようなものが光ります。光った瞬間、『ああ、よかった!』と思うんです」

まるで夜空に打ち上げられた本物の花火を見ているかのように大久保さんが言った。


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大久保さんが暮らすのはOISTへの通勤の便がよい賃貸マンション。前のベランダからは海、後ろ側からはゴルフ場を一望できる。「海の青とゴルフ場の緑を両方楽しめるこの部屋に満足しています。ペット可物件で猫が飼えたらなおよかったのですが(笑)」


26歳から続けている華道は師範3級の腕前。「花はアンバランスに生けることが多いです。見た瞬間にハッとさせられるものに美を感じます」。上写真手前の花器は自分で制作した


古道具と世界の民芸に囲まれて

大久保さんが幼い頃から好きだったものが二つある。一つは本。図書館で最も多く本を借りた生徒として、小学生時代、何度も表彰された。そしてもう一つは、古い物だ。

「捨てられていた古い自転車を『これすてき』と言って家に持ち帰ったこともあります。趣味が渋くて、年寄りじみた子どもでした(笑)」

古物好きは今も変わらない。リビングに置かれた二つの箪笥(たんす)は、祖父母から譲り受けた古い民芸家具だ。一つは大工道具入れだったもので、ひどく汚れていたのを漆を塗り直したりして生まれ変わらせた。



故郷から持ってきた古道具に合わせるインテリアアイテムは、おとなになって仕事や留学で海外に出るようになってから少しずつ買い集めてきた各国の手工芸品だ。例えば、中国西端の地、カシュガルを旅した時に買った真っ赤なラグ=上写真=や、大学を出た後に2年間仕事で暮らしたチュニジアの陶器=下の陶器が並ぶ写真右端=、沖縄のやちむん。どれも大地の香りがするような素朴な工芸品だ。



「なぜか分からないけれど、民芸的な物に心が引かれます」

幼い頃から海外の文化にあこがれていたという大久保さん。世界の多種多様な文化を愛する気持ちが住まいにも表れていた。


文・写真 馬渕和香(ライター)


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1750号・2019年7月19日紙面から掲載

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