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2019年2月22日更新

犬猫の命守る“エンジェル”|中村吏佐さん(動物愛護団体「ケルビム」代表)

ヤマトンチュの沖縄ライフ『楽園の暮らし方』<vol.09>
沖縄に移住した人たちの「職」と「住」から見えてくる沖縄暮らしのさまざまな形を紹介します。

動物愛護団体「ケルビム」代表
中村吏佐さん


県内の動物愛護団体の先駆け、「ケルビム」代表の中村吏佐さんは、22年にわたって野良動物の保護や里親探しに取り組んできた
 

20年余で1万頭を里親に

「野良動物の捕獲処分については、子どもの頃に親から聞かされて以来、知っていました。けれど、知識として知っているのと、実際に目の当たりにするのとでは大違いでした」

中村吏佐さん(58)は、人生を一変させた20数年前の光景を今でも鮮明に覚えている。

生まれ育った京都から東京に移って数年目、仕事に打ち込み過ぎて疲れてしまった心と体を癒やそうと沖縄に移住した中村さんは、県内のある場所で子犬の捕獲現場に遭遇した。生後半年ぐらいの子犬数匹が、専用の道具で首を引っかけられてトラックの荷台に放り込まれていた。
 

忘れられない目

幼い頃、家で飼っていたチワワを「お兄ちゃん」と呼んで育ったくらい、中村さんは動物好き。子犬たちを引き取ろうと収容先の動物愛護センターに向かった。しかし、犬のかみつき事故が県内で起きたばかりで犬の譲渡はできない、と言われた。ならば猫をと猫の檻をのぞくと、隅の方に人だかりならぬ猫だかりができていた。

「猫たちが怖がって、檻の奥でお団子状態になっていました。手前には弱った猫が1匹、ぐったりと倒れていて、その横で兄弟らしき子猫数匹が鳴いていました。『助けてくれ』と訴えているように聞こえました」

弱った猫など4匹を引き取ってセンターをあとにした。檻に残された猫たちの悲しい運命を思うと、心は晴れなかった。

「あの時助けられなかった猫たちの目、おびえているし、諦めてもいるような目は今でも忘れられません」


保護した犬猫たちのシェルター施設、「アニマルガーデン」。うるま市にあり、毎日午後2時から里親希望者の見学を受け入れている。「週末はボランティアの方も多く来てくれます。犬の散歩や猫の爪切りなど、スタッフだけでは手が回らないので助かります」


猫舎で100匹余りの猫の世話をするのは、ケルビムで働くために沖縄に移住したという熊本県出身の西山佳吾さん。「これだけ数が多いと、健康管理一つ取っても大変ですが、大好きな猫に囲まれているので幸せです」。抱っこしているのは、「すべてがかわいい」というケイちゃん
 

始まりは100頭の保護

それ以降、野良犬や野良猫を見かけると家に連れて帰って面倒をみるようになった。アルバイトの給料はエサ代やトイレの砂代に消えた。犬猫のために働いているみたいだね、と人から言われたりもした。

「あんまり後先を考えない性格で(笑)。でもさすがに100頭にまで増えた時には限界を感じました。拾うばかりでなく引き取ってもらう活動もしよう、と里親の募集を始めました」

那覇のパレットくもじの前で里親会を開いたのは22年前のこと。当時は里親会そのものが沖縄にまだ根付いていなかったから、避妊・去勢をしてから飼ってくださいとお願いしても、「手術するのはかわいそう」、「動物にお金をかけるなんて」といった反応が返ってきた。結局1組も縁組できずに終わった。

「避妊・去勢をしないとどんどん増えて、最後は飼いきれなくなって捨てることにもなりかねません。それをやっていただくのは譲れない条件でした」

それから毎週、里親会を開催。毎年500頭前後、計約1万頭を里親の元に送り出してきた。

「苦労も多いですが、『この子と出会わせてくれてありがとう』、『なくてはならない、家族同然の存在です』と言ってくれる里親さんたちの言葉が励みになっています」


左側が10年前、宜野湾市に開院した「ケルビム動物病院」。右側が里親が決まる件数が一番多い「子猫の部屋」


猫との触れ合いを通して里親縁組への関心を持ってもらえればと、猫カフェ「Nyangusk(ニャングスク)」を運営している。シャンデリアやパステルカラーを使ったインテリアは中村さんがコーディネートした
 

人と動物の楽園を目指し

里親会を始めたのと同じ頃、中村さんは動物愛護団体「ケルビム」を発足させた。非営利で行う活動の柱は動物の保護飼育と里親探し。保護した犬猫を自主運営する施設で飼育する一方、里親会や傘下の猫カフェを通じて里親への譲渡を行っている。また、動物との触れ合いを楽しんでもらうアニマルセラピーの出張サービスなども行っている。

「先日は那覇の中学校で当団体の理事が動物の命の大切さについてお話をしてきました。『私は動物が苦手だけど、命は助けないといけないと思いました』と、ある生徒さんが感想文に書いてくれたのが印象的でした」

22年の歴史を持ち、沖縄の動物愛護団体の草分け的存在であるケルビム。その名前は旧約聖書に登場する天使に由来する。

「エデンの園を守る天使です。人と動物が仲良く暮らす楽園を守護したケルビムのように、私たちも人と動物が平和に共生できる環境作りの一助となりたい」

現在、ケルビムでは犬猫合わせて約500頭を保護している。最近も、アマミノクロウサギなど希少生物の保護のために捕獲された野猫22匹を奄美大島から引き取った。まさに行き場のない犬猫たちの駆け込み寺であり安住の地となっているケルビムだが、中村さんはこう語る。

「ここが安住の地になってほしくはないです。彼らを大切にしてくれる家庭のもとに早く旅立たせてあげたい」

そのために、中村さんは奔走し続ける。


中村さんの自宅は、うるま市内の外国人向け賃貸マンション。「もともと洋風なものが好きなので、とても気に入っています。仕事に出かけない日は家にこもってご機嫌に過ごしています」


家具は県内の家具店で見つけたものが多い。右のキャビネットには、イギリスの猫型ティーポットやフランスの猫の置物など、各国の猫グッズが飾られている


猫のネックレスやブローチを飾った額、猫の刺しゅう入りテーブルマットなど、部屋には「猫じゃないものが少ない(笑)」(中村さん)。水色の箱には、中村さんが描いた猫の絵も。「『中村さんは猫を描くと筆が進むわね』と絵の先生に言われたことがあります(笑)」


一年中ほとんど休みなくケルビムの活動に打ち込む中村さんにとって、息抜きはガーデニング。葉や花の色艶を毎日見て“体調”を確認するという中村さんが丹精込めて育てている植物は、どれも生き生きとしている

文・写真 馬渕和香(ライター)


毎週金曜日発行・週刊タイムス住宅新聞
第1729号・2019年2月22日紙面から掲載

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