コビット19のビッグ・ウェーブ |新城和博のコラム|fun okinawa~ほーむぷらざ~

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COLUMN

新城和博

2020年6月4日更新

コビット19のビッグ・ウェーブ |新城和博のコラム

ごく私的な歳時記Vol.72|首里に引っ越して20年。「ボーダーインク」編集者でライターの新城和博さんが、この20年も振り返りながら、季節の出来事や県産本の話題をつづります。



コビット19のビッグ・ウェーブ

双子の女の子とぼくは、あれからコビット19のビッグ・ウェーブを果敢にライド・オンしてやりすごした。次の波がやってくる間、ぼくたちは、ひとけのない渚(なぎさ)にて、お互い心の距離を保ちながら、コロナビール片手に夕暮れのビーチで沈む夕日をながめていた………………。

新型コロナウイルスの第一波に対する緊急事態宣言にしたがって社会生活を自粛した我らの日々を、1980年代風に書くとこうなる(ということにしておこう)。

実際は、在宅ワークで夕方になるとベランダでビールを飲み、時折健康維持のためのランニングがてら、首里城の城壁沿いから沈む夕日を眺めていたのだが。時間が沈殿するような感覚で日々が過ぎていった。また山下達郎のラジオを聞いている、一週間ってこんなに早くて、でも長いんだ、という風に。

テイクアウト、オンライン飲み会が日常化するころ、沖縄県も緊急事態宣言を解除した。沖縄県民はがんばったと思う。やればできるじゃん。あらん、なとーんどぉー、でぃかちゃん、ぐすーよー! とここは評価して、自分たちをお互い褒めていいのではないか。拍手パチパチパチ。

県内感染者ゼロのネットニュースを確認するたびに、ほのかに生まれた沖縄県民全体の一体感。安くなる本マグロの大トロ、中トロ。県内にこんなにおいしいイタリアン、中華の店があるなんて。歳をとると痩せるのは筋肉からなんだな。がらんとした国際通りを車で走っていたら、バス停ごとに、時間調整のためにハザードランプを点灯しながら停車しているバスという光景をみた。いろんな気づきがあった新型コロナ自粛中であった。

この1カ月、遠出などもちろんできないので、首里の自宅近辺をランニング、散歩していた。大型連休のころから、通りに普通の人出はないものの、夕方、散歩する人が増えた。あの歩かない県民性だったのに。年老いた夫婦が一緒に寄り添いつつ歩く姿をみて、なんだか泣けてきたりした。ずれたマスクを直してあげたかった。自粛中で家庭内DVの問題があるなか、逆に、お互いの健康を心配し仲良くなった夫婦、カップルもいただろう。



休業お知らせの張り紙の写真を撮りつつ、人気の無い首里の町を走った。テイクアウトをする店がどんどん増えてきて、チェックするのが楽しみになった。今年はいつもより遅い時期にテッポウユリが咲き始め、月桃の花もまけずに目立っていた。鳳凰木の燃えるような紅い花も少しずつ咲き、シロツメグサの小さな白い花があっというまに地面を覆った。

人の社会活動が減って、地球環境は明らかによくなったらしい。沖縄はどうだったのだろうか。

 

6月になって初めて首里トレイルランをした。夕方の首里に、健康維持を兼ねた散歩姿の人は少なくなったけれど、学生の姿が戻っていた。ウタキのそばにあるクバの花が咲き始め、甘い香りが漂っている。ふたたび入れるようになった首里城をぬけて、龍譚通りを走ったら、もうひとつの街の香りに気づいた。焼き鳥の香ばしい匂いだ。コビット19のビッグ・ウェーブをライド・オンした居酒屋の明かりがともっていた。



次のビッグ・ウェーブはかならず来るという医学的予見がある。だからこそ、はしゃぐことなく備えていよう心と体、という心境のもと、まだ「とりあえず生」という生活を送れずにいる。でももうすぐ本格的な夏はやってくるのだ。
 

この記事のキュレーター

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新城和博

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ライター/編集者
1963年生まれ、那覇市出身。沖縄の出版社「ボーダーインク」で編集者として数多くの出版物に携わるほか、作詞なども手掛ける。自称「シマーコラムニスト」として、沖縄にまつわるあれこれを書きつづり、著書に「うちあたいの日々」「<太陽雨>の降る街で」「ンバンパッ!おきなわ白書」「道ゆらり」「うっちん党宣言」「僕の沖縄<復帰後>史」などがある。

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